お金は大切だよ~-賃金支払いの規制-賃金支払いの4原則(その2)
1.前回の補足で、通貨払原則の例外をお話ししておきます(労基則7条の2第1項)。「金融機関口座への払い込み」についてです。これには、次のように厚生労働省労働基準局長名での通達(行政解釈例規)が示達されています。
銀法振込(H10.9.10基発530号)
①個々の労働者より書面による申出または同意をとりつけること
②労使協定を締結すること
③計算書を賃金支給日に発行すること
④支給日の午前10時ごろまでに払い戻し可能な状態になっていること
⑤金融機関は、一社、一行に限定せず、労働者の便宜を図ること
いかがでしょうか。組合のない職場が多いゆえに、②は困難ですね。また、④につき大企業は可能でしょうが、弊社のような中小企業ではなかなかそうもまいりません。⑤も中小では、会社の指定する金融機関(支店)に限定されているのが現実ではないでしょうか。そうすると、せいぜい本人名義の口座に払い込まれ、賃金支払日にその明細が渡されること程度が、中小企業における銀行口座の主なあり方であるような気がいたします。ちなみに大昔、中小の塾講師をしていたとき、所定支給日(25日)から数日遅れて支給されていることが常態化しておりました。貧乏学生の私は、27日引き落としの残高が微妙で、たびたび困りました。そのくせ経営者は、一人高額な報酬を懐にしておりました。この業界が現在、「ブラック」な体質といわれる理由もわかるような気がいたします。
2 直接払いの原則-自分の賃金は、自ら受け取るー
使用者は賃金を労働者本人に支払わねばならず、代理人への支払いは許されません。中間搾取禁止のためです。例外はありません。労働者本人が未成年の場合であっても、同様です(労基法59条)。親権者への支払いも禁じられるのです。しかしながら、病気である未成年者の代わりに親が「使者」として賃金の受け取りに来るようなケースは社会通念上、容認されることでしょう。もっとも今どき、月給を手交する会社も少ないでしょうから、現実味は乏しいのかもしれませんね(ちなみに、弊社は最近までそれでした 笑)。
なお、労働者が借金をしている第三者に賃金債権を譲渡していても、使用者がその譲受人に対し、本本来労働者が受け取るはずの賃金を直接渡すことはできません。もし渡してしまっても、労働者に支払ったことにはなりません(『小倉電話局事件』最三小判S43.3.12)。民法上は、賃金支払請求権を譲受人が有するはずなのに不思議ですね。でも、労働者の生活を守るため、労基法24条(直接払いの原則)がそこに立ちはだかるのです。
もっとも、民事執行法や国税徴収法による差し押さえでは、その例外として「賃金の4分の1」を限度に使用者から差押債権者への支払いが認められております。それでも、全額まで支払ってしまうと、労働者の生活が成り立たなくなる虞あるゆえに、残り4分の3は当該労働者に支給させようとの法意です。しかも、24条違反には30万円以下の罰金が科される虞もあります(同120条)※
※「たかが罰金」と侮ってはなりません。法人と違反者の両罰になることもあり、他の許認可での欠格要件に該当する可能性もあります。なにより、労基法違反は厚労省で実名が公表されてしまうのですから(参考 労働基準関係法令違反に係る公表事案 令和5年7月1日~令和6年6月30日公表分)。使用者の蒙るイメージダウンは大きいはずです。
(続く)
プロフィール
オイカワ ショウヨウ
『地域連携プラットフォーム』に勤務の傍ら、某大学の研究所に所属。
複数の国家資格を有し、また『府省共通研究開発管理システム(e-Rad)』に登録され、研究者番号を有する研究者でもある。