見出し画像

社員戦隊ホウセキ V 第2部/第19話;強化は進む

前回


 社員戦隊側は合コンだのデートだのと随分まったりしている。


 一方、ニクシムの暴動はすっかり沈静化している。しかし、彼らは決して活動を休止した訳ではない。次の作戦に向けた準備に勤しんでいた。


 ゲジョーはいつも通り地球と小惑星を行き来していた。

 六月十九日の土曜日、十縷とおるたちがウモスミウ大会に興じていた頃、ゲジョーはとある水族館を訪れていた。出立は以前に光里の部屋を訪れた時と同じで、夏仕様のセーラー服を着て、長い髪を降ろしていた。

 休日なのに制服を選択しているのは少々不可解だったが、それ以上に謎なのはゲジョーがここを訪れていた理由だ。勿論、趣味などで魚を鑑賞しに来た訳ではなかった。

「憎悪の紋章は、ザイガ将軍ジュエランドに居た頃に地球との交流で得た知識を元に創られてる。俺のは地球の『貝』って生物が元らしい。だからだ、もっと貝とやらの情報が増えれば、俺はもっと強くなれる気がするんだ」

    

 このスケイリーの発言を受けて、ゲジョーは水族館を訪れた。だからゲジョーは真剣に水槽を見て回り、貝という貝について知ろうと努めていた。
    この水族館は客入りが少なく、じっくり調べたいゲジョーにとっては好都合だった。多少は人気のある大水槽には目もくれず、小さな水槽が陳列されたコーナーで、水槽の片隅で動かない貝たちや、水槽の下に備えられた説明板を、穴が開くくらいにじっくりと見て回った。

(スケイリー将軍自体は、うろこふねたまがいという貝がモデルなのだろう。この他に力になるような、良い貝は無いか…)

 じっくりと時間を掛けて水槽を観察し、メモすら取るゲジョー。スカートが短く華美なアクセサリーを纏ったJKの行動としては、かなり意外で目立ったのかもしれない。

 だからか、学芸員がゲジョーに声を掛けてきた。若い男性の学芸員だった。

「魚が好きなの? それとも自由研究とか? 質問があれば、答えるよ」

 この展開は好都合だった。ゲジョーは心の中でニンマリと笑いつつ、肉体の顔には最近修得した営業スマイルを浮かべた。

「ありがとうございます。実は学校で、行きたい学部を決めろって先生から言われて…。で、いろいろ考えたら貝の研究をしたいなって思って…」

 もう作り声も上手くなっていたゲジョー。もう彼女は、殆どの地球人の男性が自分の容姿を好むと認識している上に、それを誘う為の行動も習得しつつあった。
    この学芸員も、漏れなくゲジョーの手口に掛かってくれた。

「そうか。貝か。実は僕も、大学の時は貝の研究をしててさ…」

 今日のゲジョーは運が良かった。かくしてこの学芸員は、手持ちの知識をフル活用してゲジョーにいろいろな貝の説明をしてくれた。ゲジョーは「へぇーっ!」「すごーい!」などと的確な反応をするので、学芸員は益々気分が良くなり、ゲジョーにあらゆる情報を提供してくれた。
    その情報が地球を襲撃する材料になるとも知らず…。

いもがいの毒は、そんな強力なのか…。スケイリー将軍には無い能力だ。そしてみどりがい。貝殻は無いが、自分で首を切って体を再生するとは、凄い能力だな…)

 ゲジョーは学芸員から引き出した情報を自分の知識に還元していった。これが即日ニクシムの幹部に伝えられるなどとは、当の学芸員は露程にも思っていなかった。


 情報を得ると、ゲジョーは小惑星に帰還した。ニクシム神を祀っている部屋で、彼女はマダムとスケイリーに水族館で得た情報について語った。

「この芋貝という貝は毒針を撃ち出す能力があり、毒は地球の生物の中で最も強いとのことです。この緑貝には貝殻はありませんが、これも貝の仲間です。最近になって再生能力が高いことが知られたようで…」

 ゲジョーはスマホで撮影した画像を二人に見せ、二人は食い入るようにそれを見つめる。そして、納得したように頷いた。

「でかしたぞ、ゲジョー。芋貝ってのは強そうだな。緑貝の力も、持っていればかなり使えるだろう。あと、三味線しゃみせんがいだったか? こいつの腕足って部分は興味深いな」

 スケイリーは満足げに、画像の中から三種類の貝を選抜した。これらがスケイリーの新たな力となることは、この時点でほぼ確定的となった。

「では、憎悪の紋章に新たな力を刻むかのう。本来ならザイガに頼みたいところじゃが…。あ奴の様子はどうなのじゃ?」

 すぐにでもスケイリーに新たな力を付加させたいマダムだったが、少し眉間に皺を寄せた。先日、ホウセキレッド・ゴージャスに敗北したザイガが気掛かりだからだ。
    本来なら、憎悪の紋章に関することは彼の領分だ。しかし、今の彼は依頼を受けて的確な仕事ができる精神状態なのか? この点をマダムは気にしていた。

