社員戦隊ホウセキ V/第148話;インスピ炸裂!
前回
戦う決意を取り戻した十縷は、六月十日の木曜日、ホウセキレッドとして津木路に現れた氷結ゾウオに戦いを挑んだが、返り討ちに遭って氷漬けにされてしまった。
レッドの窮地にグリーンが強行出撃して駆けつけたが、ザイガの卑怯な作戦に嵌ってしまった。
全身を覆う氷に自由を奪われているレッドは、ブラックの卑劣さに怒りを覚えつつも、スーツを損傷し、足を氷漬けにされて動けなくなったグリーンを助けようと、脳をフル回転させていた。
(あのゾウオ、ニクシム神だけじゃなくて、イマージュエルからも力を受けてるから強いんだよな。だったら、こっちも二つのイマージュエルから力を受けたら、勝てるんじゃないか?)
唐突だった。レッド=十縷の中に、一つのアイディアが閃いたのは。
「インスピ湧いてきた! これなら行けるぞ!!」
氷の中でレッドが叫んだ。すると、その次の瞬間だった。
「雨? いや、違う。赤の宝世機の水だ。もう融かされたのか?」
いきなり一帯に霧雨が降って来た。
まさかと思って振り返ったブラックは、確かに見た。ピジョンブラッドの梯子の先を覆う氷が、完全に融けるのを。
固まっていた水は融けて一帯に散らばり、氷結ゾウオに凍らされた諸々の物を融かし始めた。グリーンの足を覆っていた氷もその例外ではなく、グリーンは自由を取り戻した。
空を覆っていた暗雲も隙間が増え、一帯には陽光が差し始める。その陽光は水滴と協調し、虹を創った。
この展開にブラックと氷結ゾウオは慄き、グリーンは表情を綻ばせた。
「ジュール! 待ってたよ!!」
グリーンが歓喜の声を上げる中、ピジョンブラッドの水はレッドを捕らえていた氷をも融かし、レッドは自由の身となった。
「インスピ湧いてきた! 来い、ゴージャスチェンジャー!!」
左手を上空に向けて突き上げて、レッドは叫んだ。
初めて聞くその名に一同が首を傾げていると、まだ黒い雲が残っている空に皹が入り、ガラスのように砕けた。そこから姿を現したのは、リヨモらジュエランド王家の者が交信する、無色透明のイマージュエルの破片だった。
レッドに呼ばれた破片の一つは眩く光りながらその姿を変え、徐々に高度を落としていく。そして、それはレッドの左手と接触した。
『熱田の想造力が、またジュエランド王家のイマージュエルの破片を変えたのか!?』
驚く愛作の声が、ブレスを介して寿得神社から戦場に届く。その時、イマージュエルの破片は姿を変えて、レッドのブレスと接続していた。
イマージュエルの破片が得た姿は、プラチナで創られた長方形の板。金で縁取られ、無色透明な水晶を備えている。
これこそがゴージャスチェンジャーだ。
ゴージャスチェンジャーの基板には穴が開いており、ここにホウセキブレスの赤い宝石が収まることで、ゴージャスチェンジャーとホウセキブレスは接続された。
「ホウセキレッド・ゴージャス!!」
レッドが左手を降ろしながら叫ぶと、レッドの体が光り始めた。
その光の中で、レッドは姿を変える。
赤銅色だった部分は全て金に置き換えられ、胸と両肩にはプラチナの装甲が装着される。プラチナの装甲の胸には、金色のVの上に逆さの五角形に加工されたルビーのような宝石が、両肩にはトリリアントカットの水晶のような宝石が、それぞれ施されている。その名の通り、レッドはゴージャスな姿となった。
『王家のイマージュエルの力をジュールさんから感じます。赤のイマージュエルの力に加えて、王家のイマージュエルの力も受けていらっしゃるのですね』
何が起きたのかは、リヨモが鈴のような音を鳴らしながら語った考察の通りである。
「光里ちゃんに近寄るな!」
ホウセキレッド・ゴージャスは豪快に跳躍し、ブラックの頭上を飛び越えた。と思った次の瞬間には、グリーンに迫っていた氷結ゾウオが吹っ飛ばされていた。
レッドは宙返りから、花英拳の奥義・野茨を真似た蹴りを繰り出したのだ。その速さに氷結ゾウオは対応できなかったのだ。
