世界最高のナッツ入れを作った「小島屋」店主に、ここだけの話とか、これからの話とかを聞いてみた。
クラウドボックスが出会ったひとVol.4
[対談]
小島靖久(ナッツとドライフルーツの専門店 小島屋店主) ×
徳永健(クラウドボックス代表・ご当地かるたプロデューサー)
ーーー『まめ棗』発売となりましたね。おめでとうございます。読者のために、まずこの商品の説明をお願いします。
小島 今回クラウドボックスさんに、「まめ棗」のランディングページを作ってもらったので、詳しくはそちらでご覧いただくとして…一言で言うと「超高級ナッツ入れ」です。日本の伝統工芸の職人さんが、本気の技で作ってくれました。ひとつひとつ正真正銘の手作りで、微妙に大きさや着色も違うので文字通り「唯一無二」、世界にひとつしかないナッツ入れになっています。
最初は自分の頭の中で、「ああしたいなあ…」「こうだったらいいなあ…」と妄想を膨らませていたのですが、artisan933というアウトドアブランド代表の木原彰夫氏に出会ったことで職人さんに繋げてもらうことができて、品質も予算もどんどんグレードアップしていきました。
徳永 小島屋としても、過去最高額の商品ですよね。10万円て。完成した瞬間って、どんな気持ちになりました?
小島 率直な感想言っていいですか?「作っちゃった…」です。「やってしまった…」的な(笑)。
徳永 そうですよね…そこまではもう、突っ走った感じでしたか?
小島 そうですね。でもね、突っ走らざるを得ない状態になったりとか、やっぱ気持ちはグルグルしますよね。最初は楽しいじゃないすか。で、予算があがってきて「おい、どうしよう」ってなって。でも職人さんたちがノリノリになってるのを見て、「やっぱやろう」ってなる。だけど、どっかで「ほんと売れるかな」「この仕様でいいのかな」とか。
徳永 まさにグルグル…
小島 たとえば職人さんと、中蓋の竜頭(取っ手)の部分を、「こう加工しますか?」「ここの凹みどうしますか?」とか、細かい部分を一つ一つ考えているときに「今なら止められるのか?これ…」ということを考えたりして…。だけど職人さんがもう、本気の仕事をしてくれて、ノリノリなのがわかるから止められなくて、頭の中で「最後まで全部作ったら最悪これぐらいになって…、在庫ロスとして考えると…」みたいなことも頭のなかでグルグルして、そんな波を繰り返しながら完成に行き着いたという感じです。
徳永 そんなグルグルとノリノリの間で完成した『まめ棗』ですが、今でも、もしかしたら全然売れないかもっていうのはあったりしますか?
小島 どこかにはありますね、やっぱり。でも商品を出す時って、僕はいつもそう思うことが多いかもしれません。
ーーー『まめ棗』のランディングページをクラウドボックスが作らせていただいて、今回はその記事制作もノリノリでやらせていただきました。
小島 ありがとうございます。「プロジェクトX」風の語り口調でね。
徳永 いつもの愛嬌ある小島屋店主を垣間見せつつも、デザインはシックに『まめ棗』のイメージを演出した感じの仕上がりになりましたね。僕、まめ棗を「やんごとなき重量感」って表現したところと、「地球に残るナッツ入れ」って言っているところが好きです。
小島 木原さんのところにランディングページ用の写真を撮りにいった時に、少しだけ対談みたいなことをして、その時に出てきた言葉なんです。なので、ランディングページにも加えてようってことになって。「地球に残る」ってところは、銅の素材に着色加工を施しているから、朽ち果てることがないという意味です。
徳永 絶滅しないナッツ入れですね。ナッツと一緒に数万年後に発掘されるかもしれない…。
小島 骨壷にしてもいいって言ってたりしてて(笑)。買っていただいた方が、ナッツ入れに限らず、思うがままに使ってくれればいいなあと思っています。
ーーーランディングページには載っていない、ここだけの秘話がありましたらぜひ。
