見出し画像

キムチをつくるよ

「キムチをつくるよ」


今、なんて?

「だから、わたし、キムチをつくるよ」

??
キムチの素とか、使って作るの?

「ううん。一からキムチをつくるの」

???
……なぜ?

「わたしがキムチをつくりたいから」

・・・

嫁様はたまに突飛なことを言う。

キムチ?
どうしてキムチなのだろう?
そりゃあ、私はキムチが好きだ。
特に市販品のこくうまキムチ
他の追随を許さないレベルで大好きだ。

また、桃屋のキムチの素で食べる漬物は
病みつきになるほど美味しく感じる。

…そうだよ。
市販品で充分美味しいじゃないか。キムチは。

以前に何度か、いただきものの
「手作りキムチ」なるものを
口に入れたことがあるが…ううん。
「手作り」という部分が引っかかったのか
私の口には合わなかった。

私が思うに、日本は食の進化が著しい国。
市販品が、廉価品が、どれも素晴らしい。
値段以上の味を備えているものばかりだ。
オートメーション万歳。
食品メーカー様様である。

極端なことを言ってしまうと
たとえ料理のスキルがなくても
日本で美味しいモノを食べようと思ったら
そのほとんどがお金で解決できてしまう。

私自身、経験があることだが
よしんば料理に熱を入れて作ったとしても
それを食べてくれた人が「美味しい」と
感想を述べてくれる保証はどこにもない。

いや、むしろ料理に対して感想を言う人はまれ
料理漫画のような超オーバーリアクションなど
現実にありえないことは分かっている。

腹を満たすもの。

多くの人にとって料理の位置づけとは
そのくらいのモノではないか。

私のように食べることが大好きで、一喜一憂して
美味しさの感動を誰彼構わず語りたくなる人は
相当に少ないというのは分かっている。

しかし、私は感想が欲しいのだ。
「最高で完璧で100点満点」とまではいかずとも
「ここが美味しい」という言葉が欲しい。
できることなら言い合いたい。語り合いたい。
私が料理に求めるのは味だけではない。
食べた後の感想会まで欲しい。
私は欲張りなのかもしれない。

・・・

うむむ、話が脱線してしまった。
キムチの話ですね。

キムチを作ると決めた嫁様の行動は
とても早かったのです。

立派な白菜を用意して漬物を作りつつ
同時進行でキムチの素みたいなものを
これまたこしらえていた。
どこでそんな作り方を習ったのだろう?

「え、YouTubeだよ」

こともなげに言ってのけるウチの嫁様は
贔屓目抜きにしても天才だと思う。

料理の動画を見て「美味しそう!」と思ったら
次の日には再現してくれることがよくあるし
外食で食べた料理も「これ作れそう」と言って
似たような味を自宅で再現してくれたりする。

いやそうはならんだろ。

動画見ただけじゃ作れないって。
外食食べただけじゃ再現できないって。
そもそも「作れそう!」なんて思わないって。

マジでこの嫁様は何者なんだろう。
それとも世の料理人と称される人たちは
みんなこのような特殊スキルを持っているの?
鋭敏な味覚と発想力、再現力を備えているの?
だとしたら私がいかに凡人か思い知らされる。

…おっと、キムチ。キムチの話ね。

そんなこんなで約二日後。
パンパカパーンという派手な
ファンファーレ(幻聴)と共に
嫁様のキムチは完成したのである。

「ふーむ、ちょっと辛いかも」

眉をひそめる嫁様を見ながら私も試食。
こ、これは…!
辛すぎぃいぃい!?

辛さ大好きな私の舌を余裕で貫くスコヴィル値。
(注:スコヴィル値とは唐辛子の辛さの単位)
そういえば粉末状の唐辛子を千円分以上
購入していたような…あれ全部入れたのか。

「おかしいね、レシピ通りに作ったのになぁ」

首をかしげならパクパクとキムチを食す嫁様。
ちなみに嫁様の辛さ耐性は私より遥かに高い。
余談だけど私は
辛いものを一緒に食べてくれる人が大好きだ。

「ふぅむ、一晩寝かせてみようか」

嫁様の提案により激辛キムチを一晩冷蔵庫へ。
次の日にもう一度試してみると…
こ、これはあああああ!?!?

ウマいぃ!!!!!美味すぎるぅぅうう!!!!

かつてこんなに美味しいキムチがあったか?
いやない!
驚くべきことに、いや本当に凄いことに
今まで食べたことないくらい美味しいキムチ!
なんなのだこれは、味がまろやかになっている!
後味は確かに辛い!多少薄まったけど辛いよ。
でも辛さを置き去りにするほどの旨味!
こんなにも味が変化しちゃうの?凄いよ料理!
凄いよ嫁様、アンタやっぱり天才だ!
ひー辛い!ひー旨い!

「やー、めっちゃ美味しくなったね」

嫁様もニコニコ顔でご満悦である。

しかもこのキムチ、白菜まるまる一玉使って
作っているので、まだまだたーんとある。
しばらく最高のキムチを頂けるという贅沢。
年末には来客もあるのでもってこいの代物だ。
なんて素晴らしいモノを作ってくれたのか!

珈琲次郎は手作りキムチが大好きです。
(手のひらクルクル)


いいなと思ったら応援しよう!