情報教育への戸惑いや違和感。原山小教員インタビュー(前編)
こんにちは。みんなのコード竹谷です。
昨年からみんなのコードがモデルカリキュラム開発をサポートしている印西市立原山小学校との取り組みについて、先日実践報告を公表しました。
この実践報告では、2名の先生のインタビューを掲載しています。情報教育を進めるにあたっての戸惑いなど、リアルな声をいただいたのですが、分量の都合上、掲載できなかったコメントもありました。そこで今回と次回の2回に分けて、ノーカット版でお届けしたいと思います!
※この記事はみんなのコードコーポレートサイトからの転載です。
最初は戸惑いや違和感、でも「やってみないとわからない」
原山小学校:2年生担任 竹本しずか教諭、4年生担任 和田 諭教諭(肩書きは2023年インタビュー当時)
聞き手:みんなのコード 講師・研究開発 竹谷正明
竹谷: 実際に現場で、実践をされる先生方が、どういった思いで授業をされていたか、そこで見えたことや感じたことを伺います。まず、原山小にいらして何年目になりますか。
竹本: 情報教育の研究が本格的に始まる前の年に赴任して、今年4年目になります。現在は2年生の担任です。原山小の研究に、正直驚きばかりでした。
和田: 私は原山小に赴任して2年目で、現在4年生の担任をしています。着任したときには、もう(情報教育の)公開授業研究会を実施すると聞いていたので、情報教育の研究を先進的に行う学校に来たんだなという印象でした。前の学校でも情報やプログラミングの研究をしていて好きだったので、これまでの研究を生かせるかなと思ったんです。でも、プログラミングだけではない情報教育や、なにより研究の進み方が尋常じゃなかったので衝撃を受けました。最初はプレッシャーをすごく感じていました。
竹谷: 今の和田先生のお話で、来る前の印象と原山小にご異動されてから実際にやってみての印象で「プログラミングばっかりじゃないんだ」と思うところがあったと伺ったんですけど、他に印象はありましたか?
和田: 根底から覆ったのは、そもそも情報教育自体がもっと広いものなんだなということを再認識しました。以前もロイロノートなど、様々なICTツールを使っていたんですけど、単なるICT活用ではない、各教科の中でどのように情報活用能力を育成するのかという視点が加わり、情報教育への見方が原山小に来て変わったっていう感じですかね。情報教育の具体的なイメージが広がっていきました。
竹谷: 竹本先生はいかがですか。情報教育が本格的に始まる前と始まってから、先生の中で変わったことや気づきなど教えていただけますか。
竹本: 原山小に来て早々は、情報教育をガンガン進めていくっていう様子がなかったので、これから情報教育を進めていくんだよっていうのが、ふんわりと出てきた頃だったんですね。「みんなと一緒に私も慣れていけばいいかな」と思っていたんですが、しばらくすると、研究のスピードがものすごく速くなり、戸惑いました。本当にICTを使って授業するのが、子どもにとっていいものなのか、必要なのかがはっきり分からないし、そういうスキルが自分にはあまりなかったものですから。
竹谷: 途中から新しいことが始まる上での戸惑いや不安感などはありますよね。
竹本: 1年生担任になった時に、子どもたちが学習にICTを活用するということはどういうことなのかを、試行錯誤しながら試し始めたんです。そのうちにコロナ禍により、子どもと対面で授業することが難しくなり、Meetで授業やクラス活動をやらざるを得なくなりました。 Meetを使ったこともなければ、 Meetが何かの説明もできない中、全部少しずつ手探りで、周りの職員に教えてもらったり、自分でも調べてみたり、失敗したり、それを繰り返していきながら、少しずつ慣れてきたという感じですね。
ところで、教員一人で1年生にパソコンを教えるのはとても大変ですよね。今では、学校全体が情報教育の体系をもっているので、1年生がパソコンを貸与される時(貸与式)や、新しいアプリを利用する時などに、6年生が教えに来るんです。パソコンはこうやって開けるんだよ、パスワードっていうのがあってね、パスワードはここのボタンをこうやって押すんだよなど、1 対 1 で教えてくれます。1年生は、教えてもらったことをすごく嬉しそうにやるんです。そこから、次第にいろいろと使っていくうちに、慣れてくるのが見えて、「子どもってすごいな、見習わないといけないな」といつも感じています。
竹谷: 始まる前、始まったばかりの頃は、すごく戸惑いや不安が多かったけど、やっていくうちに先生も子どもたちに慣れていくものなんですね。
竹本: そうですね。確かに、最初はちょっと違和感がありました。30年くらい教員をしてきて、ICTがない教育が普通だったんです。ちゃんと鉛筆を持って、良い姿勢で紙に書くっていうのを、1年生の最初からずっと取り組ませるようにしてきましたから。パソコンで画像や動画を編集するとか、画面上で文字を書くということに、とても違和感がありました。
竹谷: 今でもその辺の違和感ってのは、やっぱり低学年を指導する際に、お感じになりますかね。
竹本: はい。ただ、ICTは、子どもの生活の中にも、自然に利用されているものなんです。ICTを活用しない場面も、もちろんありますが、ICTを活用することで可能となる新しい学びもあります。デジタル・アナログのどちらかをやる、やらないではなく、「どちらも、やらないといけないんじゃないかな」というのが今の感覚ですね。これからの学びに、ICTを上手に活用していくことで、子どもたちの可能性が大きく広がっていくんだなと、パソコンやオンライン等を実際に使いながら、自分自身の違和感を払拭してきた感じですね。