小島 秘話ってほどでもないかもしれないですけど、 僕が仕事をするときにひとつだけ、絶対変えない条件っていうのがあって、その相手には直接言ったりしないですけど、「プロであること」っていうのがあるんです。
一緒に仕事をするときに、相手が何かしらのプロであれば、自分はその人の言っていることに対して絶対「No」とは言わないと思うんですよね。
だから、今回の『まめ棗』のときも、artisan933の木原さんから「実際にどういったものを作りたいんですか?」って詳しく聞かれたときに、ナッツ入れを作るきっかけになった京都の筒屋さんの商品をサンプルとして見せて説明したんです。その瞬間、多分木原さんは継ぎ目のことを考えて、「サンプルと同じ構造だとここが弱い」とか、「この造りだとこの部分に色が着かない」とか、すぐに問題となるポイントを挙げて、それをクリアするには「この作り方かな?」「この職人だな」って、頭の中で矢継ぎ早に組み立てられていくのがわかったんです。で、すぐに「“へら絞り”どうですか?」ってなって。
そういうことが出てこない人、つまり僕の感覚の中での“プロじゃない人”には、多分話をしてないんじゃないかと。
徳永 その時点でそうした提案が出てきたんだったら、もう任せられると。
小島 そうですね。コストの問題とかそういうのはもちろんあるんですけど。
徳永 写真でしか見てないですけど、「へら絞り」の工場は、『まめ棗』みたいなものを作る感じの工房には見えないですよね。
小島 そうですね。現場(高橋絞工業)に初めて行ったときは、「下町ロケット」で描かれていた世界って本当にあるんだなって思いましたね。めちゃめちゃ大きいものを造っているかと思えば、手のひらに乗るくらいの小さくて難易度の高い製品を、年配の熟練の職人さんが工場の片隅で造っていたりする。
徳永 力加減ひとつで仕上がりが全く変わってきちゃうという世界ですよね。
小島 そうした工場で生み出されたものが工場のあちこちに普通に置いてあって、これは成田空港の排気管、あれは帝国ホテルの、こっちは〇〇神社の宝珠…みたいな世界。
徳永 精巧なものってピカピカの近代的な工場で作られていそうで、実はそうじゃない。職人がひとつひとつしっかりと作り上げている。そういうのってもみーさん(小島屋店主のニックネーム)好きですよね。ドライフルーツやナッツの生産者さんとかにしても、一人の信頼できる人間が、こだわって作りきってるもの。
小島 そうですね。海外に行って、イチジクやデーツの農家さんと話していると、その農家さんからしたらずーっとやってきて当たり前になっていることも、日本人だったり他の地域の人にとっては珍しかったり、すごいことやっていたりして、「それすごくいいじゃん!」ってことがあったりする。そういうことを聞き出すのは好きというか、得意ですね。
徳永 それがきっともみーさんの言う“プロ”という部分なんですよね。
今回の『まめ棗』も、異業種の職人さんたちとの掛け算で作り上げた商品で、それが“小島屋オリジナル“の定石ということなんだろうなあと。
小島 でも僕、人見知りなんですよね(笑)。だから、なんかいいな〜って思った人でも、誰も彼も声かけるわけじゃないです。『まめ棗』の実現のきっかけになった木原さんだって、5〜6人の小さな食事会だったからおしゃべりすることができたわけで。
徳永 一度繋がってから、展開させていくパワーというか、実現させていく力みたいなものがすごいなって感じます。初めて会ったときは小島屋のこともよく知らなくて、楽天市場で賞をいっぱい獲ってるとかも全然知らないで喋っていたんだけど、もみーさんから出てるエネルギーは何かすごかったですね。「このお兄さんめっちゃエネルギー出てるけど何なんだ?」って興味を持ったし、一緒に仕事するようになったらそのエネルギーを直接受けるから、エネルギーに押されて「手抜けない」って言うと言葉悪いですけど、「いい仕事しなきゃ」っていう気持ちになりますね。それがいわゆる人望とか人徳っていうことに近いものなのかもしれないですけど。
小島 わー、ありがとうございます。
ーーー次なる新商品はもう始動しているのですか?
