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競馬はギャンブルじゃない(12月22日)

金曜日だけ番頭に入ってくれているパートのおばさんがいる。いつも僕と番頭を交代するタイミングでついつい話し込んでしまうのだが、今回は今週行われる競馬の有馬記念の話になった。この方昔から大の競馬ファンで競馬が好きすぎるあまり「競馬はギャンブルじゃない!」と言い張る。完全にハマってしまっている人の危ない言い訳にしか聞こえないのだが、どうやらジョッキーが好きらしくお金を掛けなくても週末のレースの予想をしているだけでその1週間は楽しいらしい。最近は馬券を買わずにその動向だけ追っているようなので聞けば聞くほど筋金入りなのだ競馬。

僕は一度も競馬をしたことがなかった。競馬というよりギャンブル自体やらない。そういうものは長い目で見た時に必ず負ける仕組みになっていると初めから一歩引いた目線に立ってしまうので向いていない。そのゲーム性自体に面白みを見出せればやる価値はあるのかもしれないが、どうせやるなら勝ちたいと思ってしまう。

ある日、好きな芸人さんが大好きな競馬をしている様子のYouTubeを見た。人は好きなことをしている時の表情が一番輝いている。誰に何と思われるかなんてまるで考えていないその振る舞い、自分はただこれが好きなんだというその真っ直ぐな熱量がこちらに伝わった時いつも僕の好奇心がくすぐられる。友達が東京競馬場の自転車圏内に住んでいたことも重なって僕はその動画を見た翌週、人生初競馬に挑戦することになった。

馬が目の前を駆け抜けていく様子は圧巻だった。僕が今まで人生で見てきた牧場の馬とは訳が違うのは見た瞬間に分かった。スラッと伸びた足、無駄のないお尻、女性も顔負けのサラサラした立て髪、恵まれた体格、どれひとつと掛けてないその姿はまさにアスリートそのもの。そこに目の色を変えた大人たちの熱視線が送られ、レース終盤には怒号が飛ぶ。その本気度たるや、娯楽の範疇を超えているのは横で見ていれば容易く想像できた。僕が遊んだのは1レースせいぜい100円から1000円程度。それでも当たった時は嬉しいし負けた時は悔しい。当たったら気分がいいのでもう一度やりたくなるし、負けても取り返すためにもう一度やる。たかだか数千円そこらでも券売機から現金が出てくる時の脳汁の出方は異常だった。

馬券の買い方も分からないような初心者の僕ではオッズか直接パドックで馬を眺めて順位を予想するしかない。でも兄弟馬や親馬、ジョッキーなど複雑に絡み合う条件の中で自分なりに予想を立てる楽しさがあることも知った。今はまだハマらないし、お金もないのでハマれない。でもこれからの人生いつ何がきっかけで熱がつくかは分からない。歯がないから競馬好きなのか、競馬好きだから歯がなくなってしまうのか、真相を知るにはまだ早いようだ。

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