はじめは納得していなかったんです。「なんでこれをやらなきゃいけないの」って思っていました。でもその考えの根っこには、「苦手だからやりたくない」という気持ちがあって、「今までやらなくたってできたじゃないか」という言い訳をしていました。だけど、今までの生活を振り返ると、使いづらかったり、初めてだったりしたものも、使っていくうちに慣れたり、便利だなって感じたりすることが増えています。これからの子どもたちも、様々な ICTに対して、きっと戸惑いながらもバランスよく上手に活用していくんだろうなって思います。だから、私もそうなろうって、だんだん思えるようになってきました。
竹谷: やっぱりその体験を積み重ねる中で、ちょっとずつ変わってくる、一気に変わるのは難しいですよね。
子どもたち主体で動けるように
竹谷: 和田先生ご自身が情報教育に関わる上での発見などありましたら、お話いただけますか。
和田: 私は、教員の経験年数が浅いので、逆に学校現場に ICTがなかった教員期間が短かったんです。「あるなら使おうかな」というスタンスでした。個人的には、デジタルとアナログの融合ができたらいいなという思いが最初からありました。一度デジタルに振り切って使ってみて、すごく便利だなっていう発見もたくさんあったんですけど、ここはアナログにした方がいいなって考える場面が、明確になってきました。原山小に来て、すごく情報教育に対する理解が高まったからこそ、デジタルとアナログの融合が必要だと、また再実感できました。触れてたくさん使って、いろいろなツールを触ったことで、デジタルが合う場面や、アナログの体験をさせたい場面を考えられるようになったのかな。
それから、これからの子どもたちのことを考えたときに、やっぱり、デジタルに触れさせなければいけない、経験させなければならないというのをすごく感じています。仕事でも必要でしょうし、自分の情報を守っていくというようなデジタルシティズンシップの考え方、よきデジタル市民になるというのは、小学校段階でなければ教えられないことだと思いますし、小学校段階から教えるからこそ意味があると思います。デジタルの足跡、自分の情報の公開範囲、著作権など、知らないままでは犯罪に巻き込まれる可能性もあるなということを、情報教育に関する知識が高まったからこそ、より強く実感するようになりました。
竹谷: 振り切って使ったからこそ、逆にアナログならではのよさも見えてくるっていうことですね。
竹本: 1年生では、アサガオの観察日記を書くんです。アサガオの葉っぱ・花の形、色などを、自分の感覚で捉えて絵に描きます。ただ、入学当初は1枚の観察カードを書くのに時間がかかってしまい、書くことだけで時間が終わってしまいます。そこで、観察スケッチの合間に写真を撮る。撮った写真を拡大したり、実物と見比べたりすることで、多様な観察ができます。ICTを活用することで、葉や花を、いろいろな方法で観察したり、気づいたことを友達と共有したりすることを、じっくりやることができて、すごく良かったなと思います。
竹谷: 授業をされる中で、子どもたちがこんな風に変わってきた、成長したということがあれば教えてください。
和田: 活用の「技」を子どもたちに伝えると、それをすぐにいろいろな場面で活用できるようになりました。技を難なく自分のものにしてしまうし、それによって作業を効率的にできるようになったり、学習を深めたりすることができるようになっています。
改めて、子どもたちはデジタルネイティブなんだなっていうことを実感していて、そういう意味でも「すごいな、この子たち」と感じています。例えば、レゴで作ったロボットを活用したプログラミングの学習をしていた際のことです。各種のセンサーについて、簡単な紹介だけをしたのですが、子どもたちは、それぞれ思うがままに、いろいろなセンサーを活用し、「先生!こんなことができた!」と見せてくれました。作成されたプログラムを見てみると、ロボットを制御するようになっていました。
また以前は、ネットで調べることがすごく便利という印象があった一方、情報が多すぎて取捨選択が難しく、結果的に、単なるコピー&ペーストをするケースが多かったと思います。しかし、原山小では、改めて書籍等での情報を活用することが増えました。書籍等の活用の仕方も伝えながら、サイトの内容を論理的に読み取り、情報を整理していくようにすることも授業の中で意識しました。それを丁寧にやっておくと、子ども自身が、情報収集したい方法を適切に選ぶ場面が増えていきます。子どもたちは主体で動けるんだなっていうのを、すごく感じました。
竹谷: いわゆる自立した学び手の力がすごく育っているのかなと感じました。そのためには、お話しいただいたような、経験を積ませていくことだったり、プロセスをたどったりすることが必要なんでしょうね。
インタビュー前半を振り返って
印象的だったのは、竹本先生がご自分の中の違和感を乗り越えていったプロセスです。おそらくそれまでのご自分の経験との間で葛藤も大きかったことと思います。でも、子どもたちの実態から可能性を広げることの大切さを考えたとき、どう進むかが定まっていったのですね。とにかくやってみよう、周りのサポートも遠慮せず受けようという姿勢もポイントになることがうかがえました。
また、和田先生のお話からは、一旦デジタルに振り切って使ってみる経験の必要性も見えてきました。ゆくゆくは子どもたちが自分でデジタルとアナログのどちらを使うのか場面に応じて判断することになります。実際に3年生の子どもたちがネットと書籍のどちらを情報収集に使うか意識して選択しているとのことで、情報活用能力が着実に身に付いてきていることが感じられました。
次回は、インタビューの後半部分をご紹介いたします。
参考資料:千葉県印西市立・原山小学校における新たな学び「情報探究の時間」実践報告』