サウナの扉
「じゃあ二時間後に」
知っている人は知っているかもしれないけど
ぼくたち夫婦は揃ってサウナ好き。
広~いお風呂も好き。変わり風呂も好き。
これらを全部いっぺんに楽しめるスーパー銭湯が
このうえなく大好きなのである。
今日もきょうとてスーパー銭湯へ繰り出す。
常連となりつつあるぼくたちは回数券を使って
浴室への暖簾を小粋にくぐりぬけるのであった。
・・・
今日こそ新しい扉を開ける気がする!
今日のぼくは予感がしていた。
サウナをある程度嗜む人なら分かるだろうけど
サウナ室→水風呂→外気浴
これらをローテーションすることによって
恍惚の域に達することがままある。
(この域に行くことを“ととのう”と言う)
今日のぼくはコンディションが良かった。
体調良し、精神状態良し、疲れ具合良し。
サウナの恩恵を受けるにはもってこいだ。
極上なる“ととのい”が来てくれるのではないか。
新しい扉がばばーんと開いちゃうのではないか。
そんな予感がぼくの全身を駆け巡っていたのだ。
・・・
それは唐突にやってきた。
サウナローテーション、2セット目のこと。
新記録ともなる20分のサウナに耐えたぼくは
汗を流して水風呂に肩までどっぷり浸かる。
来た…!
夜中、金縛りが来る予感のように「それ」は
ぼくの脳みそをがんがん叩いて警告してきた。
来るぞ!もっとだ!デカいのがやってくるぞぉ!
みなさんは波の出るプールに
入ったことがあるだろうか。
水の中に入ったまま体感する「波」は
プールサイドで見ている以上に
全身の自由を奪い、翻弄してくれる。
人工的に作る波ですら、これなのだ。
嵐で荒れ狂う海の中に放り込まれたなら
助かる人間なんて絶対にいない。
そう確信できるくらいの説得力があった。
何を言いたいのかっていうと
ぼくの脳みそが荒れ狂ったってこと。
ぼく史上最大最強の暴風雨。
快感の波状攻撃が止めどなく襲ってきた。
う゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛
今日が比較的空いてる日で良かった。
幸いなことに今この瞬間、水風呂にはぼく一人。
ちょっと想像してみてほしい。
平日賑わうスーパー銭湯。かぽーん。
どこからともなく聞こえてくる奇声。
水風呂コーナーを見ると、おお!
焦点を失った目、半開きの口という
ヤバめのビジュアル(しかも全裸)の男が
ビクンビクンとおかしな動きをしているのだ。
いやあ、お恥ずかしいけど
声を出さずにはいられない。それほどの恍惚。
しかも!その状態が終わらない。
体感2分くらいは続いていたような感覚。
さすがにぼくも怖くなってきた。
・・・
あれ?このまま天に召されるヤツかな?
終わらない誘惑を無理やり断ち切る形で
ぬらりと幽鬼のごとく水風呂から立ち上がると
よろめきながら露天風呂に向かった。
その後も5分ほど、頭がふわふわしっぱなし。
あぶなかった。
あのまま水風呂に浸かっていたら
どうなっていたことか…
今日だけで新しい扉を2枚くらい開いた感覚。
サウナに入って50回以上100回未満だけど
まさかこんな領域があったなんて。
しかも、まだまだ、先がある!
おそるべしサウナ。人体の不思議。
あ、サウナは安全に入りましょうね。
無理はダメ!絶対!
うーん、我ながら説得力ないなぁ…。