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球根を求めて

文章を書くためには、黄金の卑弥呼の球根がいるらしい。

それを探すと、ホームセンターの屋根の上に小さな祠があって、そこを覗くと、「在庫一点」と看板があった。
迷わずに、その奥の方にあった小さな玉ねぎのようなものを手に取った。
それは小さい割にずっしりと重いだけで、あとは育ち損ないの玉ねぎだった。

どこにいくらお金を置いたら良いのかわからず、とりあえず、祠の中に取り残されたミョウガの天ぷらの上に、五百円玉と、使いきれなかった一円玉を乗せられるだけ乗せておいた。

卑弥呼の球根を抱えたまま屋根を降りると、ちょうど下でやっていた置物のばらまき祭りに引っかかって、屋根から滑り落ちた。

そのせいで巳が蛇に変化し、陶器はばらばらに砕けて大混乱になった。

ごめんなさいごめんなさいと頭を下げ、人混みを抜けると、そこは邪馬台国だった。

やあこんばんはと声をかけられ振り向くと、始皇帝が衣を引きずりながら笑顔で立っていた。

思わず、球根を手の中に隠すと、始皇帝の顔がみるみるうちに玉ねぎに変わり、皮が次々に剥けた。

我に返ると、始皇帝のかけらもないただの玉ねぎの残骸が、地面に散らばっていた。

とりあえず先を急ごうとしたら、手の中の球根がプチッと潰れる音がして、その音は邪馬台国じゅうに響き渡った。

その球根から出てきた青くて碧い汁は、大地の草木や小動物を染め上げた。
なんだなんだと、家からぞろぞろ出てきた邪馬台国人は、よく見ると、ホームセンターのスタッフたちだった。

ああ、原さん、田中さん、谷口さん!

原さんは、どうも私をナウマンゾウの申し子だと勘違いしたようで、持っていた打製石器を振り回して、私の腹に突き刺して持って帰った。

その途中で見た光景。
もうそこには たて穴住居しかなくて、あちらこちらに見覚えのある人骨と、象骨が散らばっていた。



結局、卑弥呼の球根は手に入らなかったけど、目が覚めた時、手が物凄く玉ねぎ臭くて笑うしかなかった。






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