もちつ、もたれつ夫婦
「ぼくの髪の毛がバサバサ抜けていくんだよ。
これはいかーん!ってオロオロしちゃてさぁ」
朝、起きがけ、キッチン。
豚汁をくつくつと煮込む嫁ちゃんに向かって
ぼくは眠い目をこすり勢いよくまくしたてた。
嫁ちゃんは眉間にシワを寄せてこちらを向く。
右の手のひらをぼくの鼻先にかざして言った。
ちょっと待って夫くん。君、夢の話をしてる?
「そうだよ。ぼくが夢で禿げ散らかしたんだ!
どんどん髪が抜けるんだから。怖いんだよぉ」
いきなり夢の話をしてくる君も十分怖いよね。
「いやあ、それほどでもないよ」
いや褒めてないから。
・・・
ここだけの話
ぼくには妙な癖がある。
ぼくは毎晩のようにハッキリと夢を見るのだけど
その内容を話したくてたまらなくなるのだ。
夢の中に嫁ちゃんが出てきたときなんかは
きゃっきゃしながら現実の嫁ちゃんに語り倒す。
いや、分かっている。分かっていますよ。
人の夢の話なんて誰も聞きたくないってことは!
整合性がとれてないし、勝手が過ぎるし
なにより結局のところそれは夢であって
真剣に聞いたところで何も得をしないし。
幼い子どもが語るならまだしも
成人男性が嬉々として語る様は背筋が凍る。
そのくらいは分かっていますとも。
でもこれ、すっごく楽しんだよぉお…
一方的に好き勝手喋るってのは麻薬だねマヤク。
聞いてくれる相手の迷惑なんかおかまいなしで
べらべらと語り倒すのは実に胸がスカっとする。
オジサンになると妙に説教臭くなるのは
このあたりが絡んでいるのかもしれない。
みんなも説教オジサンには気をつけよう。
え、お前が言うな?ごもっともでござる。
閑話休題。
ええと、ここでぼくが言いたいのは
ぼくのつまらない夢の話をしっかりと
聞いてくれる嫁ちゃんがありがたいぜ!
ということなのですよ。
夫婦ってのはこうじゃなくちゃね!
って思うのでありますよ。
というのも
ぼくたち人間の見えない性質の一つに
「誰かに話を聞いてもらいたい」
というのが組み込まれているのですよ。
もうこれは、食欲とか睡眠欲とほぼ同じ。
誰だって持っているし、とても強い欲求。
子どもを見れば一目瞭然ですよね。
「ねえママ!聞いて!学校でねぇ!」って
全力で喋り倒してくれるじゃないですか。
あの「聞いて聞いてマインド」は
誰の心にも搭載されているのですよ。
もちろん陰気な顔をしたオジサンでさえも。
飲み会で、趣味の話をイキイキと語るオジサン
見たことないでしょうか?
ぼくはめちゃめちゃよく見るし、遭遇します。
ていうかむしろぼくが語りまくっている側です。
誰だって語りたいんですよ、好きなことを。
でも現実問題、自分ばっかり語っていたら
周りの人は引いていくし嫌われちゃいます。
だからおいそれと語れないのが辛いところ。
ぼくたちは
自分の話を聞いてくれる人が必要なのです。
毎日こんこんと湧き上がる語りたい欲求を
受け止めてくれる人がいると満たされる!
ぼくたちってそういうところありますよね。
ぼくは一緒に居る時間が一番長い人に
自分の話を聞いてほしいのですよ。
そうすると本当に毎日が楽しくなる。
そうして、自分が満たされることによって
おおらかな心でパートナーの話を聞けます。
プレゼントのお返しをするような感じです。
これが最強。
最強のもちつ、もたれつなのです。
この最強ループに入った夫婦っていうのは
末永く仲良くやっていけるんだろうなって
本気で思っているのです。
現在進行形でウチがそれを実証中です。
まとめると
お互いを「受け止める気持ち」は
本当に大事なものだと思うわけなのです。