
『ディズニーCEOが実践する10の原則』コンテンツ業界のトップCEOが語る仕事と人生
著者のロバート・アイガーは、ピクサー、マーベル、ルーカスフィルム、21世紀フォックスを買収し、またディズニープラスのサービスを始めた、歴史に残るディズニーのCEOです。
また、一旦CEOを退任したものの、2022年末復帰されるとの発表がありました。まだまだディズニーは、アイガーの経営力を必要としているのでしょう。
さて自分にとって、ディズニーCEOとの接点はあまりにも希薄です。「天上人」の自伝を読んだところで、何か得るものはあるのかな……と疑心暗鬼でページを捲ったところ、止まらなくなりました。
スティーブ・ジョブズやジョージ・ルーカス、ルパート・マードックらとの交渉の裏側と同時に、コンテンツビジネスとどう向き合ってきたのか? が書かれています。
非常に示唆に富むところが多かったです。
ロバート・アイガーが語る真のリーダーシップに必要な10原則は以下の通り。
【10原則】
①前向きであること
②勇気を持つこと
③集中すること
④決断すること
⑤好奇心を持つこと
⑥公平であること
⑦思慮深いこと
⑧自然体であること
⑨常に最高を追求すること
⑩誠実であること
平凡です。
「秘密の原則」のようなケレン味は全くありません。
しかし、平凡だからこそ普遍性があるのでしょうね。
本著の中で、心に残った箇所をピックアップしてみます。
■ほどほど
「ほどほど」は所詮ほどほどでしかないということを自分たちに言い聞かせる
アイガーはリーダーの資質の中で「完璧への飽くなき追求」を挙げています。
「ほどほど」ではどこかに妥協が入ってくるはずです。自分たちが100%出し切ったコンテンツであれば、批判にも耐えられると思いますが、「ほどほど」だと悔いが残るはずです。
リーダーであれば、完璧を目指すべきでしょう。
しかし一方で……、
■人ありき
完璧を追求しすぎると、作品ばかりに目がいって人がおろそかになってしまうことに直感的に気づいたのは、何年もあとに人を導くようになってからだ。
人が行動して結果があります。完璧を目指すにしても、まず人ありきですね。作品と人とのバランスが大切です。
■創造のプロセス管理
創造のプロセスを管理するということは、それが科学ではないと理解することからはじまる。すべては主観であり、何が正しいかはわからない。何かを生み出すには大きな情熱が必要で、ほとんどのクリエイターは自分のビジョンや流儀が疑われば、当然ながら傷つく。
とても納得できる考え方です。何気なくいつも、この企画が面白い or つまらない、とジャッジしがちなのですが、生み出しているのは人です。AIが生み出したものではなく、人それぞれの主観があります。主観の背景には、その人なりの歩んできた人生があります。無責任な意見とは比べようもありません。慎重さと敬意があって然るべきですね。
■過去と未来
「私は過去をどうすることもできません。ですが、自分が学んだことを話し、これからその教訓を生かしていくことはできます。やり直しはきかないんです。みなさんがお知りになりたいのは、これまでのことではなく、これから私がこの会社をどこに向かわせるかですよね。私の計画を聞いてください」
マイケル・アイズナーがCEOを退任するときに、アイズナーの側近でもあったアイガーに次期CEOの白羽の矢が立ちました。しかし側近であればこそ、アイズナーの失態の責任もあるという糾弾もあったようです。
アイガーは正面から批判を受け止め、未来を語りました。こうしたタイミングで、変な政治工作をしてしまうのが、二流の経営者でしょう。10原則の中にある「誠実であること」は、キツい立場に立たされたときこそ有効です。
■苦境のとき
みんなに褒められている時は、誰でも前向きになれる。だが、自分を否定された時、しかもみんなの目の前で自信を傷つけられた時こそ、難しくても前向きにならなければならない。
アイズナーの次期CEO選びは、騒がしい噂が飛び交い、アイガーがどれほどCEOにふさわしくないかがおおっぴらに議論され、神経をすり減らす環境でした。しかしアイガーは粘りと忍耐で最終的にCEOの座に就きます。
どんな人でも、ときにはアウェイな状況になることはあるでしょう。しかも周りが身勝手なことばかり述べていたりしていたら、辛くなるのは当然です。しかしどんな状況であっても、自らが前向きの姿勢であれば、いつかは打開できるはずです。
■敬意
「敬意を払う」という、一見些細でつまらないことが、どんなデータ分析にも負けず劣らず大切な決め手になった。敬意と共感を持って人に働きかけ、人を巻き込めば、不可能に思えることも現実になるのだ。
CEOに就いたアイガーはピクサーをはじめ大型買収を次から次へと成し遂げます。著書の中でも、敬意を払うだけで「信じられないようないいことが起きる」と書かれています。
敬意がないと、人は胸襟を開きません。美辞麗句を並べても、敬意と共感がない限り、本音でのコミュニケーションは取れないでしょう。仕事だけではなく、人生全てにおいて「敬意を払う」ことは必要でしょうね。
■権力
あまりに大きな権力がひとりに集中すると、その力を抑制することが難しくなる。最初の変化は小さなことだ。自信が過信に変わり、それが失敗のもとになる。何もかも知り尽くした気になり、ほかの人たちの意見をせっかちに切り捨てるようになる。
社会人経験をしていると、自信が過信に変わっている権力者に何度も遭遇します。しかし意見そのものに耳を傾けるのではなく、誰の意見かに耳を傾けるしかなくなった権力者は、例外なく消えていききました。
アイガーは極力意識して、権力の虜にならぬよう行動してきました。特に長くその座にいる場合は要注意です。だからこそ、絶頂期にCEOを退任したのでしょうね。
現在アイガーは、期間限定でディズニーのCEOとして復帰しましたが、2年限定との報道もあります。
政治家を目指しているという噂もあるので、CEOには執着していないと思いますが、この2年間に、また驚くような事業展開を見せてほしいです。