「お待たせ、光里ちゃん。ようやく一緒に戦えるよ」
ホウセキレッド・ゴージャスはまだ横座りのグリーンに駆け寄り、右手を差し伸べた。グリーンはこの手を借りて、ゆっくりと立ち上がる。
「遅い。危なかったじゃん。でも、本当にゴージャスだね。流石だわ」
メットを失ったグリーンは、憎まれ口を叩きつつも明るい表情を見せた。レッドの新たな姿、そこから感じられる力が、彼女を勇気付けていたのだ。
グリーンは再び短剣のホウセキアタッカーを手に、戦闘態勢を整える。
「さあ、一緒に戦うよ!」
グリーンに言われて、レッドは氷結ゾウオとブラックの方を振り返った。
「立て、氷結ゾウオ。蹴散らしてやるぞ」
「赤の戦士! よくも蹴ってくれたわね! 許さないわよ!!」
湯の沸くような音と耳鳴りのような音を鳴らすブラック。氷結ゾウオも立ち上がり、怒りの咆哮を上げる。
これが試合再開のゴングとなった。
ゴージャスチェンジャーの件は、田間で氷結ヅメガと戦う三人にも知らされていた。
「向こうは盛り上がってるらしいな。俺たちも負けていられないぞ」
ブルーが発破を掛けると、イエローがすぐさまこれに応えた。と言うか、彼はもう既に触発されていた。
「実は俺、今すげぇインスピ湧いてるんですけど。付き合って貰えますか?」
尊大とも思える程、イエローの口ぶりには自信が感じられた。そして、彼の思考はブルーとマゼンタにもすぐ伝わった。
「勿論だ! お前の発想を自由に炸裂させろ!」
このブルーの返事がゴーサインとなり、一同は動き出す。
「じゃあ、お願いします。…銀河合体!」
イエローが叫ぶと、まず空中でハバタキングが分離した。ガーネットは元の高度を保って舞っているが、サファイアは凍結した湖面まで降りて来る。サファイアの後方から、トパーズが激突する程の勢いで向かってくる。トパーズは、走りながら左右に分離した。ホウセキングの脚を形成する時と同じ動きだが、今回は脚にはならない。分離したトパーズはサファイアの左右を挟み、吸い寄せられるようにサファイアの左右に結合した。これで合体は完了。キャタピラとショベルアームを持つホバー艇が完成した。
「完成! アルビレオ!!」
イエローとブルーは同時にその名を叫んだ。アルビレオと名付けられた合体宝世機は、吼える龍のようにショベルアームを高々と掲げる。一連の合体を見届けて、マゼンタは思わず「博学ですわね!」と舌を巻いた。
「ブゥオォォォッ!!」
氷結ヅメガは大きな口を開けながら突撃してきて、アルビレオの機体に噛みつこうとする。アルビレオはその迫力に屈することなく、氷結ヅメガに向かっていく。
両雄は激突するが、当たり勝ったのはアルビレオの方。体格に勝る氷結ヅメガの体勢を難なく崩し、そのまま後方に吹っ飛ばした。そして、間髪入れずに次の攻撃動作に移る。
「イエロー、一気に決めるぞ!!」
「私も後押ししますわよ!」
ブルーの叫びに応じて、アルビレオはショベルアームを掲げながら突撃する。ガーネットはその後ろに回り、プロペラの風をアルビレオの後部に当てた。ガーネットが起こす風にはピンク色の光が絡み、これはアルビレオにも伝播して力を与える。
「行けえぇぇぇぇぇっ!」
イエローが吼えると、アルビレオのショベルアームのグラップルには黄、ピンク、青の光が宿る。アルビレオは突進の勢いも加えて、そのグラップルの一撃を氷結ヅメガに繰り出した。氷結ヅメガは避ける暇すら与えられず、この一撃を食らった。氷結ヅメガの体は黄、ピンク、青の光の粒子と化し、霧散する。
「宝暦八年、六月十日、午前十時三十七分、憎悪獣を殲滅」
敵を撃破し、ブルーがブレスに囁いた。しかし、戦いの余韻に浸る気は無い。
「早くレッドとグリーンの救援に行きましょう」
まだレッドとグリーンは戦っている。イエローは二人のことを気にしていた。それはブルーとマゼンタも同じで、二人とも「勿論」と即答した。
津木路では、激闘が繰り広げられていた。
「行くぞ、氷結ゾウオ」
