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レチノール誘導体で紫外線を防げるって本当?【レチノールと紫外線にまつわるウワサを解説】

みなさんは「レチノール誘導体で紫外線を防げる」というウワサを聞いたことがありますか?
先日、COCO.libraryのInstagramのフォロワーさんから、こんな質問をいただきました。

フォロワーさんからの質問

今回は、いただいた質問にお答えしながら、レチノールと紫外線にまつわる気になるウワサについて解説していきます!


レチノールとは?

レチノールは脂溶性ビタミンであるビタミンAの一種。ビタミン A はレチノール、レチナール、レチノイン酸といった化合物の総称です。
レチノールは、みなさんの体内に存在する酵素によってレチナールに変わり、最終的にレチノイン酸という物質に変化して効果を発揮します。

余ったビタミンAはレチノール誘導体(特にパルミチン酸レチノール)に変換して貯蔵され、必要時にレチノール→レチナール→レチノイン酸に変化して効果を発揮します。

上の図の右に行くほど効果が高くなる反面、皮膚に対する刺激も強くなり、左に行くほど安定で刺激が起こりにくくなる反面、効果は緩やかになります。

レチノール誘導体とは?

レチノール誘導体とはレチノールと別の物質が結合して安定化したもの。
パルミチン酸とレチノールが結合した「パルミチン酸レチノール」や、酢酸とレチノールが結合した「酢酸レチノール」などがあります。

化粧品や薬用化粧品に配合できるのは「レチノール誘導体」「レチノール」のみ。「レチノイン酸」は効果が強く、正しく使用しないと皮膚刺激などの副作用が出る可能性が高いため、医薬品にしか配合できません。

レチノールはレチノール誘導体に比べて効果が高い反面、刺激が強く、光や熱・空気に触れると変質しやすいというデメリットがあるため、化粧品に安定して配合するのが難しい成分です。
レチノールを安定に保つためにはリポソーム化などの処方上の工夫や、光や酸素を遮断する容器を採用するなど、高い技術や費用が必要です。

一方、レチノール誘導体はレチノールに比べて刺激が起こるリスクが低く、安定で使いやすいため、たくさんの化粧品に配合されています。

レチノールの肌への効果

レチノールなどのビタミンA類には以下のような効果があり、エイジングケアに有効な成分として注目されています。

  • 肌のターンオーバー促進作用: 表皮の細胞分裂を活性化し、表皮細胞の増殖を促進することによって、肌のターンオーバー(生まれ変わり)を早めます。

  • シワ改善: 表皮におけるヒアルロン酸の合成促進作用や、真皮内のコラーゲン産生を促進する作用、ターンオーバー促進作用によってシワを改善する効果があります。「レチノール」はシワを改善する医薬部外品の有効成分としても認められています。

  • 色素沈着・シミの改善: 表皮の細胞分裂を活性化し、肌のターンオーバーを早めることによって、メラニンを含む古い角質の排出を促し、くすみやごわつき、シミ・色素沈着を改善します。

レチノールには上記のような効果がある一方で、ターンオーバーが促進されることによって、主に使用開始直後や過剰に使用した際に、赤みや皮むけ・乾燥などの症状が現れることがあり「A反応」「レチノール反応」などとよばれています。

ネット上では「A反応は効果が出ている証拠だから肌に良い状態だ」という意見も見かけますが、炎症状態を放置すると炎症後色素沈着でシミができてしまう可能性がある⁹⁾ため、自己判断せず皮膚科を受診することをおすすめします。

レチノールと紫外線にまつわるウワサを検証

①レチノールを塗って紫外線に当たるとシミができる?

「レチノール使用中は紫外線の感受性が上がるためシミができやすくなる」という情報をよく見かけますが、「紫外線の感受性が上がる」という説の根拠となる論文等は見つかりませんでした。

レチノールの使用中に紫外線の影響を受けやすくなるのは、「A反応」と呼ばれる皮むけや乾燥などの症状によってバリア機能が低下することによるものであると考えられます⁹⁾。

レチノールは紫外線に当たると変質しやすいため効果が下がります。
変質したものが原因でシミができやすくなるわけではありませんが、副反応でバリア機能が低下することによって、結果的に紫外線ダメージを受けやすくなってシミができてしまう可能性があるため、レチノール使用中は日焼け止めや日傘などでしっかり紫外線対策を行った方が良いでしょう。

②レチノール配合の化粧品を朝使用するのは避けたほうがいい?

一般的に「レチノール配合の化粧品を朝使用するのは避けた方が良い」と言われることが多いですが、「日焼け止めを重ねれば朝使用しても問題ない」とするメーカーもあります。

「レチノールやレチノール誘導体が紫外線にさらされると、活性酸素種が発生するため有毒である」という説⁷⁾もありますが、ヒトの皮膚には活性酸素種を除去する働きがあるため、細胞やマウスを用いた試験を基に推定された説は当てはまらないとして否定する意見⁸⁾もあります。(現状では、臨床的に何十年も安全に使用されていることから安全性に問題はないという説⁸⁾が有力です。)

レチノール配合の化粧品を朝使用すると有害事象が起こりやすくなると立証されているわけではありませんが、紫外線に当たると変質しやすいのは事実なので、夜のみ使用するか、朝使用する際は日焼け止めを重ねるなど紫外線対策を徹底することをおすすめします。

③パルミチン酸レチノールで紫外線を防げるって本当?

