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【記者日記】今年も越冬の季節が来た

                                                 かわすみかずみ

  昨年末、各局の報道では「年末年始の天気は大荒れ」  と言っていた。今年の越冬は厳しいな、と覚悟していた。例年同様、釜ヶ崎、神戸、扇町の越冬を回る予定でいた。釜ヶ崎は三角公園での越冬闘争が行われるだけで、他所では大規模なものはないとのことだった。センター開放行動の餅つきが1月1日に行われるくらいだという。

  三角公園に行くと、いつもの「勝ち取る会」  の炊き出しがあった。1日の日の メニューはおにぎりで、ゆかりやのりたまを混ぜ込んだご飯をみんなで握っていた。公園の外では、弁当やお菓子を積んだワインレッドの自家用車が停まっていた。公園のフェンス沿いに長い列が出来ていた。数人の男女が1人ずつに弁当やお菓子を手渡している。どういう団体かもよく分からなかった。自家用車には団体名はなく、弁当を配っている人たちも、腕章や名札をつけていなかった。
  後で知り合いに聞くと、「毎年色んな人がああやって弁当を配りにくるよ。中には宗教関係者や貧困ビジネスもある。でも、おっちゃんらはもらえればそれでいいから、並んでいるんだね」と答えた。

  センター開放行動の餅つきに参加。12月1日に大阪府が行ったセンター強制執行のために、共同炊事の道具を持っていかれた。引き取りに行ったものの、すべてが戻ってきた訳では無い。足りないものも多い中で、餅つきだけでもと思った人たちの思いは暖かい。

  洗い物などに使う  水を汲みに行くと、おっちゃんが声をかけてきた。「今日は餅つき何時から?」「12時からだって。おっちゃんも餅つきしてね」「俺、あちこち身体悪いからなあ」といいながらも嬉しそうだ。釜ヶ崎の正月はいつも、路上市が立つ。DVDや衣類、靴など、辻辻で路上市が賑わっている。
  餅つきが始まると、「よいしょ、よいしょ」と杵を振るう人に合わせて掛け声が起こった。今年はギター演奏も参加し、にぎやかな年明けだった。昨年のセンター強制執行を吹き飛ばすような、明るい笑顔が沢山集まって嬉しい。おっちゃんたちがついた餅を、きな粉やしょうゆ、のりなどにからめていく。寒さで凍えていく餅を手早く丸める。
  毎年大活躍の、元料理人のおじさんも駆けつけた。
今年こそよい年になるようにと思う。

  12月30日から始まった扇町公園「釜ヶ崎パトロールの会」の越冬。こちらは約20人の野宿者が集まる。
31日には年越しそばが振る舞われ、3日には餅つきが行われた。
  31日の夜回りに参加したが、天神橋筋商店街で6人の野宿者に出会った。印象的だったのは、自転車で放浪する初老の男性だった。自転車の前かごにビニール袋に入った何かを沢山詰め、自転車の後ろにもビニールのようなものを引きずって歩いていた。
パンやカイロを渡すと、とたんにしゃべりだした。
「俺は〇〇に1千万貸しているんだ」と声高に話す男性。夜回りメンバーは、「あのおじさんは、誰にも相手にしてもらえず淋しいんだ。だから、近寄るとしゃべりだすんだよ」と言った。
  商店街の奥にある大阪天満宮に初詣に向かう若い人たちが、その横を大声で笑いながら通り過ぎた。この日は地下鉄が終日運行だったから、時間が遅くなる毎に、若者の数は増えていった。
  彼らとは違う時間がここに流れている。そう思った。
  私は最近、友人とライブをするようになった。下手くそな歌を上手にギターでフォローしてくれる友人に救われ、何度か路上ライブができた。
  私はいつも、アカペラで「野に咲く花のように」を歌う。花屋さんに並ぶ、手入れされた美しい花もいいが、私はどちらかといえば野に咲くアザミや露草が好きだ。田舎で育ったせいもあるかもしれないが、その野太さ、たくましさ、素朴さが好きだからだ。
  釜ヶ崎や扇町で一緒に語り合ったおっちゃんらを思い出すと、そこにはたんぽぽのような暖かさと素朴さと自由さがある。だから私はこの歌を歌う。おっちゃんたちにに向けて。
  


  


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