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暗駁の技術「帰謬論証」上巻

 突然ですが,「特に通したい自分の主張が明確にあるわけでもないし,相手の主張が通れば困るわけでもないが,こいつを言い負かしてやりたい!」と感じることはありませんか?

 今日では,いわゆる論争や口喧嘩なる事態を避けようとする人も少なくありませんが,このような諸事態は,そのコミュニティが進化してゆくための有効なプロセスであり,またそれに勝利して論敵を負かすことは,ときには望む立法を,あるいは慣習を醸成するなどして,永劫に他者を支配し続ける威力さえありうる程のものです。このような事情のゆえか,どうやら「言い負かす」こと自体に個としての強さを誇示する意義がありえ,また,強い優越感を与えることもあるようです。私の体感としてはそのような快はないのですが,理屈はおおいにわかります。

 そこで本項は,優秀なアバター暗殺術である帰謬論証という技術について体系的に説明するものになります。「暗殺」とはいっても,もちろん文字通り論敵を生命体として絶命させることの幇助をしようというのではありません。それは,ひそかに対象のアバターを捉え,その内部矛盾を発露させる行為のことを言っています。が,この行為のことが暗殺という語で広まってしまうと,本当は生命の危機的な問題は何もないのに,(このnoteというツールでは問題は無かったとしても)将来的に,どこかのツールのなんらかの基準に引っかかってしまう…ということも生じうる,その危険が高いように思われるので,この行為のことは特別に暗駁と呼ぶことにしましょう。帰謬論証は,この暗駁を実現するうえで非常に強力な技術となります。

 この技術を端的に言ってしまえば,アバターの矛盾(あるいは,穏当にそう見做されるような逆説性)をとにかく指摘したい。或は,こう言い換えてよければ,とにかく論理的な攻撃(=論難)を成功させ,論敵を倒してやりたいときに非常に有効な立ち回りとなります。また,相応の理由があるときには私も使ったことがありますから,その効果は臨床にも根拠を持ちます。

 本項は次の二つに大別されます。すなわち,上巻では帰謬論証の積極的立ち回りを,下巻ではその有効な対策をそれぞれ説明します。

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