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社員戦隊ホウセキ V/第113話;愚かな呪い

前回


 六月四日の金曜日、新たなゾウオ・呪詛ゾウオが出現し、四人の人物にその魔手が及んだ。

 社員戦隊はすぐに出動し、呪われた被害者にはマゼンタが対応し、他の四人は呪詛ゾウオの元へと向かったが…。

 呪詛ゾウオに呪いを掛けられた人物は、ゲジョーがSNSを使って集めた地球人に怨まれた人たちだった…。



 マゼンタ以外の四人を乗せたキャンピングカーは、あと少しで呪詛ゾウオの居る採石場に着こうとしていた。

『こちらマゼンタ。二人目の治療、完了しました。三人目の元へ向かいます』

 時雨たち四人のブレスに、マゼンタの声が届く。順調な進行に時雨たちは一先ず安堵していたが、同時に懸念材料も抱えていた。

「俺たちはゾウオを倒せばいいのだが、問題はこの人たちだな…」

 時雨は苦々しく呟きながら、呪詛ゾウオの映像に目をやる。
 その映像には、ゲジョーに群がって和紙を受け取る四人の男女が映っていた。彼らにどう対処するのか、ゾウオを倒すよりもこちらの方が厄介そうだった。

「ちょっと乱暴ですけど、マミィショットで拘束しちゃいますか? ゾウオの盾にでもなられたら大変ですし」

 光里がそんな提案をした。妥当な選択肢だろうと、時雨は頷く。和都も同様の反応だったが、十縷は少し違った。

(悪い対応じゃないけど…。でもこの人たち、ニクシムの味方してるんだよね。この人たちのせいで、被害者の人たちはやられた可能性が高い。もうそうなら、この人たちはゾウオと同罪じゃないのかな?)

 光里の作戦に反対する気は無かった。しかし、この四人には何とも言えない嫌悪感を抱かずにはいられない。十縷の心境は複雑だった。


 キャンピングカーは採石場に辿り着いた。

 車の外では、到来した憎き敵に四人の男女が身構える。ゲジョーは淡々としており、呪詛ゾウオは我関せずで人形に針を打ち込み続けている。
 ところで誰も気にしていないが、ゲジョーらを運んだマイクロバスの中はまだこの場に駐まっており、まだ運転手はバスの中でホウセキVの到来を確認していた。

「来たか、シャイン戦隊。さあ、思った通りになってくれるか…」

 運転手が棒読みでそう言った時、何故か車内には鈴のような音が響いていた。



「俺がマミィショットで四人を拘束する。そうしたらゾウオを攻撃だ。人が居るから、極力ガンモードは使うな。流れ弾が当たるかもしれん。ゲジョーの動きは俺が警戒しておくから、お前たちは戦いに集中しろ」

 停車する寸前に、時雨は凡その段取りを三人に伝えた。
 そしてキャンピングカーが駐車すると、四人は変身して車外へ飛び出す。手筈通りにまずはブルーが四人の男女にマミィショットを撃とうとしたのだが、その時だった。

 ガンモードのホウセキアタッカーを取ったブルーの手から急に力が抜けた。それどころかブルーは胸に痛みを覚え出し、その場に倒れ込んでしまった。

「隊長! どうしたんですか…!? えっ、何これ!?」

 倒れたブルーを案じてレッドらは彼に寄り添おうとしたが、まさにその時だった。彼らも急に胸が激しく痛み出し、堪らずその場に倒れ込んだ。

(まさか、俺たちにも術が…?)

