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頭の回転の

私は頭の回転が遅い方だ。

たとえば知人と会話をしているとき
ふいに意見を求められることがある。

そんなとき、決まって私は固まってしまう。
即座に気の利いた返答をすることもあるけど
それは会話の流れで先が読めたとき。
(こういった質問が来るのではないか?)と
予想がついたときだ。

しかしそんな状況はほとんど来ない。
予想外の質問をされてしまうと、私は
会社の倉庫に眠る旧式のハードディスクのように
カリカリカリとひどく緩慢な機械に成り果てる。
脳内処理が追いつかない、圧倒的無能感。

相手の質問から数秒の時を経て
ようやく私の中でベストアンサーが出るが
もう後の祭り。
会話の話題はとっくに次に移ってしまっている。
…こういったことを幾度となく経験してきた。

私は一時期、学生の頃
こんな自分の頭の回転の鈍さを呪っていた。

「どうしてパッと答えられないのだ!」
「備えが足りないのだ!経験不足だ!」
「テレビの芸人を見よ!あの瞬発力!」

こんなことを自分に言い聞かせていた。
自分で自分を責め立てていたのである。

私は、相手の問いに対して瞬時に
気の利いた返しができる人に憧れていたのだ。

・・・

しかし現在の私は
頭の回転が遅くて良かったと思っている
これは強がりでも何でもなく、本心だ。

というもの、もともと、頭の回転というものは
「早い」タイプと
「遅い」タイプが
それぞれ存在するのである。

これはどちらが優れているというわけではなく
どちらも優れた特性がある。

たとえば頭の回転が「早い」タイプは
ほとんど反射のような早さで意思決定が出来る。
素早く判断し、かつ効率的に結論に辿り着ける。
災害などの不測の緊急事態で活躍できる能力だ。

また、このタイプは対話にも強い。
不測の事態にも柔軟に対応する能力があるため
予想外の質問にもパッ!と答えることができる。
会議でも優秀なレスポンス能力で活躍できるし
基本的に他者とのやり取りがスムーズで円滑だ。

一方頭の回転が「遅い」タイプも強い。
物事を深く考えてから言葉にできる強みがある。
これは長期的な戦略立案に優れているといえる。
“反射”ではなく“思考”のプロセスを経由する為
複雑な問題にクリティカルな回答が期待できる。

落ち着き、体制が整ってから行動を起こすので
周りにドーンと安心感を与えるのも大きな利点。
あまり急がないためケアレスミス自体が少ない。
これは慎重を要する場面に向いているといえる。

このように頭の回転の「早い」も「遅い」も
それぞれ違った良さがある。

そして、よくよく考えたら私は「遅い」ほうが
自分にとって望ましいことに気が付いたのだ。

そもそも、私は人との会話が大好き。
会話はとても楽しいものだと思っている。
生きている限り会話を楽しみ尽くしたい。

相手の言葉を吟味するように受け止めて
時には共感し、時には反発したい。
素早くアンサーを出すのは少しもったいない。

だから会話を楽しむなら、やはり物事を
深く考えられる方が「向いている」と思う。

それに、文章を書くのだって向いている。
頭の中で書いた文章のリズムを反芻するのは
とっても楽しい。
時間をかけて文章を書くという贅沢。
ピタリと当てはまるワードを閃いた時の喜び。
最高に楽しい。

そして何より頭の回転が「遅い」タイプでも
瞬時のレスポンスが可能なのがデカい。

先ほども述べたが「予測」機能をフルに使えば
相手の刃に合わせて切り返すことも夢ではない。
もちろん、それ相応の予備知識…
つまり常に物事を学ぶ姿勢が求められるが。

私がネット上でよく見る『回答者』は超人だ。
質問へのアンサーが驚くほど早い上に
芯を食っていて的確。更には自分の価値観を
乗せた回答をしている。
どれだけの経験と知識を蓄えたらこうなるのか。
私には頭の回転の「早さ」と「遅さ」の
いいとこ取りをしているように見える。

やっぱり私は、相手の問いに対して
瞬時に気の利いた返しができる人に
いまだに憧れているのかもしれない。


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