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思い返せば、あれは旅行でした

何年ぶりだろう、二女と長男を車に乗せて、3人でお出かけするのは。


先月末のこと。

「バイトは休みだし、明日は特に予定がないよ。」という夏休み中の息子に、二女の病院の付き添いを頼んでみたら、二つ返事でOK。ただ

「診察や訓練には付き添わずに、俺はロビーで待ってるから。」

とのこと。
それで母は充分。車から車椅子を降ろす手伝いを、彼にやってほしいのだ。


前と後ろを外してコンパクトにしても、かなり大きいストレッチャー型の娘の車椅子。我が家の車は福祉車両ではないのでスロープがなくて、ひとりではおろせない。




現在、二女のゆうは2つの病院に定期通院している。遠方の大学病院へは夫と一緒に行くのだが、車で40分の国立病院へは私ひとりで娘を連れて行く。
車椅子を上げ下ろしするために、娘をひとり残して看護師さんを中まで呼びに行かなくてはならないのが、ひとりで連れ出す通院の唯一の困りごとだ。

だから誰かに付き添ってもらえると、とても助かる。

車椅子を押す息子を隠し撮り。バレて「まさか?」の顔をされた。はい、使ってます。




病院からの帰りの車の中で、二女の通院の思い出を息子に話していた。

小さい頃の二女は、県外の病院も含めて6つの病院へ定期的に通っていた。夫はなかなか休めない仕事なので、当時はすべて、私ひとりでそれをこなしていた。通院以外の日は、特別支援学校へも私が送迎していた。

息子は二女より6歳年下だ。彼が2歳になって保育園に入るまでは、娘の通院や送迎に、ずっと彼を一緒に連れて行っていた。


今から15年以上も前の話だから、息子はその頃のドライブ生活をあまり覚えていないらしい。



*****

二女が赤ちゃんから中学生までの15年間、整形の診察やリハビリ、車椅子作成のために、県外の大きな病院へ毎月通っていた。そこは高速道路を使っても我が家から1時間以上はかかってしまう場所だ。


その病院に行く日は、前の日から憂鬱だった。子どもたち2人に泣かれるドライブになることがわかっていたからだ。


特製のカーシートを助手席に取り付けてあるので、二女はそこへ座らせ、息子は二女の真後ろに取り付けてあるチャイルドシートに座らせる。
2人を気にしながら高速道路を走ることは、かなり神経を使った。


病院に着くと、車椅子とベビーカーを車から降ろして2人を順番に乗せ、大きなカバンをそれぞれにぶら下げて、2台を一人で押していく。
診察は、必ず長い時間待たされた。
2人がぐずりだしたり、1人ずつ水分を飲ませたり、2人を連れてオムツを換えに行ったり。

息子がちょろちょろし始めると、待合室では彼に目が離せない。でも、二女を放っておけない。
おもちゃやおやつで気をひいても、それを振り切って廊下を這いずり回る息子を、「はいはい、好きにやってて」と、眺めるしかなかった。

娘のリハビリ中は、先生に娘を任せて私は息子と遊んでいられたので、少しの間安心の休憩タイム。


帰り道はまた、お腹が空いた2人が泣きわめく。病院では、それぞれを食べさせる時間もスペースもなく、飲み物を少しずつ飲ませるくらいしかできなかった。

高速道路に入ったら、私ひとりではどうすることもできない。2人の機嫌をとるため「おかあさんといっしょ」のCDに合わせて歌いまくり、子どもたちを励まし続けた。

当然、泣き止まない。
私まで半べそだった。


帰宅すると、遅めの昼ごはんを順番に食べさせる。息子がひとりでつまんで食べられるようになるまでは、どちらかを待たせるしなかったので、その頃が最も困った時期だった。

哺乳瓶を息子に持たせてひとりでミルクを飲ませ、寝転んで待つ娘のご飯を用意する。
眠くて泣き叫ぶ息子をおんぶしながら、娘を抱っこして、ペースト状のご飯を食べさせた。


前にも後ろにも、子どもの重みがずっしりの30分。(二女は抱っこしながら食べさせていたのですが、飲み込むのが下手で、食べるには時間がかかりました。)


部屋は朝のままでぐしゃぐしゃ。
荷物はそのまま。
息子は涙の跡と鼻水で顔がグショグショになりながら背中で眠っていく。

疲れ果てた2人を昼寝させると、私はやっと何かを口に放り込んでお腹を少し満たす。
2人が寝てる間に、後片付けや家事にとりかかる。


私も若かったのだろう、なんとか乗り切っていたのだから。
小さなお子様がいる世の中の親も、きっと同じような経験をされているんじゃないかな、と思う。




遅くに帰宅した夫が、「無事に行けたんか?」と呑気のんきな顔で訊いてくる。
無事なわけがないし、身体はボロボロで心もクタクタだ。

「もう、大変だったんだから」から、せきを切ったように、私はその日の珍道中をいつも夫に話していた。



ある夜、夫はいつもように私の通院ドタバタ話を聞いて、笑いながら言った。


「いいなぁ、子どもたちと旅行ができて。」


「は?旅行?めっちゃ大変やったんやけど、何を言ってるの?ひとりでやってみたらいいわ!」

あの悲惨な通院タイムを美化しすぎる夫の言動には、やっぱり納得できなかった。
おそらく私の顔が般若になっていたんだろう。
すると、私の怒りを察して、夫がさらに言う。


「でも、俺はひとりでは無理やな。おまえはすごいと思う。」


この夫の付け足しが、不思議なくらいに私の気持ちを軽くした。
いったんは腹が立った夫の言葉が、すーっと素直に受け止められる。


そうか、旅行かぁ。
大好きな子どもたちと旅行に行けたと考えたら、なんだか幸せな気分になれる。


私は単純だ。
でもおそらく世の中の奥様って、そんな夫の褒め言葉ひとつで、気分がとってもハッピーになれるものだと思う。

その後も通院のたびに大変なことはたくさんあったが、「これは旅行」と思うことで気持ちが少し上向きになれた。




*****

そんな話を私から聞いた息子は、「ふっ、父さんらしいな。」と軽く鼻で笑っていた。

息子はそれから、めずらしくたくさん、学校のことや将来のことを話してくれた。車の中だと、こんなにゆっくり話せるんだなぁと、ふっと嬉しくなる。
運転席の後ろから聞こえる弟の声に、助手席のゆうもずっと笑顔だった。

病院からの帰り道に誰も泣いてないのは、もう当たり前なんだけど、じわっと感動してしまった。



家に着くと、彼は重い荷物をすべて家の中まで運んでくれた。
私の背中で泣いていた息子が、こんなにしっかり助けてくれるようになったんだなぁと、ひとりでまたしみじみとした。

「なぁ、おんぶしたろか?」

と息子に言ってみる。

「母さん、わかったから、ご飯にしよか。」

だよね。



今回の通院も、私にはやっぱり良き旅行でした。








最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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