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文学トリマー #毎週ショートショートnote

私は憧れの文学トリマーになった。毎日新しい文学と出会い、毎日店の客と語り合った。

ある日、店に恰幅のいい男が来た。
上質なスーツを着ているが、立派な腹がシャツのボタンを弾き飛ばしそうだ。

「ここは素晴らしい。本物が揃っている」
「ありがとうございます」

いつもは接客をしない店長が丁寧に頭を下げた。

「近頃の文学は粗悪品が多い。品性を疑う」男は嫌悪感を露わにする。

「下等な輩に本物の文学はわかるまい」
「仰る通りです。お客様は本物の目をお持ちでいらっしゃる。本日は特別なお品をご紹介しますよ」

オーナーに導かれ、男はVIPルームへと姿を消した。

誰もが楽しいと思う文学を守る、そんな文学トリマーになりたかった。
なろうでもラノベでも、きっと文学なのだろう。

私はすぐ店を辞めた。
今はバイトで食い繋ぎ、休日に読書をするのがささやかな楽しみだ。

今はノーベル文学賞の文学を読んでいる。
正直、他の文学には興味がない。
私が好きなものは崇高な文学のみだ。

(410字)


お久しぶりに参加させていただきます。
たらはかにさんの毎週ショートショートnoteです。
よろしくお願いします。


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