正しくない珈琲の嗜み方
「あの新しいおしゃれなパスタのお店に行ってみようよ!」
ママ友4人、たまたま全員都合がついたので、予約しておいたパスタの店に集合することになった。
完全個室のお店で、大袈裟な色彩の外観が目を引く。
できたばかりの時は、若い女性客でかなり混んでいたが、ようやく適度な混み具合になってきたので、私たち熟年世代も行ってみることにしたのだ。
店内は天井が高く、グリーンを基調としたすっきりした雰囲気で、席がすべてビロビロしたカーテンで個室状態になっている。
「私はトイレが近いから入り口の方がいい」とか
「メニュー表を見ても頼み方がわからない」とか
個室でよかったなって思うくらいに誰かしらが何かしらのおしゃべりしていて、4人の嬉しい気持ちが部屋に充満していた。
かなり洒落たお店だけあって、なかなかお値段もお高め。
庶民の代表集団みたいな私たちは、その値段にビビって、ちょっと躊躇した。
いつもなら何かしらのデザートも注文するが、この日はお得なランチセットがない週末だったので、パスタとドリンクバーだけにして、後から食べられそうならデザートも注文しよう、って話になった。
ありがたいことに、ドリンクバーが席からめちゃくちゃ近い。
「とりあえず、ジュースとお茶を持って来ようか!」って、ドリンクバーコーナーへ行くが、ドリンクバーさえもおしゃれ過ぎてわけがわからない。
店員さんにどこのどれをどうしたらいいのか教わって、それでも右往左往した後、それぞれが両手にグラスを持って自分たちの席へ順番に戻った。
みんなの様子を見て、私は一番最後に、とりあえずグレープフルーツジュースと、葉っぱがいっぱい浮いていたレモンの香りのおしゃれな水を選んだ。
みんな浮かれ過ぎて、完全にストローを見落としていたようなので、みんなの分の赤や緑のカラフルなストローを持って、賑やかな席に着いた。
しばらくして、パスタと小さなサラダがやってきた。思いがけずサラダもついていて、しかもパスタが想像以上にボリューミーでびっくりした。
私は牛肉の何やらっていう、覚えられないくらいに長い名前のパスタにしたのだが、すき焼きの味がして「なるほど、和洋折衷だなぁ」と思った。
食べる時だけは静かに集中していた私たちは、あっという間に美味しいお料理を平らげた。
お腹がすでに苦しい。
おしゃべりを再開しながら、手持ち無沙汰で飲み物を何度か取りに行き、最終的に熱い珈琲を飲みながら、ちょっと甘いものが食べたいよね、って話になった。
しかしお腹はいっぱい。
メニューに載っているきれいなデザートたちはかなり豪華で、わざわざ食べたい気持ちにならない。
ポッキーが5本くらいがあればちょうどいいのに、っていう程度のお口とお腹の塩梅だ。
デザートをシェアして食べるのも面倒な気がして、今日はもういいか!ってことになった。
するとひとりがあたたかい抹茶オーレを持ってきて、
「抹茶オーレをケーキ代わりに珈琲を飲むのもアリやわ。」
って、抹茶オーレと珈琲を交互に飲み出した。
当然、みんなが抹茶オーレを取りに行って、彼女の真似をする。
アリやね!
うん、これもアリやね!
って言いつつ、私は「これは無いな」と思いながら、チャプチャプのお腹が苦しくて、飲むことをいったんお休みした。
甘さ的にはアリでも、水分ばっかりを摂取するのはしんどい。
当然、抹茶オーレより抹茶ケーキの方がいいし、そもそも珈琲のお供は固形物がいい。
みんなも、交互飲みは一口ずつだけで終了していた。
やっぱり抹茶オーレは珈琲のお供にはならないようだ。
まるで子どもの遊び事のように、50代の私たちは飲み物で遊んでしまった。
そんなこんなで、皆々がトイレに数回通いながら、ひとり7、8杯くらいは何かしらを飲んだ。
4人でかぁるく30杯越え。
テーブルの上はコップだらけだ。
空いた皿やコップを回収に来た店員のお姉さんが、カーテンを開けたとたん、ギョッとした表情をした。
いい歳をしてやりすぎたな、って恥ずかしい気持ちになり、「コップをたくさん使ってごめんなさい」って言ったら、店員さんが「いえいえ、いいですよ!」と、ニコッて優しく笑ってくれたので、少し気持ちが楽になった。
店員さんが雰囲気の良い人でよかった。
やっぱり私たちは、エンドレスにパンをおかわりできるような、そんな庶民的なお店がピッタリだと思った。
今回はたった3時間だけの滞在。
話し過ぎても全く喉が渇くこともなく、楽しくおしゃべりできて、いい時間だった。
しかし、お店にとってはちょっと迷惑なお客さんだったかなぁと反省した。
自分で使ったコップを洗いたいくらいだ。
お詫びに、次はデザートもセットになっている平日ランチを目指して、また4人であの店へ行きたいな、と思う。