小島 次ですか? ナッツの新商品をね、開発中です。
徳永 お話できる範囲で、教えてほしいですねー。
小島 今はスパイスの専門家と塩の専門家、それからお酒の専門家、あと油の専門家からもちょっとだけ知識をもらいながら商品開発を進めています。
徳永 それ、お酒のおつまみに合うに決まってるやつですよね。
小島 そうですね(笑)。銀座で飲食もやっている画廊の店主から話が来て。友人なんですけど。銀座って名前をつけることで、銀座土産にもなるし、銀座の若衆とかも巻き込んでやろうかってなって声をかけてみたら、彼らも靴屋の専門家とか背広の専門家とかなのでやっぱりプロ意識があって「盛り上がる助けはしてもいいけど、ちゃんと専門家を集めて面白いことできないか」って話になったんです。そこから人脈を集めていったら今のメンバーで商品開発をすることになって。現段階では、銀座をフィールドにスタートはするけど、小手先で「銀座ナッツ」を売るということはしないという流れになっています。
徳永 銀座に相応しいナッツをちゃんと作って、銀座で売ろうということですね。
小島 そうです。銀座という名前は使わないかもしれないけど発祥の地は銀座であるっていう感じになるのかなあと思っています。
徳永 その画廊とのコラボも面白そうですよね。「ART×ナッツ」みたいな。
小島 そうなんですよ。やるとなったらどんな商品になるのか、今は全然わからないですけどね。
小島屋では元々「1ジャンル1商品計画」というのを責務と考えていて。例えばドライフルーツ単体の商品だともう出尽くしているんですよね。フルーツ自体もそんなに種類があるわけじゃないじゃないから新商品開発って言っても難しい。そのときにドライフルーツやナッツが、「サラダ」っていうジャンルと掛け合わせた商品、「キャンプ」っていうジャンルに掛け合わせた商品。そうしたものが1個ずつあればいいよね。という考え方です。他業種とのコラボ商品を1ジャンルについて1個作る。
多分『まめ棗』もその一環なんですよ。「小島屋×容器」なんでしょうね。
徳永 なるほど、掛け算する先をこれからも増やしてくっていう。1ジャンルっていうのは、小島屋が持っていない分野での、世の中にあるすべてのジャンルということですよね。そうすると小島屋商品は果てしなくどんどん増え続けていく----。
小島 増え続けて行けばいいな、という気持ちはあります。
徳永 「サラダ」とか、「容器」とか、「かるた」とか、“モノ”の1ジャンル。「車×小島屋」だって、もしかするとこれから出てくる可能性がある。『まめ棗』は、「ナッツケース×小島屋」だとどんな最高のものが作れるか?ってところから始まったということですよね。
小島 そうですね。
徳永 「それぞれのジャンル×ナッツ」、もしくは「それぞれのジャンル×ドライフルーツ」で最高のものを作るとしたら、どんなものが作れるかっていう図式が小島屋には常にあるという。何だかワクワクしてきますね。
ーーー最後に「クラウドボックス×小島屋」のことも。
徳永 知り合ったのは確か4年くらい前だけど、がっつりお付き合いするようになったのは『小島屋かるた』からですよね
小島 そうそう。2020年の終わりくらいかな?自粛期間でがらーんとした田町の餃子屋さんで「小島屋のかるたって作れないかな?」って相談して…
徳永 『小島屋かるた』ができたあと、小島屋ブランドの見直しというか、小島屋の顧問アートディレクターみたいな立ち位置で関わらせてもらうようになって丸一年ぐらい経ったのかな?「ブランドポジション決めていきましょう」とか、「デザインコンセプトを言語化していきましょう」とか、「ロゴを見直していきましょう」というのをやらせてもらって。その間あまり機会がなかったのですが、フィードバックというか、デザインに関するモヤモヤとか、多少は解消されているのかとか聞きたいと思ってました。
小島 そこはもう、はいもちろん。ブランドコンセプト作ってもらったから、初めて会う人とかへの説明がとてもシンプルになって楽になりました。作ってもらった資料を渡しておけば、方向性はわかってもらえるようになったのが大きいですね。
徳永 僕らも割と手探りでやらせてもらっているという感覚もあるので、実際それがお客さんにどんな影響があったのかとか知りたいんですよね。数字として見るのは難しいとは思うんですけど。
