緊急事態発生 ◇うつ闘病記 その1◇
2019年3月のある金曜日。その日を境に私の人生は思いもよらぬ方向へ進んでいくことになった。
仕事帰りに自宅の最寄り駅近くで夕飯を食べて帰ることにした。お店に入り、注文する。週末の解放感に浸りながらビールを飲み、運ばれてきた料理に手をつけ始める。
が、明らかにいつもと違う。得体のしれない不安が押し寄せてくる。
何、この感じ?
落ちつけ、落ちつけ。
自分に言い聞かせながら、ゆっくり店内を見回す。
楽しそうに雑談している客たち。
目の前にあるビールのジョッキ。
壁に貼られたメニュー。
店の隅に積まれた段ボール。
目に映る何もかもが怖い。そして、この世に自分の体が存在していることがとてつもなくおそろしく感じる。
逃げたい、逃げたい、逃げたい。
でもどこへ?
逃げる場所なんてない。
どうすればいいの?
そのまま座っていられず、ほとんど食べずに店を出た。脚に力が入らず、歩いている実感がない。
やっとの思いで家にたどり着くと、激しい悪寒に襲われ、布団にもぐり込んだ。体がガクガク震え、歯の根が合わない。
このまま死んでしまうのではないかと思い、気が遠くなっていく。
風邪薬を飲んで目をつぶり、じっと耐える。一刻一刻が途方もなく長く感じられる。
枕に顔をうずめ、夜が更けていく中、明け方にようやくうつらうつらと寝入ったようだった。
2、3時間で目が覚めた。悪寒はおさまっていたが、不安が体全体を包んでいる。何もしないでいると大きな渦に飲みこまれそうになるので、気持ちが明るくなりそうなディズニー映画を観始めたが、つらくなって途中でやめた。
ゆっくり休めば良くなるはずと信じて土日を過ごしたが、月曜の朝になっても変わらぬままだった。
この時から、嵐に耐えるような日常が始まった。