コーチングを実践する時に自分が意識する三つのタイプの「アドバイスモンスター」たち
みなさん、こんにちは。
コーチェットでカリキュラムデザイン、研修の講師やコーチをしている松川倫子です。コーチェットCEOの櫻本さんと同期関係であった証券会社勤務の後、延べ12年ほど「働く大人の学び」に関わる仕事をしてきてます。
具体的には、集合研修やワークショップ、オンラインコース、マンツーマンのトレーニングといった、日常から少し離れた環境で行われる学びの場をデザインしています。参加者が、日常に戻った時にどういうことを持ち帰ってもらうことが重要なのか、を出発点に、そのために何がどの順番で準備されているとそれが実現する可能性が高いか、などを考えながら形にしていくお仕事をしています。
そんな私がコーチングを実践する側の勉強を始めたのは3年前でした。
大人の成長を支援する手段の一つとして自分も身につけておいたら活動の幅や生み出すことのできるインパクトが広がるんじゃないかな、という漠然とした好奇心が背景にありました。
今回は、そんな私自身がコーチングを学ぶ過程で対峙することとなったアンラーニングの必要性、相手や状況に合わせて関わり方を使い分ける上で役立っている「アドバイス・モンスター」という概念について書いてみます。
大人の学びの基盤となる、それまでの経験
子どもに学びを届けるための教育論と成人を対象にした相手に学びを届けるための教育論は別に存在すること、ご存じですか?
前者は英語でPedagogyペダゴジー、後者はAndragogyアンドラゴジーと呼ばれています。アンドラゴジーでは、人生経験を重ねている大人は子供とどのように学習者として違い、適切とされる学びの環境デザインはこう異なる、ということが研究されているのですが、その分野で有名なノールズ(Knowles)は、大人の学びの特徴として以下の4つをあげています。
私がコーチングを学ぼうと思ったのもまさに「自分の仕事の幅を広げられないかな」という課題意識が出発点でしたし(4.)、キャリアのみならずプライベート面でのプラスの影響も期待できそう、と動機づけがされて(3.)、信頼できる人からのアドバイスや参加した体験会などの経験をもとに自ら学び方を決めて始めた(1.)コーチング習得でした。
その経験がコーチングを身につけていく上で邪魔になるときもある
ところが、私のコーチング習得の旅は想定外の壁にぶち当たります。まさに大人は「それまでの自身の経験を基盤として学習していく」からこそ立ちはだかった壁です。
新しく私が習得しようとしていたコーチングに必要なマインドセットやスキルは、それまでに自分が経験を繰り返して習得してきたスキルとは全く別物、むしろ、一部真逆なところがあり、自身の経験を基盤として学習することの難しさがあったのです。
それまでの自分の経験を通じて身につけてきていたスキルは相手が必要としていることを察知したり、経験をもとにした見立てをした上で、相手の様子を見つつ、自分の判断でタイミングや出し方を見計らいながら、何かを伝える、ということでした。
一方、新たに学習しようとしていたコーチングの前提にはこういうものがあり、正直、それまでの自分の考え方や在り方からすると違和感のあるものでした。
「経験を基盤として学習」するどころか、「そんなんで本当に相手や場に価値を届けることができるのか?」「できるとしても、自分にそんなことができるのだろうか?」という少し懐疑的な気持ちを抱きながらの学びの開始、また、頭でわかった後も実際に自分が自然にできるようになるためには、それまでの自分の慣れていたアプローチを一旦横に置き、不慣れで若干不安を感じるやり方の練習を繰り返す、ということが必要となりました。
居心地の悪い場所は成長の出発点でもあるということ
コーチェットのプログラムに参加して、コーチングスキルを習得しようとしていらっしゃるリーダー・マネージャーの方々が「コーチングの場なんだけれど、ついアドバイスしたくなっちゃうんだよね」と振り返りを共有してくださることがあります。
そんな声を聞くたびに「この方も、不慣れな中、新しいチャレンジに向き合っていらっしゃる」と心から応援したい気持ちでいっぱいになります。
ずっとスキーをしていた人がスノボを初めて学ぶように、またはずっと大企業で働いていた人がスタートアップでの働き方を学んでいくように。最初の違和感は自分のコンフォートゾーンを飛びでようとしている、という証拠のはず。一旦「初心者」モードにリセットされるという居心地の悪い場所を耐えていくと、その先には両方の良さや可能性を理解できている新しいバージョンの自分に到達できる。そんなことを思っています。