ブラックは散弾銃のように大筒から無数の黒紫の光弾を発射し、氷結ゾウオは胸元に出現させた無数の氷柱を吐息で吹き飛ばす。
数え切れない程の弾がレッドとグリーンに襲い掛かるが、二人とも動じない。レッドは手にしたホウセキアタッカーから、赤く光る弾丸を放った。信じられない速射で、多数の弾丸を。弾丸は一つ一つが独特な軌跡を描き、次々と氷柱や光弾と正面衝突して相殺していく。この激しい銃撃戦の間を縫って、短剣を握ったグリーンが突撃していく。
グリーンを見て、氷結ゾウオは思った。
(馬鹿め。同じ手に掛かるとは。氷の破片がお前を捕らえて…)
先刻、レッドを拘束したのと同様に、氷柱の破片でグリーンを固めようと思っていた氷結ゾウオだったが、思い通りには行かなかった。
「その手は使わせないよ。ピジョンブラッド!」
レッドの声でピジョンブラッドが動き、梯子から水を噴射した。戦場に雨が降る形になり、走るグリーンを捕らえてようとしていた氷の破片たちは、たちまち融かされた。
当てを外された氷結ゾウオは狼狽する。
「やられっ放しじゃないよ! ソードフィニッシュ!!」
ピジョンブラッドの水と日光が創る虹の間を駆け抜けながら、グリーンは氷結ゾウオに迫る。右手に握ったホウセキアタッカーの刃に、緑色の光を宿らせながら。グリーンは氷結ゾウオの横を通り過ぎる様、光る刃を横に薙いで氷結ゾウオの胴体を斬った。
狼狽していた氷結ゾウオはこれをまともに食らい、傷口から黒い粘液を散らしながら倒れた。
「緑の戦士め。その心、意地でも圧し折ってくれる」
ブラックが湯の沸くような音を鳴らし、武器を大筒から刀に持ち替えてグリーンに迫る。しかし、ブラックの刃がグリーンに振るわれることはなかった。
「お前の相手は僕だ!」
レッドがブラックの眼前に走り込んで来た。グリーンと同じくらいの速さで距離を詰めて来たので、勢いだけでブラックはたじろいだ。
レッドが手にした、ソードモードのホウセキアタッカーの刃は、形状こそ通常と同じだが色は金色に変わっていた。
その剣を振るい、レッドはブラックを攻め立てる。ブラックは持ち前の剣技でこれに対抗するが、体からは驚きを示す鉄を叩くような音が鳴りっ放しで、完全に余裕を失っていた。
(斬撃が以前よりも速く、そして重い。動きも以前とはまるで違う。二つのイマージュエルの力が、この者の力をここまで引き上げているのか?)
以前、ブラックはレッドと剣戟を演じた。あの時のレッドは怒り狂い、憎心力を纏った斬撃を繰り出していたが、今のレッドは当時とは質が違う。斬撃は想造力しか纏っていないが、こちらの動きを読んでいるのかのような的確な身のこなしで、鋭い斬撃を繰り出してくる。
「お主如きが、私に剣で勝とうなど…」
ブラックは大きく後方に跳んで、レッドとの距離を取った。跳ぶ過程で刀に黒のイマージュエルの力を存分に籠め、刃に黒紫の光を宿らせる。
(ソードフィニッシュか? ならこっちも!)
レッドは跳んだブラックを深追いせず、その立ち位置のまま剣にイマージュエルの力を籠め始めた。通常よりも短時間で、ソードフィニッシュに充分な力を蓄えることができた。
「我が最高の一刀、受けてみろ」
ブラックは着地と同時に、黒紫に光る刀を振り翳してレッドに向かって突撃した。レッドも同じタイミングで、ブラックに向かって走り出す。
「ソードフィニッシュ!!」
赤く光る剣を振り翳して走るレッド。両雄は丁度中間点で激突した。互いの光を纏った刃が交わり、激しく火花を散らす。この力と力のぶつかり合いを制したのは…。
レッドだった。競り合いの末、ブラックの刀に宿った黒紫の光は霧散し、刀身まで折られてしまった。
レッドの斬撃の威力はそれだけに留まらず、ブラックの体にまで到達した。黒い戦闘スーツの胸元を斬り裂かれ、ブラックは堪らず後方に吹っ飛ぶ。そして放物線を描きながら地に叩きつけられた。
戦闘スーツは黒紫の光の粒子と化して霧散し、ザイガの姿が露わになった。
次回へ続く!