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防腐剤は肌に悪い?フリー成分のメリット・デメリット【化粧品開発のプロが解説】
突然ですが、みなさんは化粧品を購入するときに「〇〇フリー」を気にして選びますか?
「パラベンフリー」「アルコールフリー」「鉱物油フリー」「紫外線吸収剤フリー」、最近では「酸化亜鉛フリー」「グリセリンフリー」など、「〇〇フリー」とたくさん書かれた化粧品を見ると、『肌に優しそう』と感じる方もいらっしゃると思います。
逆に、ここに書かれている成分が入っている化粧品は肌に悪いのかな?と不安になってしまう方もいらっしゃるかもしれません。
そこで今回はメーカーが「〇〇フリー」を掲げる理由と、よくあるフリー成分のメリット・デメリットについて解説します。
これからの化粧品選びの参考にしていただけたら嬉しいです!
そもそも「〇〇フリー」って何?
「〇〇フリー」とは「〇〇」という成分が配合されていないということを示す言葉です。それ以上でも以下でもなく、安全性を保証する言葉でもありません。
「無添加化粧品」という言葉もよく見かけますが、実は明確な基準はなく、メーカーの基準で特定の成分を配合していないことを「無添加」と呼んでいるだけ。つまりメーカーごとの独自基準です。
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メーカーが「〇〇フリー」を掲げる理由
近年、自身を敏感肌だと自認する人は増加傾向にあり、低刺激を売りにする敏感肌向けの化粧品が増えてきています¹⁾²⁾。
低刺激化粧品の競争が激化する中、特にネット上では多くのライバルと比較されるため「〇〇フリー」の数の多さで差別化をはかったり、そもそも「〇〇フリー」でなければ候補にも入れてもらえないという現象が起きているように感じます。
「○種のフリー」など多数の「〇〇フリー」を売りにする商品では、紫外線防御効果の必要がないスキンケア製品に「紫外線吸収剤フリー」や、通常サルフェート(主にシャンプーなどに使われる界面活性剤)が使われることはないスキンケア製品に「サルフェートフリー」、色がついていない製品に「タール色素フリー」など、処方開発経験者から見ると書いていることに疑問を感じるようなものにまでフリーがつけられ、数を稼いでる?と思うようなものもあります。
それに対して、デパコスブランドなど指名検索されるような有名ブランドには、よくフリー訴求されるパラベンやアルコールなども配合されているものが多く、効果の高さやブランドの世界観など、他の部分で戦っている印象があります。
よくあるフリー成分のメリット・デメリット
よくあるフリー成分も当然「使う人の肌にダメージを与えてやろう!」と意地悪で配合されているわけではなく、安全性を考慮した上で目的があって配合されています。
そこでここからは、よくあるフリー成分の配合目的やメリット・デメリットを解説します。
防腐剤・パラベン
「防腐剤フリー」「パラベンフリー」は一番よく聞くフリー成分ではないでしょうか?
防腐剤のデメリットは皮膚への刺激性ですが、メリットは菌汚染を防ぐことです。
化粧品は菌に汚染されることなく最後まで使い切れるように品質を保たなければならないので、防腐成分の配合は必須です。「防腐剤フリー」と書かれた製品でも、絶対に「防腐効果を目的とした成分」は入っています。
(そうでなければ菌に汚染された化粧品を肌に塗ることになってしまいます…。その方が怖くないですか?)
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例えば、収れん作用やさっぱりした使用感を演出するために配合される「エタノール」や、保湿剤として配合される「多価アルコール(BG、DPG、カプリリルグリコールなど)」にも防腐効果があり、これらを配合して防腐力の基準をクリアしていれば「防腐剤フリー」と言うことができます。
ただし、これらの成分はそもそも防腐剤ではないので一般的な防腐剤に比べると防腐力が弱く、製品の防腐力を保つために大量に配合すると、かえって皮膚刺激が高まってしまう可能性もあります。
パラベンのメリットは少量で高い防腐効果を発揮することなので、皮膚刺激が【少量のパラベン処方<多量の多価アルコール処方】になることも十分ありえます。
皮膚刺激性は成分単体ではなく成分の配合量や浸透性などトータルの処方バランスで考えるものなので、特定の成分のアレルギーでない限り(アレルギーの場合は少量でも反応する場合があります)、成分ではなく試供品や店頭などで実際に製品をさわってみて判断するのがおすすめです。
アルコール
化粧品でアルコールと呼ばれるのは、主に「エタノール」です。
エタノールのメリットは、すっきりとした使用感、水に溶けにくい成分を溶けやすくすること、有用成分の浸透促進、肌を引きしめる収れん作用、防腐力の補助などがあげられます。
製品の品質を保つ上では、化粧品成分の中には水にも油にも溶けにくいけどアルコールには溶けやすいという成分も存在するので、そのような成分の析出を防ぎ均一に溶かす役割があります。
効果を高める上では、成分の浸透促進作用⁴⁾と肌を引きしめる収れん作用があります。
デメリットとしては皮膚への刺激性ですが、こちらも配合量や処方のバランスによるので、エタノールが肌に合わない方は全成分表の上位に「エタノール」と記載されている製品を避けること、成分表を見てもわからなければ実際に触ってみて判断するのがおすすめです。