Instagramのフォロワーさんにアンケートをとったところ、回答してくださった中で約半数の方が「レチノール誘導体が日焼け止め代わりになる」というウワサを聞いたことがあるという結果でした。
ネット上では「パルミチン酸レチノールにはSPF20相当の紫外線防御効果がある」と書かれている記事が多くあり、実際にパルミチン酸レチノールを配合して紫外線防御効果を謳う製品も見かけました。

このウワサの元となっているのは、2003年に発表された「Vitamin A Exerts a Photoprotective Action in Skin by Absorbing Ultraviolet B Radiation」という論文です。
この論文では、ヒトの皮膚で検証した試験で、パルミチン酸レチノールを2%配合したクリームがSPF20の日焼け止めと同程度の紫外線防御効果(UVBによる紅斑を抑える効果)を持つという結果が示されています。

引用)Vitamin A Exerts a Photoprotective Action in Skin by Absorbing Ultraviolet B Radiation³⁾

また、パルミチン酸レチノールはUVA領域である325nm付近に吸収極大を示す紫外線吸収作用を持ち、UVB領域においても優れた吸収能を示すことがわかっています。

引用)パルミチン酸レチノールの基本情報・配合目的・安全性 , 化粧品成分オンライン²⁾

しかし、パルミチン酸レチノール配合の化粧品を日焼け止め代わりに使うことはおすすめできません。

上記論文³⁾の実験結果は「パルミチン酸レチノールを2%配合したクリームがSPF20の日焼け止めと同程度の紫外線防御効果を持つ」というものです。
レチノール類は少量で効果を発揮する成分で、配合量が増えると刺激が出る可能性も高くなること、また原料自体も高価であることから、2%も高配合した化粧品は少なく、販売価格も高額なものが多いです。(日本ではレチノール誘導体0.1%配合の製品でも「高濃度」と言われています。)
2%以下の配合量でどの程度の紫外線防御効果になるのかは検証されていないためわかりませんが、配合量が少なければ紫外線防御効果も下がる可能性が高いです。

また、パルミチン酸レチノールはレチノールよりは安定であるとはいえ、長時間紫外線にさらされると分解する可能性があります。そのため、塗った直後に紫外線防御効果があるとしても、その効果がどれくらい持続するかは不明です。
コスパや効果、安全性の面でも、一般的な日焼け止めを使用する方がはるかに安心でしょう。

さらにネットを検索していると「パルミチン酸レチノール配合の化粧品を塗り続けることで、パルミチン酸レチノールが肌に貯蔵され、肌自体がSPF20の紫外線防御力を持つようになる」というような情報も見かけますが、SPF20はパルミチン酸レチノール2%配合クリームを肌に塗布したときの数値なので間違っていることがわかります。
「肌に貯蔵されたパルミチン酸レチノールが紫外線防御効果を発揮する」というのは理論的には間違いではないかもしれませんが、どの程度の量を塗布すれば、どの程度の期間蓄積されるのかはわかっておらず、実際にどれくらいの効果があるのかは不明です。

レチノールやレチノール誘導体にはエイジングケアに役立つ効果がたくさんあるので、紫外線防御効果を目的に使用するというよりは、「エイジングケアのおまけで紫外線防御効果もあればラッキー」という気持ちで使用するのがおすすめです。

まとめ

今回は、Instagramフォロワーさんからの質問をもとに深堀りして、レチノールと紫外線にまつわるウワサについて解説しました。
みなさんも、美容にまつわる気になるウワサや、これってどうなの?と思う美容情報があれば、全力で調査してお答えするのでコメントやDMで教えてください。

レチノールと効果が似ていることから「次世代レチノール」とも呼ばれている「バクチオール」について気になる方は、こちらの記事も読んでみてください!

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(執筆:なな)

【参考文献】
1)レチノールの基本情報・配合目的・安全性,化粧品成分オンライン,2024年7月23日アクセス
2)パルミチン酸レチノールの基本情報・配合目的・安全性,化粧品成分オンライン,2024年7月23日アクセス
3)Vitamin A Exerts a Photoprotective Action in Skin by Absorbing Ultraviolet B Radiation, Christophe Antille , Journal of Investigative Dermatology,Nov;121(5):1163-7,2003
4)新 化粧品ハンドブック,日光ケミカルズ株式会社他,2007年10月発行,「ビタミンA」413-415.
5)ビタミン A と β- カロテンによる疾病の予防と治療 , 高橋典子, 今井正彦,李川, オレオサイエンス , 第14 巻第12号, 2014
6)シワを「目立たなくする」から「改善する」までの製剤技術と有効性 ,大田正弘 , J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn.  , Vol.53 , No.3 , 171-180 , 2019
7)Photocarcinogenesis study of retinoic acid and retinyl palmitate [CAS Nos. 302-79-4 (All-trans-retinoic acid) and 79-81-2 (All-trans-retinyl palmitate)] in SKH-1 mice (Simulated Solar Light and Topical Application Study) , National Toxicology Program Technical Report Series(568),1-352,20128)Current sunscreen controversies: a critical review, Mark E. Burnett, Steven Q. Wang, Photodermatology, Photoimmunology & Photomedicine(27)(2),58-67, 2011
9)レチノイン酸-治療の実際 , 東京大学 形成外科 吉村浩太郎,2008