「礼には及ばぬ」ってやつよ
例えば、部署にいる新人さんが電話を切ったあと、明らかに「どうしよう…」という顔で困惑しているとき。
わたしは
大丈夫?
なんかあった?
と、話し掛けます。
あるいは、他部署の人が我が部署にやってきて、半端な位置でウロウロしているとき。
わたしは
何か探し物ですか?
と、声を掛けます。
これらの行為、考えてみればわたしに1つも得はありません。
何か手当を貰えるわけじゃないし
それどころか
話し掛けたばかりに仕事が増えて
残業することになるかもしれない。
内容を聞いたはいいけど
わたしも担当外で往生するかもしれない。
解決できずに無能っぷりを露呈するかも。
もしくは「担当」と認識されて
余計な仕事を抱えることになる可能性もある。
どちらかというと、不利益。
こういうとき
割と皆さん、
見て見ぬふりをします。
見て見ぬふりなのか
本当に気付いていないのか?
無頓着、という可能性もある?
…
いや、でもさすがに
一度も気付かないことはないでしょう。
さっきまでそこで談笑していた人たちが
すすーっと黙って徐に
キーボードをカタカタし始めるのです。
新人さんが困ったタイミングで
他部署の人が来たタイミングで
急に仕事って忙しくなり始めるものかしら。
まあ、恐らくは
関わったら面倒くさそうだ、とか
とりあえず話し掛けられるまで待とう、とか
それはわたしの仕事ではない、とか
放っておけばあいつがやるだろう、とか
その辺りの考えで、そういう態度を取っているのではないかと思います。
***
かつて、わたしが若かった頃、新人だった頃、わたしに大丈夫?と話し掛けてくれた人たちがいました。
大丈夫?
なんかあった?
探し物?
右も左も分からない場所で困っていたわたしは、彼らに何度助けられたことでしょう。
考えてみればあの方たちにも、わたしを慮って得することは特段、無かったはずです。
わたしが知らないところで
大変な思いをしたかもしれないし
残業が増えたかもしれない。
家に帰るのが遅くなって
ご家族に小言を言われたかもしれない。
すごく有難いことだったんだな、
と実感したのはでも、随分あとになってから。
わたしの行為も、今、その人にお礼を言われたり恩返ししてもらう必要はありません。
巡り巡っていずれ、誰かの助けになったらいいなと思うのです。