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気になるシミが一瞬で消える!?その広告、信じても大丈夫?【化粧品広告の裏側を解説】

「塗るだけでシミがポロっと取れる」「深いシワが一瞬で消える」
こんな広告を見たことがありませんか?

図1.薬機法違反の広告イメージ

消費者の目が肥えてきて大げさな広告には簡単にだまされなくなってきたこと、広告に関する取り締まりが厳しくなってきたことなどにより、目に余るようなひどい広告は減ってきましたが、薬機法などの法律を詳しく知らずに広告を作っているメーカー・広告代理店・PR投稿を行うインフルエンサーや、日本の法律を理解していない海外メーカーなどによる違反はたくさん目にします。

また、わざと効果を大げさに記載し、消費者をだますような悪質な事業者も一部ですが存在します。

私はスキンケアの処方開発をしていた経験から、法律を守ったうえで最大限効果を伝える努力をしているメーカーの気持ちがわかるので、このような悪質な商品や広告を見かけるたびに、やり切れないような悔しい気持ちになります。

そこで今回は、広告のウソにだまされて悲しい思いをする方を増やさないために、化粧品の広告にまつわる違反事例を紹介しながら、悪質な広告にだまされないために必要な知識・化粧品広告の裏側を解説します。


化粧品の広告規制

化粧品の広告規制には、薬機法景品表示法など、さまざまな法律が関わっています。

薬機法

薬機法(正式名称「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」)は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器などの品質・有効性・安全性を確保することを目的としています。

薬機法では、消費者が正しい情報をもとにどの商品を購入するか判断できるように、ウソや大げさな表現を禁止するなど、広告表現についても規制されています。
化粧品や医薬品を販売するメーカーだけでなく、広告代理店やPR投稿をするインフルエンサーなど販売や広告に関わる全ての人が規制の対象で、企業から報酬や現品を受け取るPR投稿で薬機法に違反していると、一般の方でも罰則を受ける可能性があるため注意が必要です。

さらに、化粧品の業界団体である化粧品工業会は、化粧品の広告における規制やルールをより明確にするために化粧品等の適正広告ガイドライン」などの自主基準を定めており、業界内で周知徹底されています。

景品表示法

景品表示法(略称「景表法」、正式名称「不当景品類及び不当表示防止法」)は化粧品や医薬品に限らず全ての表示に対して定められた法律です。商品・サービスの品質、内容、価格などを偽って表示を行うことを規制するとともに、過大な景品類の提供を防ぐことなどにより、消費者がより良い商品・サービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守ることを目的としています。

景品表示法において、広告であるにもかかわらず広告であることを隠す「ステルスマーケティング(ステマ)規制」が2023年10月1日から始まり、2024年6月には初の行政処分も行われました。

規制の対象となるのは商品・サービスを供給する事業者(広告主)で、企業から広告・宣伝の依頼を受けたインフルエンサー等の第三者は対象とはなりません。ただし、インフルエンサーがステマにより炎上する例もあるため注意は必要です。

具体的な規制内容

薬機法や景品表示法では、ウソや大げさな広告が規制されています。

冒頭の広告イメージ(図1)を例に挙げて説明すると以下のようになります(図2)。

図2.広告イメージのNGポイント

化粧品には、事実であれば広告で訴求できる効能の範囲が56個定められており、たとえ事実であったとしても、以下の56個以外の表現を使用することはできません⁵⁾。

化粧品の効能の範囲

薬機法上、あくまでも化粧品は「効果が緩和なもの」であって「身体の構造や機能に影響を及ぼすもの」であってはならないので、「若返り」など上記56個の効能を超える表現はNGです。
その他にも、エイジングケアを訴求する場合は「※年齢に応じたケア」などの注釈が必要、成分の浸透は(たとえ本来は真皮層まで浸透するとしても)「角層まで」という注釈を入れなければならないなど、細かなルールがたくさんあります。

医薬部外品の薬用化粧品では、化粧品の56個の効能に加えて「肌あれ・にきびを防ぐ」「日やけによるシミ・そばかすを防ぐ」「シワ改善」など、承認された効能効果を広告でも使用することができます
有効成分が真皮や基底層に作用すると認められているものであれば、「真皮まで浸透」「基底層まで浸透」と表現することも可能です。

ただし「シミ・そばかすを防ぐ」効果が承認された医薬部外品であっても、あくまでも「シミの予防」なので「シミが消える」という表現はNGです。
「美白」という表現にも「※日やけによるシミ・そばかすを防ぐ」など、承認を受けた効能効果にもとづく注釈が必要です。

