なんでもない土曜日の日記
12月初めの土曜日。
夫は仕事を持ち帰っていて忙しそうだが、私はとくに予定がない。
朝8時、洗濯物を抱えながら外に出た。12月とは思えないくらいに暖かくて、太陽の光が心地いい。
水色の空を見上げてぐーんと首を回すと、ふと視界にお向かいの奥さんの姿が見えた。
庭の立水栓から伸びるホースを、下から2階に上げて、ベランダで窓掃除をしているようだ。
ん?頭に何を?
奥さんはシャンプーキャップをかぶり、髪を全てキャップ内に収めて、グレーのスウェット姿で張り切って掃除をしていた。
少し離れてはいるものの、一直線で結んだみたいにばっちりと、奥さんと目があってしまった。
一応ニコッとお互いに会釈し、恥ずかしそうに、奥さんはベランダの上でしゃがみ込んだ。慌てて私も視線を下げ、洗濯物に集中した。
見てはいけないお姿を見てしまったかな、と思いつつ、奥さんを可愛いな!って思った。
そうか!上着がいらないくらいに暖かくてピンと来なったが、もう12月、師走だ。
偉ーい!ちゃんと計画的に大掃除を始めていて、奥さん偉い!
よし!うちも少しずつやるぞ!と思った。
朝食の片付けを済ませてリビングに行くと、二女はまだベッドで爆睡中だった。
夫はパソコンの前で仕事中。ちょうどいい、夫に娘を見ててもらえると思い、どこか1箇所だけでも大掃除をすることにした。
けれど、私も窓を掃除し始めたら、お向かいさんの真似してるみたいでちょっと恥ずかしいので、とりあえずキッチンの換気扇やガスコンロの掃除をすることに決めた。
ゴム手袋をはめ、換気扇からドラムを外し、歯ブラシやメラミンスポンジでゴシゴシ、ゴシゴシ。
ガスコンロのあたりも、年季ものだし磨いてもピカピカにはならないが、洗剤をつけ、キュッキュッと張り切ってこすり、油汚れや埃が取れてきれいになった。
気分もスッキリ!もうこれで、来年までガスコンロを使いたくないような気持ちだ。
ついでにシンクまわりや排水溝の奥も磨き、今日の大掃除はおしまい。
昼ごはんに肉うどんを作り、早速ガスコンロに汁をこぼした。すぐに拭き拭き。普段からこの小まめな習慣が自分に欲しい。
ネギをモリモリに入れて夫と食べようとしたら、玄関のチャイムが鳴った。
扉を開けると、夫の叔父がニコニコしながら立っていた。
80歳になる叔父は串カツ作りの名人だ。現在、奥さまが入院している。
先週、夫が奥さまのお見舞いに行ったので、そのお礼に、大量に串カツを揚げて我が家へ持ってきてくれたのだ。
30本もあって2人では食べきれないので、長女の家へお裾分けを持っていくことにした。
持って行きたがる夫を制して、私は孫に会いたくて、張り切って串カツを持ってうちを出た。
途中、人気のパン屋さんで塩パンを買い、パンも持って長女の家まで行くと、親子3人が玄関で出迎えてくれた。
私が孫を抱っこしたら、孫は脚をぴょんぴょんして喜んでくれて、「ちょー可愛い!ちょー天使!」って思った。
連れて帰りたいのを我慢して、孫をパパにお返しした。
あぁ、赤ちゃんっていい匂い。
あぁ、10歳若返った気持ち。
帰宅したらまだ夫は仕事のきりがつかないようだったので、二女をもう少しだけ夫に頼んで、私は散歩に出た。
いつも歩く川沿いは、土手の草が茶色になっていて殺風景なので、久しぶりに団地の中を歩いてみた。
そこで、12月とは思えない植物を探そうと思った。
暖か過ぎて夏の花がまだちらほらと残っていたが、パンジーやビオラに植え替えられた花壇や、紅葉がきれいなお庭、少しだけ実を残した柿など、長かった夏から急に冬へと、季節が進んでいるのを色で感じた。
途中、犬を散歩中のイギリス人のご近所おじさんとばったり会った。彼は、長女の友だちのパパだ。
私は犬にズボンの膝あたりをペロペロされながら、彼からイギリスの子育て論を10分くらい熱く語ってもらった。
「日本は子どもに甘いよ。」と彼は何度も繰り返していたけど、彼がご近所のなかで一番の子煩悩なパパだと、近所の人たちは全員思っている。
帰宅した私と交代して、夫が外出したので、私は二女の横で束の間の幸せまったりタイムをしてから、夕飯を作ることにした。
翌日、息子が家にちょっと寄ってくれることになっていた。だから彼におかずを持ち帰らせるために、おでんやきんぴら、胡麻和えなど、体に優しい和のものをいくつか作った。
息子が食べる顔を思い浮かべながら。
夜、お風呂タイムが終わり、ちょっとのんびりしていて、二女が誕生日プレゼントにもらった金箔入りシートマスクを取り出してみた。
ちょうど3枚入りだったので、二女と私と夫で顔に貼り付けてみることにした。
先日、二女は27歳になった。
従姉妹や恩師、友人たちからもらったプレゼントは全部美容系グッズで、やっぱり女子女子したものを皆さま、選んでくださるんだなと思った。
忘れずに毎年、お祝いしてもらえて、ほんとにありがたい。
冷たいシートマスクを貼った白い顔が3つ並ぶ。可笑しくてスマホで自撮りして遊んだ。
二女はマスクしてもめちゃくちゃ可愛いが、夫がブサイク過ぎて、シートマスクがくしゃくしゃになるくらいに私は笑った。
なんてことない週末だったけど、まわりの人のおかげで、なかなか刺激的な日になった。
キッチンの一部は新年を迎える準備ができたし。
叔父の串カツは美味しかったし。
孫はおそらく、ママパパの次に私が好きだし。
二女は鼻の先に金箔をつけたまま眠っているし。
よかったよかった。
おしまい。