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BCPで突き付けられた災害対策の弱点 ~在宅系サービス編~

自然災害に備えて業務継続計画(BCP)を策定しておくことは、もはや「当然」という時代になってきました。とはいっても、介護現場ではつい最近までBCPという言葉すら周知されていなかったのが現状で、令和3年の報酬改定で義務化が示されて以降、急激にその意義や内容が注目されたといっても過言ではありません。

今回の記事では、複数の在宅サービスや施設運営に携わっている筆者が、BCP作成を通して浮き彫りになった「災害に対する介護サービスの弱点」とその対策について紹介していきます。

駆け込み策定が目立ったBCP

筆者は、全国の介護支援専門員に対して、BCP作成の研修を何度も実施してきました。コロナの類型が変更になった令和5年度では、オンラインではなく全国の会場でBCP研修を開催しましたが、開催希望や参加者数は、義務化が近づくにつれて増えていきました。

厚生労働省が令和5年7月におこなった調査でも、策定を完了している事業所は全体の3割程度でした。つまり、のこり半数以上の介護事業所は令和5年度後半にバタバタと駆け込み策定したといっても過言ではありません。

<参考:介護サービス事業者における業務継続に向けた取組状況の把握及びICTの活用状況に関する調査研究事業(結果概要)

訪問系・居宅系BCP減算が延期された理由

令和6年の介護報酬改定で、全ての介護事業所においてBCP策定は義務化されました。ただし作成していない場合の減算適用はサービス種別によって時期が異なります。令和6年4月から減算となるのは入所系サービスが中心で、訪問系や居宅介護支援事業所などは1年間の猶予期間が設けられたのです。

減算適用において、訪問系・居宅系サービスが延期された理由は、令和3年の報酬改定で施設系だけに先だってBCPが求められたことが挙げられます。とはいえ令和7年4月からは訪問系サービス・福祉用具貸与・居宅介護支援についても、施設サービス同様に減算(率は1%)対象となります。

ここで勘違いしてはいけないのが、訪問系・居宅系サービスでは、1年間BCPを作らなくてもいいと思ってしまうことです。これは間違いです。たとえば運営指導の際に、BCPが出来ていない場合、減算扱いとはなりませんが、本来業務継続計画は令和6年4月から策定すべきであり、未策定であれば指導対象になるということです。

<出典:「業務継続に向けた取組の強化等(改定の方向性)」第232回社会保障審議会介護給付費分科会資料

BCPと在宅サービスのズレ

令和6年の介護報酬改定を受けて、はじめてBCPを作成したという事業所は少なくありません。筆者の周りでも、「防災マニュアルとBCPはどこが違うのか分からない」、「本当にこれでいいのか不安」という声を聞きます。

この章では、筆者が複数の在宅サービス管理者にBCP作成についてヒヤリングした内容から、特に多かった意見を紹介します。

災害時に在宅サービスの業務継続は必要なのか

在宅サービスといっても、居宅介護支援事業所などマネジメント業務やホームヘルパーなどの「訪問系」、そしてデイサービスなどの「通所系」など多岐にわたります。

ケアマネジャーが働く居宅介護支援事業所では、災害が発生した際、担当利用者の安否確認を優先すると決めているところが多く見受けられます。また訪問系サービスでも、医療ニーズが高い人や生命の危険がある人を優先的に訪問する所があるでしょう。
一方、デイサービスでは「事業所で送迎できない」「電気や水道がないとお風呂が用意できない」と基本的なサービスが提供できないことに悩んでいるところがありました。

実際、「通所サービス固有のBCPガイドライン」をみても、デイサービスの業務継続は想定されておらず、早期に安全な事業中止をおこなうため次のようなことが書かれています。

  • 台風など事前に休止、縮小する場合には基準を明確にすること

  • 基準はケアマネや家族と共有しておくこと

  • サービスを中断する場合は順次利用者の帰宅支援をすること

ですから、筆者の通所事業所では、BCPの中で次のような対応を決めています。

  • 入浴が実施できるまでデイサービスは休止する

  • 休止しているあいだは、同法人内で人手不足の事業所に応援へ行く

  • 入浴環境が整っていれば家族送迎なら受入をおこなう

地域性やご利用者のニーズなどに応じて、柔軟な運営をおこなうことも考えてみましょう。

備蓄品の考え方

厚生労働省が示すガイドラインでは、災害時の備蓄・備品として、次のようにポイントが示されています。

  • 被災時に必要な備品はリストに整理し、計画的に備蓄する

  • 定期的にリストの見直しを実施する

  • 賞味期限や使用期限があるため、メンテナンス担当者を決め、定期的に買い替える

  • 例として食料品・看護、衛生用品・日用品・災害用備品などを用意する

これらは、入所系サービスを想定して記載されています。
在宅サービスでは、メンテナンスや担当者の設置は上記と同じですが、対象者やサービス内容を考慮して必要なものを用意しましょう。一例を下の表で示します。

<参考:厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」>

ライフライン稼働が前提になっていないか

BCPの項目には、優先業務の選定や緊急時の対応、復旧対応など事業所全体で協議しながら記入する箇所があります。ところが自然災害に対してはどれだけ具体的に決めていても想定外の事態がおこるかもしれません。
たとえば大地震に見舞われた場合、道路が遮断されたり、水道が止まったりするだけでなく、復旧するまで避難生活が長期化することで業務継続できないことも考えられます。
ですから、災害時に使用予定の設備や備蓄が、万が一使えない場合を想定しておくことが重要です。

訓練をして気付く「前提」の見直しと「弱点」

策定したBCPが、災害時に本当に業務継続の役に立つのか、それを確認する方法の一つが「訓練(シミュレーション」です。「訓練」というと、車椅子の利用者を安全な所へ誘導する避難訓練が頭に浮かびますが、業務継続のための訓練となると少し異なります。
たとえば事業所にある機器をスタッフ全員が操作できるようにしておいたり、燃料の補充などの手順を確認したりすることで、被災時でも安全な施設環境を確保することが可能となります。ですから日ごろから機器の稼働確認、チェックシートによる定期的なメンテナンスも訓練の一つとしてBCPに加えておきましょう。

訓練をする上でポイントがもう一つあります。それは災害が平日の日中に発生するとは限らないということです。深夜帯や休日想定、具体的な被害を設定(被災事業所、出勤可能スタッフ数など)した上で訓練すると、BCPの精度をさらに向上させることができます。

ケアマネジャーは把握しておきたい

介護サービスを調整するケアマネジャーにとって、災害が発生した場合に、どのサービスが休止して、どのサービスが利用できるか、事前に把握しておくことは重要です。
そのためには、日ごろから在宅サービス同士で情報共有をしておいたり、協働訓練やBCP訓練を実施したりして協定関係を築いておくことをおすすめします。
具体的な連携方法が分からない場合は、地域包括支援センターに相談しながら、できることから連携をはじめるといいでしょう。

まとめ

はじめてのBCPをガイドライン等を参考に作ったとはいえ、その効果や具体性にそれほど自信を持てていない担当者さんもいるのではないでしょうか。

国が示しているBCPガイドラインは、とくに入所系サービスが基本となっています。
ですから在宅サービス用BCPとして、もっと精度を上げたい方は、通所・訪問・居宅介護支援固有の動画解説やガイドラインが出ていますので、そちらも参考にしてみましょう。
⇒ 介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修

執筆者: 柴田崇晴
日本介護支援専門員協会 災害対応マニュアル編著者

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・本記事はCloudBCPブログの転載です。

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