小島 確かに。「アクセスが上がったのはデザインを変えたから?」っていう側面だけでは語れないですからね。
でもね、今まではデザイン制作物はひとつのところですべて請け負っていて、何か新しいことをやろうとした時キャパシティオーバーになっちゃって、他に頼れるところがなかったんですよ。で、徳さん初めてお会いしたときに「こういうのできますか?」って聞いたんだけど、「複数のところにデザイン発注するなら小島屋のブランドイメージやデザインコンセプトをきちんと作ってトンマナ(※) 合わせていかないと」みたいなこと言っていて、「できるよ〜」って二つ返事で言わないところが印象的でした。
(※ トンマナ:トーン&マナーの略称。デザインやスタイルに一貫性を持たせるルールのこと。)
徳永 ほんとに?よく覚えてないなあ…今までデザインをやってきた所との整合性もあるので、そこと1回繋いでもらわないとみたいな感じのこと言ったかもしれないですね。
小島 その時は、デザインを頼みたいんだけど、今のままだと手として足りてないなって感じてて、単純に「これ、誰に頼もうかな」みたいな感じだったんですよ。プラス、足りないのは足りないんだけど、その前に「これ、誰に相談すればいいんだ?」みたいなのがちょっとあって。その辺をまるっと受けてもらえるところを探していたというのもあった。
徳永 そのタイミングで多分僕がFacebookに、月定額で「“社内にデザイン室を持てますよ”みたいなのがあったらどうですか?興味ある人いませんか…?」って投稿をして…
小島 そうそう。
徳永 そしたらもみーさんから「めっちゃ興味あるかも」ってコメント返ってきたんですよね?
小島 そう。でもそれ、どういうこと? 詳しく教えてってなって。
徳永 僕もまだぼんやりしてたんで、もう直接話をさせてもらって、例えばクラウドボックス・クリエイティブディレクターが毎月話を聞いてあげて、「どこに発注したらいいと思う?」とか、「これ可能だと思う? 」ってところから付き合ってデザインを作り上げていくのってどうかな? って話をしたら、「それはすごくいいかもしれない」って言ってもらえたんですよね。
ただデザイン作り放題で、たくさん頼まないと損しちゃう…っていう仕組みじゃなくて、「定期的に相談しながらデザイン案件を進めていく」のが小島屋には合ってるかも…みたいな話をして。「じゃあ、まず、それでやってみましょうよ。」ってなったんですよね。 それで今に至っているという。
小島 そうですね。
徳永 実際やってみて、感想というか、どうでした?
小島 うーん。ちゃんとしてる? (笑)
徳永 え、意外な感想。
小島 何かもうちょっと軽く受け流す感じの対応をしちゃうデザイナーさんってけっこういたりするけど、そうじゃなかったし。逆にもう少しロジカルな難しい話をしてくる感じかなと思ったら、結構わかりやすい言葉でわかりやすく説明してくれるので。最初は徳さんはデザイナーさんじゃないと思ってたくらい。経営者さんだからそういう受け答えするのかなって。デザイン会社の経営者で、デザインはしない人かと思ってました。だから頭の中で色々なロジックを組み立ててるのかなって最初は思いましたね。
徳永 なるほど。経営者のロジックとクリエイターのロジックを橋渡しできることが僕の強みだと思ってるので、それは嬉しいですね。クラウドボックスではデザイン作業に入る前に、そういう組み立てや順序付けは大事にしようといつも話してるので、それはすごく褒め言葉です。こんな機会でもないと、なかなかこういう言葉を返してもらえることは少ないんで、ありがたいですね。
小島 2023年は、新商品はもちろん、小島屋本店(Webサイト)のコンテンツを拡充したり、インタビューとか記事コンテンツも積極的にやっていきたいと思っていますので、また色々と相談させください。
徳永 「小島屋」というブランドの世界観を伝えるコンテンツにしていきたいですね。他のお店ではあんまりやれないことがたくさんありそうだし、クラウドボックスとしてはやりがいのある方向性になりそうです。
クラウドボックスも模索しながら、それぞれの企業さんにあった「デザインでの伴走」の仕方を考えていて、一緒に走ってたら新しい景色が一緒に見えてきて、「こういうこともできるんじゃないか」って提案していけたらいいなって思います。
小島 ぜひぜひ。よろしくお願いします。
ーーーありがとうございました。