 苦しみながらブルーは、はしら仙人掌さぼてんに針を打ち込む呪詛ゾウオに目をやった。すると彼は見た。柱仙人掌に打ち付けられていた人形が、七個になっていることに。うち五個には、それぞれ赤、緑、黄、ピンク、青の色紙が巻かれている。これが意味するところを、ブルーは瞬時に理解した。
   そして、それは正解だと四人の男女が誇らしげに語ってくれた。

「やった! こいつらにも、呪いが掛かった!!」

「ざまぁ! 私の呪いを邪魔した罰だ!!」

 先程ゲジョーから渡された和紙に、彼らはホウセキVのことを考えながら息を吹きかけた。そして、その紙は赤、緑、黄、ピンク、青の五色に染まった。その紙が藁人形に巻かれ、今こうして呪詛ゾウオの針を打ち込まれているのだった。

「あんたら、自分が何してるのか解ってるのか…?」

 苦しみながら、レッドやイエローは彼らに呼び掛けた。しかし、彼らに聞く耳はない。その間にレッドたちが受ける痛みは増大していき、やがてホウセキスーツが光の粒子と化して霧散して、四人は倒れたまま素顔を晒してしまった。
 彼らの変身が解けると、四人の男女は歓喜の雄叫びを上げる。
 ゲジョーは倒れる彼らに歩み寄り、光里の前にしゃがんで彼女と対峙した。

「すまんな、緑の戦士。恩を仇で返す形になってしまったが、悪く思うな。所詮、私たちは敵同士なんだ」

 奥歯に物が挟まったような喋り方で語るゲジョーは、両耳のピアスの宝石を光らせる。すると、うねる紐の形をした鉄紺色の光の靄が生じ、たちまち十縷たち四人を拘束した。縛られた四人は、強引に立たされる。

「さあ、我が呪いの針に苦しめ」

 そして呪詛ゾウオは針を打ち込み続けて、四人は苦しむ。このまま彼らが暫く苦しめられるのは、避けられそうになかった。


 ホウセキVが呪われた。リヨモのティアラは、採石場で苦しむ十縷たち四人と、ガーネットの中で苦しむマゼンタの映像を投影する。この展開に、寿得神社の愛作とリヨモが騒然としない筈が無かった。

「祐徳! 自分にグロブリングを掛けろ!!」

 愛作は色で呼ぶのも忘れ、指環に向かって必死に叫んだ。

 マゼンタの苦しみを反映してフラフラと高度を落とすガーネットの中で、マゼンタは状況を打開するべくグロブリングを装着して、抗体のような光を自分の胸に照射した。すると、彼女の胸からも抗体型の光に固められた針が出てきた。すぐにマゼンタはこの針を手刀で叩き折った。
    かくしてマゼンタは回復し、ガーネットも墜落寸前で体勢を立て直し、また高度を上げて正常飛行に戻った。

『マゼンタ、回復しました。ご心配なさらず』

 このマゼンタの知らせを受け、愛作とリヨモは安堵する。

「マゼンタ。まずは呪われている人たちを優先しろ。ブルーたちを助けに行くのはその次だ」

 色で呼ぶのを思い出した愛作は、マゼンタにそう指示した。マゼンタもそのつもりで、二つ返事で次の被害者の元を目指した。


 マゼンタはグロブリングで術を破ったので、新たに針を打ち込んだ五つの人形のうち、ピンクの色紙を巻いたものだけはすぐに針が消失して、柱仙人掌から離れた。しかし当の呪詛ゾウオは「やっぱりな」と呟くだけで全く慌てず、残った人形に針を打ち続ける。その影響で、ゲジョーの術で拘束される十縷たち四人は苦しむ。

「皆さん。お手数ですが、彼らの手からブレスレットを外して貰えますか? 万が一、変身されたら厄介ですので」

 ゲジョーがそう言うと、四人の男女は動き出す。金髪女は十縷、眼鏡男は同じく眼鏡の和都、禿げ頭の太った男性は時雨、細い長髪の女は光里、と分担して、四人はホウセキVの背後に回り、動かせない彼らの手からホウセキブレスを外して奪った。

