一生懸命やっているのに。
大通りから路地に入ると
そこはどこか昭和の雰囲気が残る下町の住宅街。
その一角にひっそりと佇むお店。
ここはコーチのお店。
決して多くの人がたどり着くわけではない
ようだけど、
そのお店には、コーチと名乗る店主がいて、
様々なお客の悩みを聞いてくれるという。
そして、どうやら
そのコーチには不思議な力があるらしく、
噂を聞きつけてやってくる人たちがいるらしい。
今日も一人のお客が来たようだ。
客
「私、一生懸命やっているのに。」
コーチ
「どうしたの?」」
彼女の悩みはパートナーとの悩み。
彼女は一生懸命やっているのに、
パートナーに認めてもらえないんだとか。
コーチ
「それで、何が問題なの?」
客
「彼が認めてくれないから、
なんだか劣等感や罪悪感を感じてるみたい。」
コーチ
「どうして?」
客
「彼の役に立ててない、と思うし。」
コーチ
「彼の役に立とうと一生懸命しているけど、
彼の役に立ててないんだ。本当にそう?」
客
「料理や洗濯や掃除だって、彼を喜ばせたくて
一生懸命しているけど、彼はそれだけじゃ足りないみたい。
私は彼ほど稼ぎもないし。」
コーチ
「そう。でも、彼は料理はしなくていいし、
洗濯も掃除もしなくていいんだよね?」
客
「そうだよ。だから、もっと喜んでもらいたいのに、
彼は足りないみたい。」
コーチ
「役に立ってないの?本当に?」
客
「……実際は役に立ってると思う。」
コーチ
「だよね。役に立っている。
彼が言わないか、そう思ってないだけで。」
客
「……そうだね。」
コーチ
「もし、そういう人がいて
君に同じ相談をしてきて、
一生懸命やっているのに。
と言われたらなんと言ってあげる?」
客
「あなたは役に立っているよ!って。
自分を認めてあげて。何なら私が認めてあげるって。」
コーチ
「そう言ってあげたら?罪悪感なんて感じたりしないで、
役に立ってるよ!私が認めてあげる、って。」
客
「ほんと。そうだね。なんか彼を基準にしてたみたい。」
コーチ
「それに、さ。喜ばせたかったんじゃない?元々さ。
役に立とうなんて、彼に、というよりは
自分が彼のためにやっていることで
自分を喜ばせたかったんじゃない?」
客
「あ、そうなのかな。
私はそうしてあげたいと思っていたし、
そんな私が好きなのかも。」
コーチ
「その結果として、彼が認めてくれなかったら
どう思う?」
客
「認めてよ!ってやっぱり思う。
あ、ちょっと待って……
私が私を認めていたらそれでいいのかな。」
コーチ
「いいねー。彼を基準にしていたけれど、
自分を基準にしてみたら
それで私の好きな私になっている、よね?」」
客
「そっか。そうだよ(笑)
彼が認めてくれなくても、
それはそれでいいのかも。
何だか力が入りすぎてた気がする。
私は私が好きな私でいたらそれでいいんだ。」
コーチ
「だね。それで彼がああしろ、こうしろ、
と言ってくるなら、また話は別だ。
その時、私基準の私だったら?」
客
「うるせー。って言うかも(笑)」
コーチ
「いいんじゃない(笑)」
二人の笑い声
穏やかで快活な時間。
店を出る時、
「髪でも切ってこよ」と笑う彼女。
重たかったものが、軽くなった。
軽くなったから、明るくなれた。
楽しいことを心地いいことをやりたくなる。
店を出ると、
空が広く感じて、景色は変わっていた。
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コーチのお店メモ:
この世界を創っているのは自分だと
信じたら、
世界はそのように見えるし、そうなる。
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