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『京アニ事件』を読んで、『ルックバック』について思いを馳せた

アニメーション研究家の津堅信之さんが書かれた『京アニ事件』。
新書判で、端的に「京アニ事件」についてまとめられています。

どうしてこの本を読んだかというと、『チェンソーマン』の藤本タツキさんの短編読み切り『ルックバック』でも、「京アニ事件」の犯人をモチーフにしたようなキャラクターが出てくるからです。

現在は、「偏見や差別の助長避けたい」との編集部の意向で修正されています。

ネットでも賛否両論巻き起こりましたが、修正について僕は全く気にならなかったです。
というのも、『ルックバック』はあくまでも藤野歩と京本の物語です。凶行を行う犯人像が誰であっても、藤野と京本がドラマの中心であることに間違いありません。

津堅さんが書かれた『京アニ事件』では、まだ実際の犯人が逮捕される前の段階でした。今よりもずっと情報が少ないながらも、慎重に言葉を選びながら犯人像に言及されています。
ただ、本を読んでも、犯人の実像はよく分かりません。ぼや~としたままです。この煙のような掴みどころのなさは、犯人の言葉が少しずつ聞けるようになった今も、変わらないままです。
今後裁判になり、幾多の供述が出てくることが予想されます。
ただ、そうした状況になっても、皆が納得する明快な動機は出てこないかもしれません。凶悪事件は世間との「乖離」が激しいので、理由を探そうとしても難しいとは思います。

『京アニ事件』の本の中では、事件の被害状況や報道のあり方など、様々な角度から言及があります。
研究者である津堅さんの手堅い論説が光ります。
そして、その中から浮かび上がるのは、それでも前を向いて生きる京アニの姿です。

今! この瞬間! この文章を読んでいるあなたは、生きていますよね?

死は人生をストップさせますが、生は人生を止めません。
生は今現在を生きる人のものです。

漫画『ルックバック』には、oasisの名曲「Don't Look Back In Anger」から、「Don't」「In Anger」の文字が最初と最後にコマにさりげなく描かれています。

「Don't Look Back In Anger」はマンチェスター・テロの鎮魂歌ともなった曲です。

怒り、悲しみ、不安……といった感情を抱えながら過去を振り返っても、過去は変わりません。

ときには、ルックバック=後ろを振り返ることも大切でしょう。
しかし、過去は過去です。

『ルックバック』の藤野や、今もこれからも傑作を生み出し続ける京アニのように、前を向いて生きるべきなのだろうな……と思いを馳せました。


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