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社員戦隊ホウセキ V/第111話;呪いの仙人掌

前回


 六月四日の金曜日、朝の自主トレに臨もうとしていた十縷と和都は、スマホに釘付けの妖しい大学生らしき人物と擦れ違った。


 その一方、ニクシムは新たなゾウオとなるウラームを選別し、ゲジョーを地球で暗躍させ、次の作戦の準備を進めていた。

 一体、ニクシムはどんな作戦を遂行しようとしているのか? 小惑星を覗くと、ニクシム神の祭壇のある部屋には、マダムとスケイリーの二人が居た。少々、珍しい組み合わせだ。例によってニクシム神の前に設置された銅鏡には、地球の様子が映し出されている。それを見ながら、マダムは呟いた。

「今回は随分とまどろっこしいと言うか…。凝った作戦を考えたものだな」

 マダムの口調は半分が感心でもう半分が呆れという雰囲気で、その感情は複雑だった。隣のスケイリーは笑いながら答える。

「俺はもっと単純なのを考えてたんだが、ザイガ将軍がいろいろと茶々入れてきて。たまにはこんなのもアリかもな」

 今回の作戦は、スケイリーが発案したものにザイガが口出しをして、現在の形になったらしい。自分の作戦を変えられたのだが、大筋は変わっていないのかスケイリーに不満そうな雰囲気は無かった。
 そしてマダムはその先の展開を予想しているのか、何やら不敵にほくそ笑む。

「ずっと同じことをしていても能が無い…。ザイガが言うには、そんなところか? 尤も、悪い作戦とは思わんが。上手く行けば、地球のシャイン戦隊は終わりじゃからな」

 さりげなく恐ろしいことを口走るマダム。その手には、アメジストのような紫の宝石を備えた、金のブレスレットが握られていた。その宝石は、マダムのティアラに使われているものと同じ石だ。と、なるとこれはニクシム神と交信する為のものか?


 二人が眺める銅鏡は、一台のマイクロバスとその脇に立ち尽くすゲジョーを映していた。ゲジョーの服装は本拠地に居る時と同じゴスロリのドレス。リップとアイラインは新橋色、髪は縦巻きロールで毛先を新橋色に染めている、という出立だった。


 ゲジョーが居たのは、とある駅近くのコインパーキングだ。まだ早朝で人が少ないとは言え、街中に繰り出すのに制服や普段着風の装いではなく、目立ちすぎるこの恰好であることには、それなりの理由があった。

「メイド服!! あの…。呪いの方ですか?」

 マイクロバスの前に佇むゲジョーに、一人の若い女性が駆け寄ってきた。その女性は頭髪を金色に染めていて、服装はヒップホップ系。手にはスマホを握りしめている。そう、先刻十縷たちと擦れ違ったあの女性だ。
 話し掛けられたゲジョーは、営業スマイルで頷く。

「呪殺希望の方ですね? この服はメイド服ではございません」

 普段とは違い、ゲジョーの言葉遣いが一般人寄りなりのはさておき、彼らの会話は恐ろしい。そして、ゲジョーはサラサラと語る。

「呪殺希望の方は貴方を含めて十名です。まだ定刻の七時ではありませんので、それまでは他の方を待ちます。定刻になりましたら、人数が揃わなくても出発致します。それまで、どうぞ車の中でお待ちください」

 女子大生と思しきそんな女は、ゲジョーに促されてマイクロバスの中に乗り込んだ。マイクロバスの中には既に人が三人いた。
 うち一名は三十歳前後の運転手らしき男性。赤いネクタイに付けた、アメジストのような宝石を備えた金のネクタイピンが特徴的だった。
 残り二人は彼女と同じ、呪殺希望の人なのだろう。一人は高校生と思しき瓶底眼鏡の暗そうな男性、もう一人は丸々と太った頭の禿げかけた四十歳代の男性だった。

「どうぞ、席にお掛けください。助手席以外なら、何処でも構いません」

 女子大生がバスに入って暫くボーっとしていると、運転手が着席を促してきた。その喋り方は独特で、ロボットのようと言うか、抑揚がなく殆ど音の羅列だった。
    女子大生は驚き、言われるまま一番近い席に腰掛けた。

 その後、もう一人バスに乗って来た。三十歳代くらいで髪がやたらと長く、細身で暗そうな女性だった。その女性が乗ってから数分後に、ゲジョーもバスに乗り込んだ。

「定刻の七時となりましたので、出発致します。希望者の方は十名でしたが、お越しにならないのでこの四名様で決行致します」

 ゲジョーはバスガイドのように、運転手以外の四人にアナウンスした。ゲジョーは話し終わると、助手席に相当する席に座ってシートベルトを締めた。
    なお、この席にはエコバッグが置いており、ゲジョーはそれを膝の上に乗せた。エコバッグの中には、何やら紫色や金色の光が覗く。その正体は宝石を備えたブレスレットで、マダムが持っている物と同型だった。

「では、お願いします。出してください」

 ゲジョーがそう言うと、運転手は発進の為の操作を始める。バスのドアは閉まり、エンジンが始動してバスは動き出す。なおコインパーキングを出る際に、ゲジョーは何処からか出した小銭を運転手に渡し、運転手はそれを律儀に機械に入れていた。

