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社員戦隊ホウセキ V 第2部/第31話;苦戦は続く

前回


 六月二十六日の土曜日。

 武家屋敷の波間はま離宮りきゅうを舞台にした、スケイリーと社員戦隊の戦いは続いていた。
 新たな力を得たスケイリーの前に、イエローに引き続きレッドも敗れた。


 スケイリーが焼き払った屋敷の中では、マゼンタとグリーンが怪我人に対応していた。被害が小さく、辛うじて内壁が残っている部屋にグリーンが怪我人を連れて行き、そこでマゼンタがキャンピングカーから持って来た救急箱の道具やヒーリングなどのアイテムを使って治療に当たる。

 その作業中に、痛烈な悲鳴が聞こえてきた。

「今の声って? まさか、ジュールがやられた?」

 その悲鳴に一抹の不安を抱くグリーン。マゼンタも怪我人に治療をする最中、声の方を振り向く。その直後に、二人のブレスには愛作あいさくから通信が入った。

『マゼンタ、グリーン。大変だ。レッドがスケイリーにやられた。イエローがやられたのと、同じ毒針だ。怪我人への対応が終わったら、すぐ救援に向かって欲しい」

 愛作からの連絡は、ほぼ予想通りのものだった。メットを被っていても表情が判るくらい、動揺した様子を隠せないグリーン。
    対照的にマゼンタは落ち着いていて、目の前の治療を再開する。

「グリーン、落ち着いてください。この方々が先です。レッドには、ブルーが対応してくださいます。最悪の事態には…ならない筈です…!」

 グリーンに、そして自分にも言い聞かせるように、マゼンタは言った。グリーンは深呼吸をしてから「はい」と返し、マゼンタの補佐を再開した。


 十縷とおるはスケイリーの毒針に屈した。それを防げなかったブルーは、両膝を付いたまま悔しそうに地を叩く。しかし、ブルーは切り替えが早かった。

(レッド! 絶対に死なせない!!)

 ブルーがそう強く思うとその意志に呼応して、池に停泊したサファイアが動く。サファイアは船首の上部からサーチライトのような光を発し、十縷とブルーを順に船体の中に引き込んだ。

 勿論、サーチライトはスケイリーだけは照らさなかった。かくして一人だけその場に残されたスケイリーは、気怠そうにサファイアの方を振り返る。

「逃げるか。まあ、悪い選択じゃあねえな。逃がさねえけど…」

 スケイリーは呟きながら、杖の装具を静かに交換していた。



 サファイアの内部では、ブルーが十縷の応急措置に当たる。まずは順当に、十縷の腹から毒針を引き抜いた。それからブルーは、何処からか一枚のハンドタオルを取り出した。水滴が滴る程度に水を含んだ、一枚のタオルを。

(ピジョンブラッドの水なら、何とかできるかもしれない)

 先程ピジョンブラッドが屋敷の炎を鎮火するべく放水した時、幾らか飛沫が池の方まで飛んできた。その時、ブルーは思い出した。スケイリーが毒針でイエローを攻撃したことを。そして考えた。スケイリーがあの毒針をまた使っても、憎心ぞうしんりょくやダークネストーンの力を無力化できるこの水ならば、対処できるのではないかと。するとサファイアはその思考を汲み取ったのか、船体に付着したピジョンブラッドの水を吸収し、濡れたハンドタオルという形で保存してくれたのだ。

 いざ、ブルーはその濡れたタオルを、十縷の腹の傷口に押し当てた。針で貫かれた傷口から、ピジョンブラッドの水が十縷の体内に浸透していく。それはブルーの期待通り、十縷の体を侵しているスケイリーの毒にも作用したようだ。

「隊長、迷惑掛けます…。僕がやられたばっかりに…」

 十縷の顔に幾らか血の気が戻り、喋れる程度には回復した。しかし声は掠れていて、全快には程遠い。ピジョンブラッドの水は確かに効いたが、少量だからこれが精一杯のようだ。

「気にするな。今は自分が助かることだけ考えろ。マゼンタにグロブリングで治療して貰うまで、そのタオルで傷口を押さえておけ。ピジョンブラッドの水が含まれているから、ダークネストーンの力で創られたスケイリーの毒をある程度は解毒できるようだ。回復するまでは、戦線に戻るな」

 そう十縷に告げた後、ブルーはブレスを使って寿得じゅえる神社の愛作とリヨモ、そして屋敷のマゼンタとグリーンに連絡する。「レッドを安全な場所へ退避させる」と。

 彼の意志を受け、サファイアは転舵して戦場から引き揚げようとしたが、180度方向転換した途端、船体が激震し、左に傾きながら航行を止めた。

「くそっ! スケイリーめ!」

 ブルーが振り向くと、外の様子が透けて見えた。スケイリーが法螺ほらがいのような装具を付けた杖を、こちらに向けているのが。サファイアはスケイリーに砲撃され、スカートの左後方を損傷したのだ。ホバー艇の泣き所を突かれる形になり、サファイアは動けなくなった。この現実に、ブルーは憎々しく吐き捨てるしかなかった。



 外のスケイリーは、意外にも二発目を撃つ気配が無さそうだった。

(多分、イマージュエルを壊すのは流石に無理だろうな。だから、宝世機をぶっ壊して、奴らを引っ張り出すのは無理だ)

 スケイリーがそう思った通り、サファイアの損傷個所はイマージュエルの力で構築された追加装飾。本体の宝石には、傷一つ付いていなかった。最大火力の武器でも、イマージュエルの堅牢さには及ばない。以前ならこの事実に苛立つだけだったが、今のスケイリーは違う。

