天
生家は、神社を代々受け継ぐ家系だ。
父親は、祖父が亡くなってから家業をしながら神主やっている。子供頃から次はおまえだとよく言われていた。実際には小5くらいには精神的離縁をしていて、18才で物理的にも離縁した。
神主と言っても、受け継ぐ家系の場合は学校などで学んだりすることはない。
自動的に受け継ぐことが出来る。その先祖に縁ある者が受け継ぐことを許されている。そういうことから俺は先祖がどのような人間であったか、口伝と歴史書などで多少は知っている。
では、そんな俺が何故無宗教なのか。
実に長い間、自分の境遇から考え続けさせられた。
人生の時間が無駄では無いかと思うくらいに、そこに時間を費やしてきた。
しかし、その悟りとも言うべき考えに至ったから無宗教になったと言ってもよいかもしれない。長きに亘って心のどこかで、このことについて考え続けなければならない境遇であった。
言葉や歴史による呪縛は、人を苦しめる。
過去にどれほど偉大であったとしても、それは侵略や支配によるものでしかないと俺は解釈している。
当家は謎が多い。近年(明治・昭和)に至ってもである。
その謎というのは、恐らく普通には想像も付かないような歴史に繋がる誰かの思惑などが、今もひっそりと流れ動いていて、数十年や数百年単位の出来事に影響しているからだと、何時の頃だったか気が付いた。
当家は大昔に歴史から身を引き存在を無いものに隠しつつもどうにか受け継いで今に至る家系である。近代になり、その身を引く出来事の影響は薄れたものと思われ一般に紛れて暮らしていたが、約100年前に事件は起こってしまう。
詳しくは書けないのだけど、日本の名のある家(上位数軒にあたる)との交流の際の出来事である。この時に死者は出ていない。というより、そのように配慮されていたものと思われる。しかしながら、当家の大切なものを奪われてしまった。現代になるそれ以前には、首なしなどの不審死も多くあったと読み聞きしている。それえらは歴史的な話の出来事であり、要は暗殺ということだ。
そのように因縁は、実は脈々と続いている。
俺は高齢の父親と今も不仲であるため、今後のことは分からない。俺の信念も含めて、家系に特に執着することもないし、実は冷徹に思われるかもしれないが神社の存続にもそれほど興味はない。全くないわけではないが、それほどはない。そのルーツに固執するよりも現代に新たなルーツを生み出した方が良いと思っているからだ。
俺もしくは息子が、引き継ぐことになったなら、神社に復命を与えると共に拠点を一つ増やして、実現したいことはある。(しかし、この件の続きは書かないことにした。)
先に書いたように、この生い立ちのせいでいろんなことを考えさせられ、何かの専門家になる暇もなく、あれもこれも読み聞き考える必要があった。時々、間違った系統にのめり込んで時間を浪費したこともあるし、ある政党から国会議員にならないかと誘いも受けて本気でそこから国政を変えたいと悩んだ日もある。
しかし、そんなTVの中のような、娯楽のような緩い感覚で何かを成し得られるほど世の中は甘くない。今もなお先祖の歴史に呪縛されていることを考えれば容易ではないと分かる。
出生が歴史上に名のある先祖の家系の方々で、先祖を使って売名しTVタレントのようになった人たち(政治家を含む)も多くいるが、いずれその因縁で落ちぶれることになると思っている。少しの間、経済社会で優位に立つための無作為な所業であり、あまりにも短絡的だ。それは淘汰されるための迎合でしかないことを理解出来ないのだろうか。その行き着いた先で何者かに付き従い金を稼いで、何かを成し得たと勘違いをしている。隷属を受け入れたと同じことである。もしくは敷かれたレールを順風満帆とばかりに進んだ先だっただけかもしれないが、浅はかだと感じるだけだ。
今、本当に必要なことは何か。この先、どんな世界が必要なのか。
大言壮語に聞こえるかもしれないが、今はひっそりと構想を巡らすだけである。
そして、それらが社会に影響するのは、数十年、数百年先かもしれない。
馬鹿馬鹿しい夢絵空事に聞こえるだろう。だけど、最初の始まりは常に・(点)である。即ちそれこそが天で、その考えに至り信念を持つことが天なのではないかと思っている。
自身のエピソードをもう少し追記します。
そのような家に生まれても特別に裕福ではなく、口伝を叩き込まれ世が世ならと繰り返し聞いた。俺が小学生の時、叩き上げの金持ちの家から、その家の娘を許嫁にしないかと言い寄られ、見たこともないような食べ物を贈られたり、初めて乗るような車で送迎され何度か泊まりにも行った。当時の俺はちんぷんかんぷんだったけど、俺というルーツをその家は欲しかったのだ。
また周囲の人は羨ましく思っていたようだが実際にはそのような良いことなどは何もなく、ただひたすら厳しくそして働き詰めの子供生活で嫌気がさしていた。俺自身の子供時代の時間を奪った黒歴史でしかない。
何周か回って、今は様々なことに感謝している。