「熟達への渇望」が人を突き動かす
私の人生で大きな転換点になったのは、大学院への進学である。そのとき初めて、自らの意志で学ぶ経験をした。
子供の頃から基本的に親や先生の敷いたレールの上をひた走ってきた。優等生を演じることが多かった。だから、私にとって勉強は大人から「やらされる」ものだった。
大学3年生の夏休み、映画『ビリギャル』を観に行った。このとき、これまで感じたことのない感情を味うことになる。
有村架純さん演じるさやかさんの変容が、自分も本気で学びに向き合って何かを成し遂げたいという思いが芽生えた。
最後、坪田先生がさやかさんに言葉を送るシーンがある。「意志あるところに道は開ける」。この言葉が今でも忘れられない。自らの意志が人生を切り開いていくのだと強く、強く、胸に刻まれた。
この映画を見てから、教員採用試験の勉強に没頭した。合格したものの、学びに対する意欲はとどまることはなかった。
私は迷わず大学院への進学を決めた。その2年間は、毎日が楽しく、朝から夜まで学びに浸っていた。自らの意志で主体的に学び続けることの楽しさを身をもって経験することができた。
学びたいことを学び、読みたい本を読み、行きたい場所に行って自分を磨く。学ぶことで人生は楽しくなると確信した瞬間だった。
大学院を卒業してから教師となり、今日まで「自らの意志で学ぶ」日々を送っている。
どうすれば子どもが生き生きと学ぶ授業がつくれるだろう、教師の役割は何だろう、この子は何を考え何を学んでいるのだろう、と追究し続けている。教師という仕事は本当に新たな学びに満ちあふれている。
しかし、なぜ私はここまで学びに没頭できるのだろう。試験やテストのためではない。頑張りが直接給料アップにつながるわけではない。
それでも学びに没頭できるのは、「熟達への渇望」が心の奥底にあるからだ。
『ビリギャル』を観たあの日から、もう止めることはできない。自らの意志で学び、自らを磨いていくことは、どんな他の娯楽よりも人生を楽しむ最適な娯楽なのだ。
たまたま私にとっては、それが教育の分野だった。でもきっと、誰にでもその人なりの「熟達への渇望」があるはずだ。それに向かって学びに没頭することは驚くど楽しいと声を大にして言いたい。
私は教師として、目の前の子どもが学びの楽しさに気づくきっかけを届けたいと思っている。そして、学びの楽しさに気づいた子どもたちが目をキラキラさせて生き生きと学ぶ。そんな「子どもが輝く授業」を私はつくっていく。
※「熟達への渇望」…心理学教授エレン・ウィナーが、幼い頃から特定の分野で懸命に取り組もうとする子どもたちの抑えられない願望をこの言葉で表現した。
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