鉱物油・石油系界面活性剤
鉱物油はベビーオイルの原料である「ミネラルオイル」や、医薬品の軟膏基剤としても使用される「ワセリン」が代表例です。
石油由来の鉱物油は植物油と対比されて敬遠されがちですが、植物油と比べて酸化されにくく安定で、安全性の高い成分です。
昔は不純物による皮膚刺激が生じていたこともあったようですが、現在は精製技術が進化しているためそのような心配はほとんどありません。
石油系界面活性剤も石油由来ということで敬遠されがちですが、現在日本で使用されている原料は安全性の基準を満たしたものなので、過度に心配する必要はないと考えています。
「植物由来の界面活性剤」と書かれているものも植物由来の成分から化学合成して作られるものがほとんどなので、それらを「100%天然」と言い切るかどうかは各ブランドやメーカーの考えによります。
また、【天然=肌に優しい】というわけでなく、天然原料には未知の成分や不純物が含まれていることがあるため、かえって皮膚刺激が起こりやすい可能性もあることは、ぜひ頭の片隅に置いておいてください。
界面活性剤自体の役割や肌への影響についてはこちらの記事もご覧ください▼
紫外線吸収剤
紫外線吸収剤のメリットは高いUVカット効果と、白浮きしない軽い付け心地です。
デメリットとして皮膚への刺激性があげられますが、日本で使用されている紫外線吸収剤は国内の基準をクリアしていて一定の安全性が確認されているため、肌に合わない一部の方以外は問題なく使用できます。
「紫外線吸収剤は肌に悪い」という情報が広がり、「紫外線吸収剤フリー」の日焼け止めが増えていますが、今まで紫外線吸収剤配合の日焼け止めを問題なく使っていて肌荒れなどが起きたことがない方は、特に避ける必要はないと思います。
最近では、刺激の少ない新しい紫外線吸収剤の開発や、複数の吸収剤や散乱剤との併用によってトータルの紫外線防御剤の配合量を減らすなど、肌への負担を少なくする工夫も行われています。
敏感肌向けブランドからも、刺激の少ない紫外線吸収剤を配合して、低刺激と高いUVカット効果を両立した日焼け止めが発売されています。
日焼け止めの技術がどんどん進化している中、肌に悪いというイメージだけで紫外線吸収剤配合の製品を避けるのはもったいないので、紫外線吸収剤で刺激を感じたことがない方は、吸収剤の有無に関わらずいろいろな日焼け止めを試してみてはいかがでしょうか?
日焼け止め成分についてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事も読んでみてください▼
酸化亜鉛
酸化亜鉛は紫外線散乱剤として、日焼け止めやファンデーションなどのベースメイクに配合されている粉体原料です。
酸化亜鉛の一番のメリットは主に光老化の原因となるUVAを防ぐことができること。
また、酸化亜鉛には皮脂を吸着する作用があるため、化粧崩れやテカリを防ぐ目的でファンデーションや皮脂崩れ防止下地などに配合されることもあります。
最近、「酸化亜鉛が毛穴に詰まる」というウワサが広がり、毛穴を気にする方を中心に敬遠されがちですが、実は酸化亜鉛が毛穴に詰まりやすいというウワサには根拠となる論文やデータはありません。
実際に「酸化亜鉛配合の製品を使ったら毛穴が詰まった」という方は、日焼け止めやファンデーションをクレンジングで落とし切れていない可能性も考えられます。
酸化亜鉛配合の製品を避ける前に、メイク落ちの良いオイル系のクレンジングを使用するなど、クレンジングや洗顔の方法を見直してみるのもおすすめです!
以下の記事では、酸化亜鉛と酸化チタンに皮脂と近い油を混ぜて観察する実験もしているので、ぜひ読んでみてください▼
まとめ
今回はよくあるフリー成分のメリット・デメリットと、メーカーが「〇〇フリー」を掲げる理由について解説しました。
化粧品の成分表示は消費者のみなさんが自分に合わない成分を避けるためにあるので、合わない成分を無理に使う必要はありません。
ただ「なんとなく肌に悪そう…」というイメージだけで特定の成分を避けるのは、これから出会えるかもしれない素晴らしい製品との出会いの幅を狭めてしまうことになるので、もったいないと思います。
ぜひ製品を実際に使ってみて自分の肌との相性で判断してみてください✨
よく見かけるフリー成分は他にもあるので、解説してほしい成分のリクエストがあれば、ぜひコメントで教えてくださいね!
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(執筆:なな)
【参考文献】
1)あなたは敏感肌?ゆらぎ肌?それとも非敏感肌?コロナ禍を経て注目高まる「敏感肌化粧品」に関する調査を実施(丸善製薬株式会社),PR TIMES,2023年3月14日
2)敏感肌化粧品市場に関する調査を実施(2023年),矢野経済研究所,プレスリリース,2023年2月22日
3)日本化粧品工業会HP,化粧品の基礎知識, 化粧品に使われるアルコール,2024年11月29日アクセス
4)角層の分子構造や薬剤成分の皮ふ透過性におよぼすエタノールの影響,株式会社池田模範堂HP,2024年11月29日アクセス
5)化粧品における防腐処方設計の考え方ーパラベンフリー・防腐剤フリーの実現に向けてー,目片秀明,J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn.、Vol.51,No.1,(2017)