「貴方たち、正気ですか? 彼らは地球を侵略しようとしてるんですよ。それを解って、味方してるんですか?」

 掠れた声で四人に問い掛けたのは時雨。しかし、彼らはそんな言葉を全く意に介さない。時雨に言われると、口々に騒ぎ始めた。

「黙れ! 俺はな、請求書の金額を間違えたら、クソ部長に『大変なミスをしたのに、笑って済まそうとせずに謝れ!』とか怒鳴られたんだ! 200万円ズレただけで怒鳴られるなんて、完全なパワハラだ! こんな可哀想な俺の復讐を邪魔すんな!!」

 禿げ頭の太った男は、時雨に向かってそう怒鳴りつけた。随分と詳しく、自分がどういう理由で誰を呪ったのか、説明してくれた。
 それを聞いて、ホウセキVの四人は苦しみながらも呆れたが、これを皮切りに他の者も騒ぎ始めた。

「町田ウンコ万年准教授なんか、呪われて当然だよ! 私にさ、『お前は化学の知識は定着しているけど英訳が苦手だから、英語を頑張らないと他の学生に後れを取るぞ』とか言ってきて。私は他人と比較されて、虐められた! アカハラされたんだよ!」

 これは金髪女の言葉。

「英語のクソ教師、新任のクセにさ。僕が授業中に解説を聞かずに和訳してたら、『ちゃんと授業聞け!』とか言って、皆の前で怒りやがって…。しかもテストでさ、『お前のcは大文字か小文字か解らん』とか、『gがqに見える』とか言ってバツつけて、赤点にしやがって…。僕はあいつに苛められたんだ! これは正当な復讐だ!!」

 そう叫んだのは、瓶底眼鏡の高校生。

「私もだよ! あのクソババア、私が会社の廊下で蹲ってたら、『仕事に手が付かないくらい調子が悪いなら、帰りなさい』とか言って来て…。帰れって、何なのあいつ!? 普通、心配するでしょ! 私が迷惑にならないように、会社に残ってたのに…!」

 長髪の女は、華奢な容姿に似合わず激しい怒声を上げた。
    ともあれ、四者四様の経緯で誰かを怨んだそうだが、どれ一つとして時雨たちに共感されなかった。

(全員、逆恨みじゃん。しかも、呪うほどの仕打ちなの?)

 時雨と和都と光里はそう思った。というか、その程度で留めていた。
    それに対して十縷は、額に脂汗を流しながらも険悪な表情になっていた。

(何だ、こいつら? 自分らが悪いのに、それを指摘した人を怨んで…。ひき暈典みつのりと同じだ。いい加減にしろよ…!)

 彼らの身勝手な言い分は、彼の中で引手暈典と繋がった。そして、それは自ずと怒りへと繋がる。苦しみながらも、十縷は確実に怒りを蓄積させていた。


 そしてその表情を、ゲジョーらが乗って来たマイクロバスの運転手は、車内からしっかりと確認していた。

(いいぞ、赤の戦士。怒れ、もっと怒れ。お主の憎しみを滾らせろ)

 運転手は往きにゲジョーが膝の上に置いていたエコバッグを手にし、その中に入ったブレスレットに目をやった。
    車内には相変わらず、鈴のような音が響いていた。


 さて、ゲジョーに集められた四人は自分が哀れだと叫んだのだが、その間にも彼らが呪っていた人々は次々に救われていた。
 マゼンタが最後に向かったのは、とある病院。空いていた電車の中で倒れた女性は、次の駅で乗って来た他の乗客に助けられ、たまたま近くにあった病院に連れて行かれたのだ。
 そしてガーネットに乗ったマゼンタがここに駆けつけ、見事にグロブリングで回復させたという次第だ。

 苦しみから解放されて感謝してくる女性を程々にやり過ごし、マゼンタは病院の屋上へと走った。その上空では、ガーネットがホバリングしながら待っている。

「さあ、いよいよですわね。皆さん、もう少しの辛抱ですわよ!」

 屋上に到着したマゼンタは、すぐガーネットの中に吸い込まれる。そして意気揚々と、仲間が捕らわれる採石場へと飛んでいった。


次回へ続く!

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