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悪魔が来たりて…

ぼくは踊った。
いや、踊っていた。

背中に羽根が生えたように体は軽くなり

腕が、胸が、背骨が持ち上がっていく。

雲を踏むようにステップが止まらない。

口角までもが不自然に持ち上がってきた。

涙と涎と、沢山の鼻水が止まらない。

頭の中にはこれでもかと警鐘が鳴り響く。

これは良くない、体と頭の自由が利かない。

だが痺れ。全身を覆う甘い痺れ。

委ねたい。ダイブしたい。快楽の海へ。

だめだ。まだだ。あと一息。

自制心を総動員させて、啜る。

悪魔のように熱く、黒いそれを…

ああ…ああ!!



「夫くん、めっちゃ踊ってたね」

悪魔のトーストという食べ物をご存じだろうか。

トーストの上にマーガリンやバターやチーズや
卵やマヨネーズやベーコンなどを悪魔のように
乗せまくってオーブンで焼き上げる料理である。

レシピはその家庭によって少々異なるが
共通しているのが「悪魔的なカロリー」
毎日食そうものなら成人病待ったなしだ。

だが、ハイカロリーな食品はウマい。
美味しさは脂肪と糖で出来ている
どこぞの賢者が言ったがあれは真理。

私たち夫婦は半年に一回くらいのペースで
この悪魔のトーストを無性に食べたくなる。
そして先日それをまた食べたというワケだ。
(タイトルの画像がそれです)

ちなみに私はとある特異体質を持っている。
あまりにも美味しいモノを食してしまうと
身体が勝手に踊りだしてしまうというもの。

ウチの嫁様の料理はどれもこれも規格外で
ほとんど毎回、私は小躍りしているのだが
今回はさすが悪魔。破壊力が桁違いだった。

一気に脳がやられた。
中枢神経の機能を根こそぎ持っていかれた。
爆速で上がる血糖値に身体が追い付かない。

ふらふら、だ。くらくら、とも言う。

腔内でカロリーと幸せを混ぜた爆発が起きる。
そこに間髪入れず注ぎ込む、淹れたての珈琲。
美味さと美味さの相乗効果が天文学的破壊力。

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

「怖い怖い、夫くん怖いよ。目がキマッてる」

なんということだ。
悪魔のトーストを食べ終えたというのに
余韻が終わらない。
止めどなく快楽物質が出続けている。
こんな事態は初めてだ…。

私はテーブルに突っ伏して
快楽の波が去るのをただ待つ。ただ待つ。

途中で嫁様が作った
野菜ゴロゴロスープを食しつつ、待つ。
(美味い!)

珈琲も啜る。
(美味い!)

…ふう。

その日は一日中
チクチクした胃の不快感と
全身の倦怠感が治まらなかった。

・・・

「胃もたれだね」

私の胃袋はもう若くない。

おのれぇ、悪魔め。

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