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お金は大切だよ~-賃金支払いの規制-賃金支払いの4原則(その3)

今回は大切なところです。但し、原則と例外があります(法律とは、そういうものですが)。

そもそも使用者の中には、なにかと理由をつけて賃金の一部を控除しようとする輩がいます。そのようなことをされれば、労働者の生活は経済的に不安定になります。さらに、辞めたくても辞められないことにもなりかねませんよね。そんなことを許さないものが、賃金支払いのルールにあります。

1.全額払いの原則

使用者は労働者に対し、賃金の金額を支払わねばならないというものです。すでに支払いが「確定」した賃金について全額の支払いを命じます。したがって、使用者からしてする一方的控除は許されません。特約で、それを決めてもダメです※① また、労基法による義務とすることで、労働基準監督署も強く使用者に指導することが可能になります。但し、賞与や退職金の場合には少し事情が異なります。そこに、使用者の裁量が加わる余地があるからです。たとえば、就業規則等で「会社の経営状況によっては賞与を支給しないことがある」との定めがあれば、賞与の不支給が全額払い原則違反にならなくなります。だからこそ、憲法は28条で労働基本権を定め、労働組合を結成しての使用者と労働組合との労働条件の対等な集団的決定を促しているのです。相対的に強い立場にある使用者に勝手なことをさせないためにです。また集団的労使自治により、労基法で定めた労働条件の最低基準をはるかに超えるよい待遇を実現させるために(労働組合法による組合と使用者との団体交渉=団交。場合によっては、合法的なケンカたるストライキで)。

2.全額払いの例外

他方で例外もあります。

①法令に定めある場合
たとえば、所得税や社会保険料等の源泉徴収の場合です。税金を徴収するために便利な制度ですよね。

②労使協定による場合
労働者の過半数代表と使用者との労使協定によって、何かの天引きを定めた場合です。労基法の例外設定になります。
しかし、けっして無制限ではありません。社内預金、組合費、社宅費などの定期的・明確な金員のみ控除を認めます。

③相殺の場合
使用者による一方的な相殺は原則許されません。ただ、「真に労働者の同意」を得ている場合(合意相殺)はOKとされます。
このことにつき、最高裁はそれぞれ次のように判示しています。
・賃金計算で生じたわずかな過払い額を翌月支給分(要は接着した時期に)から控除賃金支払い後に欠勤したときに、すでに過払い分につき次の賃金で清算する場合です。
・同委に基づく相殺-会社から受けた住宅貸付金(住宅ローン)を退職金と相殺して一括返済※②
・使用者からの労働者への損害賠償請求(相殺)は否定

※①就業規則を変えれば、手当の廃止は許される場合もあり得ます。もっとも、こうした使用者による就業規則の不利益変更は労基法学上の大問題です。
※②上述労使協定がなくとも、労働者が「真の意味で相殺に同意したとき」は全額払いの例外にならないと、最高裁はいいます。しかし、労基法は強行法規であって、たとえ労働者が自由な意思で同意した場合であっても、私法上無効とされるはずです。弱い立場にある労働者に、対使用者とのシーンで「真の」自由な意思が期待できましょうか。それゆえ、「集団での意思は尊重しても、労働者個人の意思は信用しない」のが労基法が民法と異なる特色のはずなのに。しかも、使用者は都合よく「債権回収」できますよね。腑に落ちない判決です。

(続く)

オイカワ ショウヨウ
『地域連携プラットフォーム』に勤務の傍ら、某大学の研究所に所属。
複数の国家資格を有し、また『府省共通研究開発管理システム(e-Rad)』に登録され、研究者番号を有する研究者でもある。