 この奇怪な一行は何なのか? マイクロバスに乗って何処へ行くのか? すれ違う人々から偶に不審な視線を浴びつつ、マイクロバスは一般道を突き進んでいった。


 一切の会話も無いまま、マイクロバスは走る。バスの中の雰囲気は、まさに陰鬱という言葉が相応しかった。そんな雰囲気のままバスはかなりの距離を走り、いつしか車窓から覗く風景は街中から山林へと変わっていた。


 コインパーキングを出てから約二時間半後、バスは停まった。その場所は採石場らしく、広大で見晴らしが良く、ただ砂利の撒かれた平地が広がっていた。

「到着致しました。呪詛の会場です」

 バスが停まるとゲジョーは席を立ち、バスのドアが開く。まずゲジョーがバスを降り、それに続く形で四人の人物もゾロゾロとバスを降りた。

「あのぉ…。本当にこんな所で、呪いをやってくれるんですか? もっと樹海みたいな所を想像してたんですけどぉ…」

 バスを降りた時、禿げ頭の中年男性が不平っぽく言った。すると連鎖的に、他の三人もボソボソと不平を口の中で呟く。
 そんな声が上がると、ゲジョーは一同の方を振り返ってニッコリ笑った。その笑顔で男性二名は顔をニヤけさせて黙ったが、女性二名はむしろ余計に不機嫌そうな顔になる。そんな雰囲気の中、ゲジョーは語った。

「ご心配なさらず。今から呪詛師をお呼びしますので」

 ゲジョーがそう言って後方を裏拳で叩くと、景色に蜘蛛の巣状の皹が入る。この怪奇現象に四人は堪らず響動いたが、本当に驚くのはこれからだ。
 皹の入った景色は劣化したプラスチック板のように剥離し始め、やがて七色の光が渦巻く穴を開けた。その穴の向こうからは、大柄な人型の異形が歩いてきた。

「まさか、ドロドロ怪物?」

 その姿に四人は慄いた。異形は彼ら言う通り、ドロドロ怪物ことゾウオだ。
 体色は深緑で、目は真っ白。体中のあちこちに鋭い棘が生えており、まるで仙人掌さぼてん人間のようだ。ゾウオの常であるCrやHgのような模様は鮮紅色で、額の金細工ははしら仙人掌さぼてんを模したもの。そして側頭部には火を灯した白い蝋燭を左右に一本ずつ備えており、丑の刻参りを思わせた。

「こちらが今回の呪詛師、呪詛ゾウオです」

 ゲジョーが満面の笑みでゾウオを紹介した時、景色に開いた穴は塞がっていた。
    集められた四人は呪詛ゾウオの姿に怯え、四人ともその場に崩れていた。
    そんな彼らに、ゲジョーは笑みを浮かべたまま歩み寄る。

「怖がることはありません。呪詛ゾウオは貴方たちに危害を加えません。お約束通り、貴方たちの怨む人物に呪いをお掛けします。憎い人物の顔を思い浮かべながら、こちらの紙に息を吹きかけてください」

 ゲジョーはそう言いながら、腰砕けになった四人に小さな紙を配って回った。紙は白く小さな正方形で、和紙のようだ。四人は慄いてはいたが素直で、ゲジョーに言われるまま紙に息を吹きかけた。
 すると、紙はそれぞれ異なる色に変色した。金髪女の紙は灰色、禿げ頭の太った男の紙は紺色、長髪女の紙はサーモンピンク、眼鏡男の紙はベージュという具合に。
 四人は紙が変色したことに驚く。ゲジョーは四人の手許から紙を回収し、呪詛ゾウオに手渡した。

「頼むぞ、呪詛ゾウオ」

 呪詛ゾウオに対しては普段の口調に戻るゲジョー。
 呪詛ゾウオは紙を受け取ると、横開きの口から焦げ茶の球体を吐き出した。その球体が勢いよく地面にめり込むと、次の瞬間にはその場所から大きなはしら仙人掌さぼてんが生えてきた。まるで一瞬で発芽したかのように。

「ウヌらが憎しみ、しかと受け取った。この者たちは我が呪ってくれよう」

 呪詛ゾウオはいつの間にか藁人形を手にしていて、先に受け取った色紙をこの人形に巻き付けた。服を着せるかのように。そして色紙を巻いた四つの藁人形を作ると、自身が生やした柱仙人掌に歩み寄る。

「さあ、苦しめ。我の針は芯まで突き刺さるぞ…!」

 呪詛ゾウオはそう言いながら、毟り取った体の針を頭の蠟燭の火に通す。それと同時進行で、色紙を巻いた藁人形を柱仙人掌に当てる。それから藁人形に針を軽く突き刺した。
 何処からか木槌を取り出し、これを大きく振り被る。次には勿論、この槌で人形に刺した針の尻を叩いた。何発も何発も。
 針はどんどん深く打ち込まれていく。一帯には針を槌で叩く音が響き渡る。集まった呪殺希望の四人の男女は、その様子を固唾を飲んで凝視していた。


次回へ続く!

こちらはスピンオフです!


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