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夢あふれる京の地名、てんしつきぬけ「天使突抜」

京都は古い街であることはよく知られているが、古風ゆかしいと思われる反面、ときにユニークすぎる地名が今も残されている。そのひとつが「天使突抜(てんしつきぬけ)」である。下京区の西洞院通と油小路通の間あたりに、東中筋通を中心に町が広がっている。昔の風情が残る中に、1丁目と2丁目は五条通に近く界隈は、京町家風の住宅地。マンションや一軒家が並んでいる。3丁目と4丁目は南に進むと、小さな寺院が点在する静かなエリアだ。ある日、偶然にこのすてきな名前をみつけた筆者は、すてきな天使を探しに早速でかけてみた。

京都の地名「天使突抜(てんしつきぬけ)」:京都市広報版
出典:京都観光旅行ガイド

平安遷都時代に「天使の宮」、「天使社」と呼ばれた五條天神宮


松原通りの「五條天神宮」が、この「天使突抜」に関係があるらしい。そもそも「五條天神宮」は、平安遷都の際に桓武天皇の命で、弘法大師空海によって勧請されたと伝わる古い神社で、「天使の宮」とも「天使社」とも呼ばれていた。後に後鳥羽上皇の時代に「五條天神宮」と改名される。ご祭神は、大己貴命少彦名命天照大神の3柱。特に少彦名命は薬の神様として、医薬の神として信仰されてきた。

牛若丸と弁慶の逸話、実は五條天神宮だった

そういうことから「五條天神宮」は厄除けの神様として親しまれており、特に毎年2月の節分祭では、日本最古とされる宝船図を授与することで知られている。また、松原通はかつて五条通と呼ばれていたため、『義経記』には、牛若丸と弁慶が出会った場所は「五条大橋」ではなく、実はこの「五條天神宮」だったとも記されている。

五條天神宮
出典:京都市公認「京都観光Navi」

こうして由緒あるこの界隈は「天使突抜」のすてきな町になった

歴史ある「五條天神宮」。天正年間(1573~1592年)に豊臣秀吉が京都改造(天正の地割)を行った際、五条天神社の境内に新しい街路が通された。境内を貫く道ができて、次第にその周りには町が作られていく。それでこの辺りは「天使の社を突き抜けて作られた場所」という意味で「天使突抜」と呼ばれるようになった。なんともかわいい地名だが、秀吉が京都愛からこの名をつけたとは、京の人たちは思ってないはず。

京都の町に残るすてきな地名
京都市の地名案内:「天子突抜2丁目」
撮影:kyotoK

「天使」と「天子」、2つの記述が残っている

天使突抜」は、『寛永十四年洛中絵図』(1637年)では「天使」と記されていたが、『京雀』(1665年)には「天子のつきぬけ」と記され、『京町鏡』(1762年)に至って、現在と同じ「天使突抜」と記されるようになった。


京都訪問には、混雑する名所旧跡観光の合間に、ユニークな名称の地名を探してみてはいかがだろう。1000年の歴史ある京都では、この「天使突抜」(てんしつきぬけ)に限らず、「悪王子あくおおじ」「閻魔前えんままえ」など、映画かアニメに出てくるような地名が、今も現役で残っている。このように、この先忘れられそうな京都の歴史や伝統のひとこまを、筆者は描いていきたい。そこに天使があらわれるか、京都の都市伝説に出会うかは、今後のお楽しみとさせていただく。

追伸:記事を書いた翌日、天使の記事にちなんで京都は雪。

大雪の地域ほどではないが、京都は雪になると静けさが戻る。
天使の名を持つ通りにも、この真っ白の雪が降り注いでいる。
「日々わたしたちが抱える雑念は、雪に染まった天使さんがきれいに
とかしてくれるといいな」天から舞い降りてくる雪にお願いした。

2月…新春、京都の雪
撮影:kyotoK

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kyotoK
noteの2年目はチャンレンジングな創作にもアプローチしたいです。応援いただいたチップで取材をしたり、作品づくりに活用させていただきます!