どうしても、それが欲しかったのです
幼い頃の息子は、ヘッダーのマスコットにそっくりだった。顔は「キューピー」で、頭のかたちが「子泣きじじい」。
「キューピー人形」と「子泣きじじい」のコラボ商品が出たとき、息子がモデルかと思った。
そしてこの首振り人形が欲しくて欲しくて、私は手に入れるまでにあの手この手で奮闘することになる。
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出会い
そう、出会いはコンビニ。
二女がまだ特別支援学校の中学部に通っていた頃なので、今から10年くらい前の話です。
娘を学校に迎えに行くには少し早すぎたので、時間を潰そうと学校の近くのコンビニに寄った。
そこでたまたま「ゲゲゲの鬼太郎」と「キューピー」のコラボ企画のマスコット人形を見つけた。
何気なく箱を手に取ってみると8種類の人形の写真が載っていて、中身は買って開けなければわからない「シークレット」のものだとわかった。たしか、値段は300円から400円だった。
8種類のなかの「子泣きじじいバージョン」を見て胸が高鳴った。
息子だ。
めちゃくちゃ可愛い。
欲しい!欲しい!これが欲しい!
「連れて帰らなくては!」と思った。
こんな買い物はビックリマンチョコ以来だ。手汗が出るくらいに緊張が走る。
悩んだ末に3個手に取り、なぜだか悪いことをしている気持ちで箱を持ってコソコソとレジへ向かった。
人生で初めての大人買いっぽい買い物。
もうシークレットの品物は買わないでおこう、と衝動買いしたことを反省しつつ、3個だけだからいいかな、と自分を納得させた。
ところが、それだけでは終わらなかった。
それからも、全く同じ大人買いを立て続けに数回繰り返してしまった。
毎回激しい葛藤を繰り返し、誘惑に負ける。
なんとか「鬼太郎」と「ぬりかべ」の新入りはゲットしたのだが、「砂かけばばあ」と「一反もめん」の出没率が高くて、「ネコ娘」と「目玉おやじ」と「子泣きじじい」は出てきてくれない。
結局、コンビニにあったものを全部買ってしまった。おそらく12個は買っている。
全部買っても揃わないなんて、コンビニにもちょっと腹が立ってしまった。まぁ、それはシークレットだから当たり前なんだけど。
他のコンビニに行くことはやめておいた。
頑張ったのに、とうとう目的の子泣きじじいには出会えなかった。
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再会
あきらめてかけていた頃、二女が通院している病院の窓口にちょこんと置かれた「子泣きじじいキューピーちゃん」に出会ってしまった。
憧れ続けた子が、健気かつ無防備に、まるで「誰かの忘れ物」みたいに受付のひんやりした台の上で佇んでいた。
あまりに可愛くて、ついつい手に取ってしまう。首振り人形なので、ぷらぷらと頭をつついてひとしきり遊んだ。
「可愛いですね。これ、息子に似ていて。」から、なんどもチャレンジして当たらなかったことを、聞かれもしないのに窓口のお姉さんに話してしまった。
この人形は、ある医師がたまたまコンビニで買って、ふらっと置いていったものだとわかった。
無欲の人には「当たり」が出るものだ。
それから月に一度の診察の度に、人形が無くなっていないのを確かめながら
「可愛いですよね。」
をお姉さんに言い続けた。
4ヶ月くらい経った時、ふと、あるアイデアが浮かんだ。
うちにいる人形のなかで、2個以上あるものを持って行って、一緒に飾ってもらおう。そうしたら、なんだかますます可愛いんじゃないかな、と。
次の診察では「一反もめん」と「砂かけばばあ」と「ねずみ男」を持って病院に行き
「仲間を連れてきました。一緒にここに置かせてくださいね。」
と、事務のお姉さんに言ってから、子泣きじじいのまわりに彼らを並べてみた。
お姉さんも好反応!
可愛い、可愛いと、喜んでくださる。
賑やかな受付になって、息子(子泣きじじい)が寂しくないような気持ちがした。
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ようこそ、ここへ。遊ぼうよ
そして次の診察の日、ミラクルが起こる。
「これ、どうぞ。先生が、差し上げてくださいっておっしゃって。」
その言葉と一緒に、子泣きじじいキューピーちゃんがお姉さんから私の手に渡る。
「いいんですか!ほんとにいいんですか!嬉しいです!ありがとうございます!」と、なんの遠慮もせずに、私は息子のミニチュアのような子泣きちゃんをミニタオルに包んで持ち帰ってきた。
けして私の作戦ではなく、あくまでも先生のご厚意でのこと、のはず。
でも、自分の知恵についついほくそ笑む。
アピール勝ちだ。
結果的に二軍の3個と一軍の1個を取り替える「ポケモンカード交換作戦」になってしまった。
あかん、あかんけど、めちゃくちゃ嬉しい!
こうして私は、可愛い子泣きじじいキューピーちゃんを手中に収めた。
「キューピー&子泣きじじいグッズ」にハマり、ついでにオリジナルの「子泣きじじい」まで好きになった。
しかし冷静になると、おじいさん顔の子泣きじじいはあんまり可愛くないな、と思ったりもした。
コラボが終わると、子泣き熱もスルスルと冷めてしまった。
苦労して我が家にやって来た「チーム鬼太郎&キューピー」は、子泣きじじいをセンターに今も可愛く並んで、私に幼い頃の息子を思い出させてくれている。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。