「スマホを落としただけなのに」(小説)のラストシーンについて語ってみる
※注意
「スマホを落としただけなのに」(小説)のネタバレを書いています。
ラストシーンの否定的記事ですのでご注意を。
この小説は「羊たちの沈黙」や「セブン」の領域に辿り着ける資格のある作品だった。
と、言っても映画と小説を同列に語るのは少し違う気もしますが、まあそこは気にせずに語ってみたいと思います。
中盤ぐらいを読んでる最中、私は「これ、バッドエンドになったらめちゃくちゃ後味悪くなるやつやね。どうなってしまうんだ。」とか思いながら読み進めていたのですが、終盤になって失速してしまった感が否めない。
ラストシーンに至るまでは、完璧な話でした。
男の異常性が丁寧に表現されて、稲葉麻美に徐々に近づいていく気持ち悪さは実際にも起こりうるのではないかと想像でき、捜査が全く進展しない警察に苛立ちを感じ、異常者に対してどう対応していくのかとハラハラしながら読んでいました。
しかしラストシーンで、物語の描写に勢いが失くなってしまった気がします。
それは麻美が監禁された場所での表現が安っぽく感じてしまったからです。
例えば彼女は下着姿にされてしまいましたが、下着姿にされた事による麻美の心理的ダメージの描写が弱かったり、爪を剥がされた(?)シーンがあっさりしすぎていたと思っています。
何なら、フェイスブックを乗っ取られた時の方が、心理的ダメージの表現が上手だった。
つまり麻美の心理的ダメージや不安な感情の増幅が、ラストシーンに辿り着くまでは徐々に徐々にと丁寧に表現されていたのですが、いよいよラストシーンとなった段階で、完全に感情が爆発する前に何やらあっさりと助けられて、代わりに今までほとんどほのめかされていなかった麻美の秘密の話題に切り替わってしまい、ちょっと唐突すぎて、「え?そうなの?」と置いてけぼりをくらってしまい、「お、おお。かわいそう、、、だね?」と思ってしまった自分がいるのです。(読解力不足?)
「スマホを落としただけなのに」は、不安を爆発させる下地は十分に用意されていたのですが、作者が敢えてそっち方向(胸くそ展開)に舵を取らなかったとしか思えないぐらいに、ラストシーンが違う方向に行ってしまったな~と勿体なく思うわけです。
例えば、ラストシーンで直接的な胸くそ描写はせず、警察官と男が別荘の外で会話を交わした後、男が立ち去ってしまった後に、別荘の中から富田と思われる男の悲壮な叫び声が聞こえてきたのなら・・・とか想像すると、、、
と言うかこれでは完全に羊たちの沈黙とセブンのパクりですね。
それだけ、本当にあと一歩、画竜点睛で小鳥の目を書いてしまった感じがする訳です。
と、ここまで好き勝手書いてきましたが、この小説を私は一日で読み終えました。
面白くて先が気になって仕方がなかったので、一気に最後まで読み進めました。
そして読み終えて心底思っているのが、ラストシーンが違っていれば、「リング」の様な伝説的な作品に十分に成り得た作品だったな~と言う事であります。
蛇足
「スマホを落としたので結婚しました」的な続編を読んでみたいです。