経営している会社の株式に対する遺留分対策
自社株の相続時の対応は大変
オーナー企業のオーナーが亡くなった場合、当然オーナーの資産は相続における遺産分割の対象となります。
そして、遺産には経営していた企業の株式も含まれます。
企業が未上場企業である場合、相続した株式は容易に現金化はできません。
相続人が複数いる場合、会社のオーナーが一気に複数人に増えてしまう可能性があります。オーナーが増えすぎてしまうと会社の意思決定が遅れたりと、弊害が多々生まれてしまいます。
そのため、被相続人である前オーナーの持株に関しては、後継者に相続させたり生前贈与させたりするのが一般的な施策となります。
ですが、もし前オーナーの財産の大半を株式が占めていたらどうでしょうか。相続人たちは株式の価値分の現金を求めてくる可能性もあります。会社の後継者は、売却することもできない株を取得する代わりに、他の相続人に対しても現金を準備しなければならないのです。
ほかにも色々なリスクがありますが、ここでは割愛します。状況は人それぞれなので、丁寧にリスクの洗い出しをしなければならないということを覚えておいてください。
遺言で何とかならないか?
上記のケースの場合、後継者に株式を、他の相続人に現金をというふうに遺言を残したらどうでしょう?非相続人に意思なのでそれは覆せないように感じるかもしれません。しかし、民法で法定相続人(被相続人の兄弟姉妹を除く)には遺留分侵害額請求という権利が認められています。
これは法律で決められた財産の分割の割合の半分は、たとえ遺言があったとしても原則請求する権利を得ることができるという制度です。
つまり遺言で渡す金額が遺留分を侵害している場合には、侵害分を金銭で穴埋めしなければなりません。相続財産の大部分が持株である場合には色々と不都合が生じる可能性が高いです。
遺留分を事前に放棄させることはできないか?
被相続人の死後遺留分を放棄することは、相続人の意思表示で簡単にできますが、被相続人の生前に遺留分を放棄するには家庭裁判所の許可が必要です。
これは、法律で守られた遺留分という権利の放棄を無制限に認めてしまうと、財産を残す側や他の相続人の強要が行われるという恐れがあるためです。
遺留分放棄を家庭裁判所が認める要件
遺留分放棄を家庭裁判所が認める要件は以下の3つであると言われています。
(1)遺留分の放棄が本人の自由意志に基づくものであること
(2)遺留分放棄に合理的な理由と必要性があること
(3)遺留分放棄の“見返り”があること
これをみた感想はいかがでしょうか?できないことはないけれど手間もかかるし、認められるハードルも高そうではないでしょうか。
そもそも、わざわざ権利があるのにそれを放棄をするということは、権利を持っている相続人本人にとっても重大なことです。
遺留分放棄意外の対策(除外合意と固定合意)
上記のような遺留分の問題に対処するため、経営承継円滑化法は、「遺留分に関する民法の特例」を規定しています。
この民法特例を活用すると、後継者を含めた現経営者の推定相続人全員の合意の上で、現経営者から後継者に贈与等された自社株式について、
遺留分算定基礎財産から除外(除外合意)
又は
遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価(※)に固定(固定合意)
をすることができます(両方を組み合わせることも可能)。
(※)固定する合意時の時価は、合意の時における相当な価額であるとの税理士、 公認会計士、 弁護士等による証明が必要。
<除外合意>
後継者が現経営者から贈与等によって取得した自社株式について、他の相続人は遺留分の主張が できなくなるので、相続に伴って自社株式が分散するのを防止できます。
<固定合意>
自社株式の価額が上昇しても遺留分の額に影響しないことから、後継者は相続時に想定外の遺留 分の主張を受けることがなくなります。
除外合意と固定合意の弱点
この文章を読んでいる方はお気づきかもしれませんが、この制度には弱点があります。
合意ができていなければ適用できないということです。
結局後継者以外の相続人は持株の価値を除外させられることになります。権利を主張したい相続人もいることでしょう。
あくまでも遺留分の事前放棄よりも使いやすい制度でしかない
ということは覚えておかねばなりません。
早めに根回しをしておくことが大切
権利の調整は時間がかかりますし、雑に行えばすぐトラブルを引き起こします。
先を見据えてしっかり戦略を練り進めていくことが肝要です。
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