飼い慣らせる存在としての「アドバイス・モンスター」
そんなこんなでコーチングを学んだ私も、今でもふとしたときに、長年自分の中で訓練されてきていたモード(ティーチング、アドバイス、メンタリング)が出てきてしまうのを感じます。「本当はあのとき、コーチング的に関わったほうがよかったかもなぁ」と後から振り返ることもよくあります。
そんな自分に「なるほど」という視点をくれ、コーチングをしたい状況下ではきちんとコーチングに集中することを助けてくれた一冊の内容を紹介します。
その本の名は「The Advice Trap: Be Humble, Stay Curious & Change the Way You Lead Forever」(2021年3月、未邦訳)。日本語に直訳すると「アドバイスの罠:謙虚になり、好奇心を持ち続け、あなたのリーダーとしてのあり方を永遠に変える」となりますが、コーチングに関わるスキルやマインドセットをビジネスパーソンにわかりやすいように広めてくれていることで有名なMichael Bungay Stanierによる書籍です。
この本のメッセージを非常にざっくりまとめるとこんな感じです↓
アドバイスするのがダメなわけじゃない、相手のためを想ってティーチングするのがいけないわけでもない。でも「アドバイス・モンスター」は暴れることがあるから、取り扱い注意だったよね。今自分はアドバイス・モンスターに操られているのだろうか?それとも飼い慣らした上で発言・行動をしようとしているのだろうか?という考え方をくれたのがこのアドバイス・モンスターのフレームワークでした。
「自分はこういう人間である・・・だからコーチングを自然に実践するのが難しい」という捉え方をするのではなく「自分の中には、こういうモンスターが住んでいる・・だからきちんと飼い慣らせていないとコーチングの邪魔をする」という捉え方をする、という視点の切り替え。
3つのタイプの「アドバイス・モンスター」、それぞれの特徴とリスク
「アドバイス・モンスター」には皆、名前がついているので(日本語名は私の意訳)以下それぞれの特徴を合わせ簡単に紹介しますね。
Tell it advice monster「伝えないと」モンスター
Save it advice monster「救わないと・危機回避しないと」モンスター
Control it advice monster「自分じゃないと・管理しないと」モンスター
どうでしょう?出会ったことのあるモンスター・ご自身の中に住んでいるモンスターはいらっしゃったでしょうか?
こういう説明を読んでしまうと、飼い慣らせていないとちょっとまずいかも、と思わされますよね。少なくとも私は思わされました。
ちなみに、モンスターはそれぞれ大好きな活動場所があると感じます。同じ「職場」というシーンにおいても、特定のメンバーでやるとき、特定のタスクが目の前にあるとき、プロジェクトの特定のフェーズのとき・・・。自分の中のモンスターが喜ぶ場所は色々です。仕事以外の場でも、パートナーとの関わり方、友人との関わり方、親子での関わり方など。
私は多かれ少なかれ3つのタイプ全員とも自分の中で飼っているなぁ、と思っています、笑。
おわりに
私自身、コーチングを学ぶ以前はこれらのモンスター(おそらく全タイプ)に餌をやり続けていて、かなり元気になるまでしっかり育ててきた、という自覚があります。そんな彼らに愛着もありますし、モンスターが活動してくれたからこそ切り開けた世界もたくさんあったんだと感謝すらしています。
でも、そんな彼らに少しお休みして欲しいとき、行動するスピードや量を控えめにしてほしいときもあるんだよな、というのをコーチングを学んでその価値を知ってから気づきました。モンスターたちだってたまに休んだり、「ここぞ」という時に力を発揮してくれたほうが私も彼らもハッピーなはず。
「コーチングの場なんだけれど、ついアドバイスしたくなっちゃうんだよね(自分はまだまだだなぁ↓)・・」ではなく「コーチングの場だから、ついアドバイスしたくなっちゃう自分の中にいるアドバイスモンスターにはお休みしてもらおう(自分、モンスターを飼い慣らすことができている↑)」と感じながらのコーチング実践。
ティーチングやアドバイスをついついしてしまうことがあるなぁ、もっとコーチング的な関わり方ができるといいのに、と思っている方がいらっしゃったらぜひよかったら試してみてくださいね。