集中しているとき、わたしは洞窟の妖怪なのに
本を読んでいるとき
大量の入力業務をしているとき
料理を作っているとき
そういった、集中して何かの作業を行っているとき、周りからはいつものわたし、に見えるでしょうが、わたしは実は、洞窟の奥に住まう妖怪です。
洞窟の中に「おーい」とか
声を掛けようものなら
わ た し を
起 こ す の は
だ れ だ ・・・
なんて恐ろしげなる声が直接脳に語りかけてきて、キャーと逃げる、あるいは逃げ遅れた者が洞窟の奥に引きずり込まれ、二度と帰ってこない…みたいなやつ。
そう、あれなのです。
ただ、わたしは確かに妖怪なのですが、残念ながら妖力を待ち合わせていないので、声を掛けた人の脳に直接語りかけることも出来ないし、こちらの世界に引きずり込んだり食ってしまったりすることも出来ません。
ただ「‥‥何?」とちょっと眉根を寄せるのみ。
人畜無害の妖怪なのです。
近しい人には、わたしは集中モードの際に声を掛けられるのが苦手なので、出来るだけそっとしておいてほしい、話し掛けるのは急用のときだけにして欲しいし、そうでない場合は返答がちょっと遅れるかもしれないが、それは洞窟の奥からのそのそと這い出てきているようなイメージなのでしばらく待ってほしい、と伝えてあります。
事ある毎に度々伝えているのに
視力というものは厄介です。
洞窟の奥にいるときも、いないときも、わたしは見た目「いつものわたし」なので、みんな気軽に話し掛けてくるのです。
話し掛けられたから、仕方なく重い腰を上げ、よっこらしょと洞窟の奥から這い出ている途中でワワーっと話されて「え、ちょっと待って、何」とかこちらが慌てると「だから、○○だって」とかちょっと苛立ちをぶつけられたりするのです。
かなしい妖怪。
集中モードのときは見た目もおどろおどろしい妖怪に変化することができれば「あ、今集中してるんだな」と周知することができるし、そもそも気軽に話し掛けようとする気持ちも失せるでしょうに。
見た目がただの人間って、厄介なものです。