(だったら、奴らが出て来るように仕向けるまで)

 スケイリーはそう考えると、大袈裟な仕草で踵を返した。先に自分が炎上させた、屋敷の方へ。そしてわざとらしく、大声で言った。

「建物の中に、まだ人間が残ってやがるな! 傷めつけて来るか!」

 スケイリーは大股で、ゆっくりと歩き出す。


 サファイアの中のブルーは、スケイリーの発言を受けて息を呑んだ。

「レッド。俺は今から、スケイリーの足止めに行く。お前はマゼンタの治療を受けるまで、ここで安静にしているんだぞ」

 ブルーは静かだが強い口調で十縷に告げると、意を決して立ち上がる。そして十縷が声を掛けようとするよりも先に、サファイアの外へと飛び出した。船体から照射された、木漏れ日のような光に乗って。その光の先は、わざとらしくゆっくり歩くスケイリーに届いている。

「行かせるか! これ以上、誰も傷つけさせん!!」

 瞬時にスケイリーの背後まで迫ったブルーは、大きな殻を背負ったその背にしがみつき、スケイリーの足を止めた。ブルーは人命救助に懸ける意志が強いので、こうなるのは必然的だろう。
 これはスケイリーの思惑通りだった。

「青の戦士。お前、好きだぜ。解り易いから」

 スケイリーはブルーを笑いながら体をくねらせ、簡単にブルーを振り解いた。そしてすぐに振り返り、杖を振るったり蹴りを繰り出したりして、ブルーを攻め立てる。ブルーはそれを避けつつ、ソードモードのホウセキアタッカーで対抗するが、一対一でスケイリーとどこまでやり合えるのか? 先程のイエローに鑑みると、嫌な想像しかできなかった。


『マゼンタ、グリーン! スケイリーがそっちに向かっている! 今、ブルーが一人で足止めをしようとしている。どっちか一人でも良いから、ブルーの援護に向かってくれ!』

 マゼンタとグリーンのブレスから、緊迫した愛作の声が響く。マゼンタとグリーンは、再び息を呑んだ。

「参りましょう、グリーン。スケイリーをここに来させては駄目です」

 治療が粗方済んでいたこともあり、マゼンタはそう決断した。グリーンにも異論は無かった。かくして二人はこの場を離れるのだが、その前にマゼンタは怪我人たちに告げた。

「私たちはこれにてこの場を離れますが、救急隊が来るまではこの屋敷からは出ないでください。外では怪物と私たちが戦っておりますので」

 無論、彼らは行動が厳しくなる程の火傷を負った者たちなので、外に出たくても出られないだろうが…。

 救った者たちに見送られながら、マゼンタとグリーンは戦場である屋敷の外へと駆け出していった。


 サファイアの中では十縷が、キャンピングカーの中では和都かずと最音子もねこが、ブレスが投影する戦いの映像を心配そうに見つめる。
    優勢なのはスケイリーだった。

「ゴージャスチェンジャーを使え! 俺が破って、絶望させてやっからよぉ!」

 スケイリーは強烈な蹴りでブルーを後方に吹っ飛ばした後、挑発的にそう言った。池の縁まで運ばれたブルーは、片膝を付いた体勢でスケイリーを睨む。

(ゴージャスチェンジャーを使えば、こいつにも対抗できるかもしれない。しかし、どうしてそうするように仕向ける? 秘策でもあるのか?)

 ブルーはスケイリーの策を警戒して、ゴージャスチェンジャーの使用に踏み切れなかった。そうして悩んでいる間に、スケイリーは次の行動に出る。

「まあ、使いたくねえなら使うな。黄の戦士みたいに負けろ」

 スケイリーは貶したような口調でそう言うと、杖をブルーの方に向けた。先端の装具は、法螺貝のままだ。法螺貝型の装具は、真っ赤な火球を勢いよく撃ち出してくる。火球の射出速度にブルーは反応できず、食らうだけかと思われたが…。

「ホウセキディフェンダー!!」

 グリーンが持ち前の俊足でブルーの前に躍り出て、素早くホウセキディフェンダーを発動した。先程、和都と最音子を守ったのと同じように。しかし今回は、先程よりも強力な技でスケイリーは攻めている。
 スケイリーの火球は、ホウセキディフェンダーを難なく突破した。グリーンとブルーは爆炎に包まれ、豪快に吹っ飛ばされる。二人とも敢え無く、池に突き落とされてしまった。

「これ以上の暴挙は許しませんわよ!」

 スケイリーは二人に追撃を繰り出そうとしていたが、横からマゼンタが跳び掛かって来て妨害された。暫し、両者は格闘戦を展開する。そんな中、グリーンとブルーは立ち上がり、上半身を水面の上に出した。

「マゼンタを援護する! 行くぞ、グリーン!」

 ブルーの掛け声に、グリーンが応答する。二人はソードモードのホウセキアタッカーを手に、岸のスケイリーを目指して向かっていく。その時マゼンタと交戦していたスケイリーは、横目で二人の動向を確認するとほくそ笑んだ。

「今日でお前らも終わりだ! 苦しみ抜いて負けろ! 地球のシャイン戦隊!!」

 グリーンとブルーがある程度まで接近した頃合いを見計らって、スケイリーは吼えた。すると彼の体を起点に、空振くうしんのような衝撃波が全方向に放射される。
    マゼンタ、グリーン、ブルーはこれに飲まれ、その場に伏せさせられた。勿論、周辺の植物は激しく揺れ、池の水面も激しく波打った。


次回へ続く!


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