違反事例の紹介

ここからはネット上で見つけた事例を2つ紹介します。(※広告はイメージです)

CASE.1 シワ消しスティックA

CASE.1 は TikTok の広告で見つけた商品です。
このような悪質な広告は大手検索エンジンでは広告審査に通らないので、SNSやブログなどからの誘導がほとんどです。
摘発を防ぐためか検索では見つからず、サイトアドレスもコロコロ変わります。

図3.シワ消しスティックA 広告イメージとNGポイント(1)
図4.シワ消しスティックA 広告イメージとNGポイント(2)

Aの広告では、加工としか思えないビフォーアフター画像や動画が多数使用されています。
また、医薬部外品ではないのに「シワ改善有効成分」という表現を使用し、グレードの高い深いシワを改善できると誤解させることを狙ったような部分もありました。

加工や別人に見える画像・動画で効果を大げさに表現し、薬機法を意識して「※メイクアップ効果による」「※ノリが乾いてシワが伸びる物理的効果のイメージ」「※個人の感想です」などの注釈を薄く小さい文字で載せて言い逃れできるようにしているところなどが、特に悪質であると感じました。

CASE.2 海外メーカー美容液B

韓国コスメなどが並ぶ海外企業のECモールを見ていると、日本のサイトでは見たことがないような効果を強く押し出すページがたくさん並んでいて、日本のコスメよりも効果が高そう!と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、これらのサイトは以下のように日本の法律に適合していない表現であふれていて、日本製品と正しく比較することはできません。

図5.海外メーカー美容液B 広告イメージとNGポイント

海外製品であっても日本で販売する場合は日本の法律を守る必要がありますが、越境EC(個人輸入、海外発送)は日本の法律で取り締まるのが難しく、日本ではNGになるような表現が多く見られます。

例えば美容液Bのページでは「活性酸素の除去」など化粧品の56個の効能を超えた表現を使用したり、「美白」など日本では医薬部外品として承認された製品にしか認められていない効果を謳ったり、画像を加工したとしか思えないようなビフォーアフター画像を使用したりしています(図5)。

同じメーカーの同じ商品でも、広告審査の厳しい日本の大手通販サイトなどに掲載する際は薬機法を意識した広告に変更されていることから、メーカーが薬機法を知らないわけではないということがわかります。しかし、海外企業が運営するECサイト上では海外基準のまま掲載されています。

また、これらの製品は、安全性や表示の基準も日本の基準に適合していない場合があります。
日本では、植物エキスなどの抽出物は「抽出された物質と抽出溶媒又は希釈溶媒を分けて記載する」⁶⁾というルールがありますが、海外では「〇〇エキス20%配合」と記載されていても、水で薄めた原料が20%配合されているだけで、実際の配合量はごくわずか…という可能性もあるため注意が必要です。

まとめ

今回紹介したようなウソや大げさな広告が増えると、消費者が商品を正しく選択できなくなり、ルールをまじめに守っている商品が選ばれなくなってしまいます。

また、ウソの広告が増えることで、期待した効果が得られず「化粧品を使っても効果がない」「化粧品の広告は信じられない」と感じてしまう方が増え、まじめに研究開発に取り組んでいる化粧品まで信じられなくなってしまうことも問題です。

このような悪質なメーカーはごく一部で、化粧品開発にまじめに取り組み、ルールを守って表現を工夫しながら広告を作っているメーカーはたくさんあります。

自分の身を守るためにも、ルールをまじめに守っている事業者を守るためにも、化粧品を正しく選択する知識を身に着けて、「ワクワク・楽しく・期待して」化粧品を選んでいただけたら嬉しいです!

そもそも「塗るだけでシミがポロっと取れる」「深いシワが一瞬で消える」ということは皮膚科学的にありえません。
悪質な広告にだまされないためにも知っておいていただきたい「シミやシワができるメカニズムと対策法」は、以下の記事を参照してください。

また、薬機法における「化粧品」と「医薬部外品」の違いについて、もっと詳しく知りたい方はこちらの記事も読んでみてください。

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(執筆:なな)

【参考文献】
1)適正広告について, 日本化粧品工業会,2024年8月23日アクセス
2)化粧品等の適正広告ガイドライン 2020年版
3)景品表示法 , 消費者庁HP,2024年8月26日アクセス
4)事例でわかる!景品表示法 , 消費者庁
5)化粧品の効能の範囲の改正について,厚生労働省医薬食品局長
6)化粧品の全成分表示の表示方法等について,医薬審発第一六三号/医薬監麻発二二〇号,平成13年3月6日


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