「どうでしょう? ずっとお部屋にいらっしゃるようで…。私からお声掛けをするのも畏れ多いもので、何も存じ上げておりませんが…」

 ゴージャスチェンジャーに屈したあの日以来、ニクシムの中でザイガのことはアンタッチャブル気味になっていた。だからゲジョーも、マダムと同程度の情報しか持ち合わせていなかった。
 改めて別の悩みが浮き彫りとなり、マダムは眉間に皺を寄せる。そんな中だが、スケイリーだけは反応が違った。

「憎悪の紋章の加工ならあんたでもできるだろう? マダム・モンスター。無理にザイガ将軍に頼る必要はねぇ。どうせ部屋に籠ってんのも、新しい武器でも創る為だろう? 落ち込んで引き籠る程、あの方は弱かねぇよ」

 彼は明確にザイガを案じていなかったが、それは関心が無いと言うよりは信頼しているからと言った方が正しいようだった。粗暴な中にも、独特な仲間意識を見せるスケイリー。マダムとゲジョーは彼の発言に納得したのか、表情を明るくした。

「其方の申す通りじゃな。スケイリーよ。ザイガなら心配は要らんし、ザイガに頼ってばかりもいけないな」

 マダムは思い直すと、真剣な目つきになってスケイリーの正面に立った。そして、スケイリーの額に手を伸ばす。鱗船玉貝を模した憎悪の紋章を装着した、その額に。

「ニクシム将軍・スケイリーよ! 今から其方に、新たなる力を授ける! とくと受け取るが良い!!」

 マダムが絶叫すると、その掌から黒紫の電工火花に似た光が放たれた、その光はスケイリーの憎悪の紋章を次々と突き、それと連動してスケイリーの体に、青黒い光の筋が何本も慌ただしく走り回る。

「うおおおおおっ!! 感じるぜ、新しい力…! これなら勝てる。ゴージャスチェンジャー、絶対に俺がぶっ倒してやる!!」

 スケイリーは苦痛を覚えているのか、少しよろめいたり、痙攣するように手先を振るわせたりしていた。しかし、同時に自身の強化も感じているらしく、声は悲鳴ではなく歓声に近かった。
 ゲジョーはこの様子を、心配と期待の入り混じった視線で見守っていた。


 スケイリーの強化が進む一方、最近は自室に籠りがちというザイガは、自室で何やら黙々と作業を進めていた。スケイリーの予想はかなり正しかった。

「地球のシャイン戦隊を倒すのは、他でもない私だ。奴らを打ち倒し、その先に居るマ・カ・リヨモを必ずやこの手で殺す。タエネの復讐は、必ずこの手で成し遂げる」

 体から微かに湯の沸くよう音と鈴が鳴るような音が響かせつつ、作業に没頭するザイガ。

    彼が行っている作業とは、先日から行っている『ジュエランド王に授けられる杖の加工』だった。
    今、その杖はニクシム神が放つような鉄紺色をした粘り気のある光を纏っていて、形も変わりつつあった。先端にはブリリアントカットを施したダイヤモンドに似たイマージュエルが備えられていたが、その石は粘液のようにグニャグニャと動き、新たな形を得ようとしていた。白かった柄も、黒く染め変えられつつあった。

(必ずや、この杖を最強の武器に変えてみせる。ゴージャスチェンジャーは、必ずこの私が打ち破る)

 強い決意を胸に、ザイガは打倒ゴージャスチェンジャーに燃えていた。やはり彼は落ち込んで引き籠るような性質ではなく、この点においてもスケイリーは正確だった。

 ところで作業中、ザイガはあることにふと気が付いた。

(ニクシム神の力が使われている? マダム・モンスターか? これは…。スケイリーを強化しているのか。こちらに回るニクシム神の力が減るな。やれやれ)

 ニクシム神の力を自身の憎心力ぞうしんりょくで導き、ジュエランド王の杖に注ぎ込んで改造していたザイガ。杖に注がれる力が減少したのを感じ、気配を研ぎ澄ませてその原因を探った。

 するとザイガの脳裏に祭壇の間の光景が浮かんだ。

 スケイリーを強化することに異論は無かった。しかし、その為に自身の作業は遅れる。湯の沸くような音を大きくする程ではないものの、地球人なら軽く舌打ちするような雰囲気で、ザイガは心の中だけで愚痴を言った。
    それでも、ザイガは手を止めることなく、作業を続けた。


次回へ続く!


第1部へは、こちらから!

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集