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呪いを解く魔法

百年の眠りについたお姫様が、王子様のキスで目を覚ますとか、
毒リンゴを食べたお姫様が、王子様のキスで目を覚ますとか、
呪いをかけられた(白雪姫は呪いというよりも本気で殺されかけたのですが)お姫様が、王子様のキスで目を覚ます、というお話を聞いたことや読んだことのない人は、少なくともこの日本にはほとんどいないのではないでしょうか。

そういう王子様のキスが貴女を救いますよ、という話ではなく、そういう話を聞き続けることが、一種の呪いになることもあるという話です。

もちろん、古今東西のそういったお話は、物語としてはとても素晴らしく、私も大好きでした。
ただいつも、どこかひっかかるものを感じていました。
それはつまり、

なんで王子様のキス?

でした。

人の言うことを聞いて、嫌なことも笑って耐える、そうしたら地獄のような状況からも救われる、というお決まりの設定。
そして、それが王子様の目に留まって、というより、その「美貌」が王子様やら若旦那やらお殿様やらに気に入られて、幸せになれるというハッピーエンドらしきもの。

「美しい心」を持つきれいな女の子が、
権力と資金力のある男に気に入られて、
最悪の状況から救い出され、
誰よりも幸せになる、
という、こういったお話たち。

こうした話に救われる女の子たちもいるでしょう。
自力ではどうしようもない地獄のような環境に置かれた子供にとっては、いつか王子様が助けに来てくれる、というお話を信じることは、命をつなぐ唯一の糸になることもあります。
これらの話が作られた時には、今よりもっとそういう状況に置かれている子供や女性が多かったことでしょうから、そうした人たちの間で語り継がれてきたのかもしれません。

それは責められることではなく、悲しい救いと言うべきものでしょう。

でもそれはそういう時代であったからです。

では今現在、そういう状況に子供や女性、いえ、男性も含めて、そんな希望をもたせて、心身を他人の思うままにさせることを美徳とするような教育や強制をしたらどうでしょう?
それは「虐待」、いや「犯罪」です。

最近明るみに出てきたさまざまな事実が次々に断罪されていることからも、それがわかります。

にもかかわらず、現在の、子供や女の子、男の子向けのマンガなどを見ていると、
何の抵抗もできない無力な女の子が、強大な権力を持つ男性に救い出され愛されて、ヒエラルキーのてっぺんに立つ、といったものが、人気になっています。

お話、ファンタジー、空想の産物という認識があれば良いのです。
しかしこれらは今の時代、子供でも見られるものです。こうしたお話に没頭し、事実と混同してしまうと、どういうことになるでしょうか。

何も言えない自分は「かわいそうなお姫様」で、周囲が全て悪で、いつか王子様に救い出されなければ幸せになれない、王子様に救ってもらうためには、美しくなくてはならない、かわいくなくてはならない、といった歪んだ認識をすりこむことにもなりかねません。

これが現代の「呪い」です。

この呪いを解くのは王子様のキスではありません。

「幸せにしてくれる」王子様など来ない、あるいはいない、という認識です。

でも、じゃあ幸せになれないのかというと、そうではありません。

幸せにはなれます。
魔法があるからです。

それは

自分で幸せになる、という覚悟です。

覚悟ができれば、幸せを見つけることができます。
いつかの幸せではなく、今ある幸せを見つけることができます。

人が一番そのことに気づくのは、最大の幸せが失われた時です。
手の中にあった幸福が二度と戻らないことに気づくのです。

私もその一人でした。

誰かとともにいる時でも、一人でいる時でも、
自分の幸せを感じるのは自分だけだ、
そう信じ、自分を信じる覚悟を決めることこそが、呪いを解く魔法だと今の私は思っています。


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