『高校・大学から始める批評入門 「感想文」から「文学批評」へ』(読書レビュー)
はじめに
「感想文」と「批評・評論」の明確な違いってなんでしょうか。ネット上だと感想文のような批評や、批評の体をした感想文なんかが良く目につくので余計に分からなくります。ちなみに私は本をほとんど読まない読書や批評家とは程遠い存在です。
結論
おすすめな人
・本当に文学批評に興味を持ち始めた人
・学校で教えられた評論や物語の読み方に違和感がある人
・教養として文学批評史を学んでおきたい人
・独学で学んだバラバラな知識を纏める一冊を求めている人
・大学のレポート課題の感想と批評の違いが良く分からない人
まず結論から言うと、とても良い本だった思います!
個人的には星4.0前後くらいの感覚です。実際amazonのレビューでも同じような評価でした。
この本を読めば、私のように「感想文じゃない批評ってなんだ?」「ネット上に溢れてる批評・評論を評価する目線ってどんな?」といった疑問を払拭し、立派な文学批評ができるようになる。
そんなハウトゥー本ではありません。
私もびっくりしました。個人的に予想していたのは端的に要点が箇条書きくらいのレベルでまとめられていて、あとはフローチャート通りにポイントを守れば、はい立派な批評になりました!みたいな本だったからです。
蓋を開けてびっくり。この本はそんなハウトゥー本ではなく、いわば「文学批評史」的に「批評の正体や方法」を巡る論争を紹介しつつ、「文学批評」自体のあり方やその価値について主張した本だったのです。(個人の感想です)
そのため、思っていた読書難易度から十倍は跳ね上がったように感じましたね。
しかし、思っていたような本ではなかったものの、内容自体は批評の歴史やその概要などを流れに沿って説明されていてよいものであったと思ったので高評価。
本文
内容についてはまた別の記事で自身の復習も予てまとめるつもりですので、ざっくりと本自体についての感想を書いていきたいと思います。
まず「読書難易度が跳ね上がった」といいましたが、その理由はそもそもが程度の低いまとめ本のようなものを想定していたためというのもありますが、この本自体の読書難易度も高いと思います。
ここでいう読書難易度とは、「内容を理解しながら読み進める上での難易度」のことを言っています。単純に文字数が多いとか、文章が読みづらいとか、哲学書のように文章が難解であるとかそういう要素で変動するかとおもいます。
それでこの本の場合、読書難易度を高めている要因は大きく分けて
人名・新出単語の多さ
概念自体の難しさ
情報の密度
この三つに由来しているように思いました。
「人名・進出単語の多さ」
まず分かり易いところで、「人名・進出単語の多さ」についてです。これは単純に、次から次へと人物が登場しては何か新しい主張をして、また新たな人が現れて主張して、というのを繰り返して進行するスタイルの本だったためですね。その主張の中に新しい単語や概念を持ち出すので。「これ誰だっけ」とか「これなんだっけ」となることがありました。私の知能程度が低いせいもありますけど。
なので途中から人名は無視することにしました。別に人名を覚えたい訳ではなかったので。
「概念自体の難しさ」
次に「概念自体の難しさ」ですが、これは先程述べたように大量に出てくる人がそれぞれの主張をするわけですが、その中で半分以上哲学につっこんだ概念を導入することがあります。実際、私が哲学の内容として学んだものがいくつか登場していましたね。
そのような概念を一度聞いただけで理解するのはかなり大変で、読み進める上でその歩を留めるのに十分活躍してくれました。
「情報の密度」
次に「情報の密度」です。これも単純に新しい概念や思想の話から、その次の話までがほぼノータイムであることに由来します。新しい概念のマシンガントークを200ページほど受け続けることになるので一瞬も気が抜けません。
逆に言えば、それだけ内容の詰まったコスパの良い本であるとも言えます。実際この本にまとめられてる内容を別の本や資料から構成しようと思うと、めちゃめちゃ大変だと思います。
ある程度分かっていて知識もある人が分かり易くまとめてくれた本というだけで価値があるというのは、大学で碌な資料もない分野で研究をしていた学生や研究者の方なら分かるはず。
これら三つが見事なコンボで波状攻撃を仕掛けてくるため、集中して読書する羽目になりました。
この本の良い所・悪い所
良い所
・文学批評とは何かがなんとなくわかる
・文学批評における自身の立場を客観視できる
・文学批評史の知識がつく
・日本の旧国語教育における読み方の違和感に気付ける
悪い所
・読書難易度が高い
おすすめな人(再掲)
さて、以上の点を含めてこの本をおすすめしたい人は
・本当に文学批評に興味を持ち始めた人
・学校で教えられた評論や物語の読み方に違和感がある人
・教養として文学批評史を学んでおきたい人
・独学で学んだバラバラな知識を纏める一冊を求めている人
・大学のレポート課題の感想と批評の違いが良く分からない人
などでしょうか。あとがきには、「高校から大学に入るタイミングで、求められる読み方が多く変わり、文学部などであれば多くの作品に対して批評が求められる」という旨の記述があったので、そのようなギャップを埋めることが大きなモチベーションの一つだったのかもしれません。