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ハリネズミの願い

ガサッと音がした。
ドアの方だ。
注意深くドアの方を見ていると、ドアが静かに開いた。
そこに見慣れない生き物がいたので、うわっ!!! と声に出してのけぞった。

「驚かないで」と生き物は言った。

小さな生き物が話すのだから、さらに恐ろしい。

「驚かないで」と生き物はもう一度言った。

「ぼくはハリネズミだよ」

確かによく見ると、ハリネズミのようだった。

「ぼくを見るのは初めて?」とハリネズミは言った。

「いや、初めてではないかもしれない。動物園で見たことがあるような気がする」

恐る恐る返事をしてみた。
ただ、怖がっているよりは、話をした方が、怖さが無くなる気がしたのだ。

「動物園って何?」とハリネズミは言った。

「動物園というのは、たくさんの動物がいるところだよ。ゾウやキリン、猿やフラミンゴ、とにかくたくさんの動物がそこにいるんだ」

ハリネズミは目を大きくして言った。
「動物園! そんな素敵な場所があるんだね! そこではたくさんの動物たちが一緒にご飯を食べたり、語り合ったりしているんだね!」

「いや、一緒じゃないんだ。ゾウはゾウ。キリンはキリン。ほかの動物とは一緒にいないんだよ」と教えた。

「一緒にいないんだ。じゃぁ、動物園ではみんなどこに住んでいるの? それぞれに家があるの?」

「いや、家というか、檻」

「檻? 檻って何?」

ハリネズミが不思議がっている様子を見ていて、これ以上この話をするのはやめようと思った。

「ところで、どうしてうちに来たんだい?」

ハリネズミは、そうだった、という表情で語り始めた。

「ぼくは、長いことずっとみんなをうちに招待したくていろいろと考えていたんだけれど、いろいろと考えているうちに、招待をするんじゃなくて、自分から訪ねてみようと思い立ったんだ。いろいろと尋ねて来たんだけれど、今日は、人間の家にやってきたんだよ。紅茶はある?」

「紅茶はないよ。コーヒーならある。」

「コーヒーって何?」

「コーヒーは黒い飲み物だよ。コーヒーという植物の豆を使うんだ。飲むかい?」

「いや、いらない。人間は紅茶は飲まないの?」

「飲む人もいるよ。僕もたまには飲むけれど、うちにはないんだ」

「そう。それは残念だ。ケーキはある?」

「ケーキもないよ。」

「そう。誰かが訪問してきたら、紅茶とケーキじゃないの?」

「そうとは限らないよ」

「そう。僕の家には、いつも紅茶とケーキがあるよ。ケーキは灰色だけどね。人間の家にもあればいいのに」

「ごめんね。でも別の人間の家にはあるかもしれないよ」

そう答えると、ハリネズミは、「じゃぁ、別の人間の家に行ってみるよ。ありがとう」と言って走り出そうとした。

帰りがけに、ハリネズミは言った。
「僕の針は怖くない?」

「怖くないよ。かわいいよ」

ハリネズミはにっこり笑って、いなくなった。

不思議な出来事が起きたものだ。これは夢なのだろうか。
ふと、本棚に目をやると、こんな本があった。

『ハリネズミの願い』
本棚にずっとしまっていた本を読んでみたので、その感想文代わりに、こんな文章を書いてみようかと思った。
ここに書いた文章のような適当な物語がひたすらと続く本です。

キャーーー!!!

叫び声が隣の家から聞こえてきた。

ハリネズミは隣の家に行ったのかもしれない。


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