
【映画コラム】GOSPEL
ずっと気になっていた映画がある。私がアジアンドキュメンタリーズを契約した理由になった映画だ。
言われてみれば確かに、ということがテーマになっている。
「ゴスペル」というのは、キリスト教の讃美歌の一種だ。歴史を遡ると、黒人奴隷が自らの境遇を嘆きながらも神を信じることに希望を見いだし歌っていたものが原型にあるという。
日本では、映画「天使にラブソングを」の大ヒットを経て、ゴスペルが本格的に定着し、ゴスペルの歌唱人口が増えた。ただ、ゴスペルを歌う人が必ずしもキリスト教信者というわけではない。むしろ、日本人でゴスペルを歌う人間の大半はキリスト教信者ではない。
そんな、日本に不思議な形で定着したゴスペルについて取材した映画である。
「ゴスペル音楽は神が自分の言葉を伝えるためのものだ。音楽は世界共通のものであり、国を超えて親しまれている。なので、神は音楽を、メッセージを伝える手段として選んだんだ。どんなキリスト教の教会でも、ゴスペル音楽が使われています。ゴスペル音楽によって、神の言葉を頭と心で受け入れている。私はそう思うよ。」(牧師:セドリック・マーフィー談)
「そうっすね、やっぱこう歌うとストレス解消になるし、終わった後の飲みも楽しいですし。はは。なんかそっちの方が楽しみなんじゃないかって話なんだけど。」(日本人ゴスペルサークル参加者)
私はゴスペルが好きだ。
「天使にラブソングを」もとても好きだ。なんなら、サントラを持っている。
私はキリスト教信者ではないが、宗教学が好きだし、ミッションスクール出身ということもあり、なんとなくキリスト教という文化が嫌いではない。
讃美歌が嫌いではないし、聖書が嫌いではないし、教会が嫌いではない。別に好きなわけでもないけど。
この映画には、ゴスペルを大切に歌うキリスト教信者がたくさん出てくる。
そして、ゴスペルをJ-POPや演歌と同じような音楽の一つのジャンルとして理解する日本人も出てくる。キリスト教の神を賛美する歌詞を、キリスト教を信仰していない人間が歌うことには、とても違和感がある。
「結構僕もね、それつまずいたんですよ。自問自答していて。神様いないのに、思ってないのに、うん。例えば、『Thank you load,I love you load!』っていう歌詞のことを、『I love you』じゃないのに、歌ってる音ってどうなの、とか。」(Bro.Taisuke:ルイジアナ在住日本人)
真面目にゴスペルに向き合う人ほど、色々なことを考えているようだ。歌えば歌うほど、だんだん申し訳なくなってくるのかもしれない。
ドレッドヘアとか、ラップとか、ある文化が貴重な歴史に繋がることがある。
そして、気軽に扱うことが、それ自体を軽んじられていると憤慨されることもあるのだろう。
個人的には、ゴスペルはその歌唱法自体のかっこよさだけでなく、その中に神を賛美する崇高な理念が入っているからこそ美しいと思っている。
自分がその中に入って歌っても、ただ聞くだけでも、ゴスペルという文化が美しく、神を賛美しようとして出来上がった作品や、思いのこもった歌がとても美しい。
我々だって、海外のヘンテコ寿司や着崩した着物、意味のわからない感じのタトゥーには違和感を覚えることがあるだろう。自分たちにとってはかっこいいだけのものが、誰かにとっては高尚で気軽に侵犯して欲しくない物事もあるのだ。
文化の多角的な捉え方について学ぶことができた。