バッハマン&ツェラン「往復書簡 心の時」Herzzeit:Ingeborg Bachmann - Paul Celan
「心の時、
夢みられたものたちが
真夜中の数字のかわりだ。
いくつかは静寂のなかへ話しかけ、いくつかは黙り、
いくつかは自分の道を行った。
追放されたものと道に迷ったものがいたのだ 故郷に。
・・・・・・
お前たちドームよ。
お前たち眼に映らぬドームよ、
お前たち耳に響かぬ水よ、
お前たちぼくたちの奥深くにある時計よ」(ツェランからバッハマンに1957年10月20日)
Herzzeit,es stehn
die Getraeumten fuer
die Mitternachtsziffer
Einiges sprach in die Stile,einiges schwieg,
einiges ging seiner Wege.
Verbannt und Verloren
waren daheim.
・・・・
Ihr Dome.
Ihr Dome ungesehn,
ihr Wasser unbelauscht,
ihr Uhren tief in uns.
本著は20世紀のドイツ語詩を代表する二人の詩人、パウルツェランとバッハマンが1948年から1967年までの20年間に交わした往復書簡集。1948年頃、27歳のツェランと22歳のバッハマンはウィーンで初めて出会い、親しく交わるようになる。1952年ドイツの「グルッペ四七」の会合で共に作品を朗読しドイツの詩壇に登場した。この時バッハマンが朗読した詩はツェランの詩「コロナ」との呼応があり、バッハマンの長編小説「マリーナ」のメルヘン「カグランの王女の秘密」の夢の場面はツェランのオマージュとされている。このように二人の作品は相互に文学的関係の痕跡がある。往復書簡では、鋭い感受性をもった二人の詩人の矛盾と緊張が波乱に満ちた恋愛の形で現出される。
ツェランがバッハマンに贈り届けた詩「心の時」は一見分かりにくい。この詩の背景は、ツェランが妻ジゼルにバッハマンとの恋愛関係を打ち明けてしまい、それを知ったバッハマンがツェランに手紙を書かなくなってしまった。そんな中「心の時」はツェランがバッハマンに立て続けに贈った詩の一つで、その後バッハマンに「手紙を書いてほしい」と何度も懇願している。この詩の解釈は難しいが、「我々が一緒に過ごした「時」を思い出してほしい」ということか。
いずれにせよ、全体として、作り物ではないけど詩的な余韻がある恋愛書簡集です。バッハマンが書いて発送しなかった手紙にバッハマンの心の葛藤が見え泣けてきます。
曲は、バッハマンと親交が深かった現代作曲家ヘンツェの歌劇「若い恋人たちのエレジー」を。若い二人の魂よ、永遠に。