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「流浪の月」読了

―流浪の月― 2020年本屋大賞受賞 第41回(2020年)吉川英治文学新人賞候補作

ストーリー
雨の公園で、10歳の少女・家内更紗がびしょ濡れになっているのを目にした19歳の大学生・佐伯文。更紗に傘を差し出した文は、引き取られている伯母の家に帰りたくないという彼女の気持ちを知り、自分の部屋に入れる。そのまま更紗は文のもとで2か月を過ごし、そのことで文は誘拐犯として逮捕されてしまう。被害女児、加害者というらく印を押された更紗と文は、15年後に思わぬ再会をはたす

出典シネマトゥデイ

とにかく読んでほしい。そう思っている。
この本に全部書いてある。形に囚われない愛。
どこにも所属しない愛。説明のつかない愛。

幸せな3人家族から話は始まる。
主人公更紗は永遠に続くと思っていたこの幸せを失うことになってしまう。父親は亡くなり、母親は男性と家を出ていってしまうのだ。親戚の家に預けられて居場所をなくす更紗。
そして、大学生文と出会う。

この2人、男女として惹かれあうのではない。お互いの持っていない部分を補いあうかのように必要不可欠な存在となっていくのだ。ただそれが大学生の19才の青年の家にいたということが、2人を苦しめることになっていく。

愛ではない。恋ではない。家族でもなく友達でもない。
一緒にいて1番リラックスできる。
自然体な自分を見せることができるっていう相手。
一時のボタンの掛け違いで、文は誘拐犯とされ逮捕されて、2人が会うことはなくなる。

更紗
可哀想な女の子と言われて育つ。
誘拐犯と共に暮らした過去のある心の傷の癒えない可哀想な子。本人はいつも思っている、文は素敵な人だと。何も悪くない。私がそばにいたかっただけ。
15年の月日が流れようとデジタルタトゥーの存在が2人の名前なき愛を許さない。
周りの人達の悪気のない善意。
この善意が更紗をどんなに苦しめることか。

佐伯文
1人暮らしの大学生。大人の女性を愛することが出来ず、公園で時間を潰しながら女の子達を眺めていた。熱心な母親に育てられて自分はでき損ないだと、孤独を強めている。
外にいても家のなかにいても姿勢は正しく、きっかりとした時間に寝起きをして食事をとる。もちろん人の嫌がることをしない。更紗の意見を尊重し愛おしいと思う。
更紗のことを、バカだなぁと思いながらその自由奔放さに心を奪われていく。
でもやっぱりそれは愛ではなく恋でもなかった。

離ればなれになってからの、それぞれの描写が苦しい。
更紗は文の人生を滅茶苦茶にしたのは自分だと思い続けるし、もう会えないと思いながら会いたいと心の奥底でじんわりとしたものをかかえているのだから。
結婚を考える彼ができても、もし文だったら?
文なら?なんていうだろう?と無意識に文を求めてしまう。
あの頃の文と過ごした柔らかいくすぐったい時間を胸にしまいきれない。

そして、文も更紗のことを自分の希望だったと思っている。
自分の愚かさを恨み、更紗に会う資格などないと、自分はあの頃の自分ではないと、穏やかそうなものに身を包みながら更紗を求めていたのだ。
お互いが、お互いから強く嫌悪されていると思い込んでいた。
そうではなかったのに。2人はずっとお互いの幸せだけを祈っていた。

涙が止まらなかった。こんな呼び名のない愛なのに、こんなに人を惹き付ける愛が他にあるのだろうか。

2人は孤独だった。だから初めて会ったときから好きだった(と、私は思いたい)好きになっていった(と、私は感じたい)

文はロリコンではなかったし、更紗も可哀想な子ではなかった。
2人が再会して、最初はたじろぎながら急速に接近するシーンは息をのんだ。
そしてこのまま昔のように幸せな時間が流れていくことを祈った。
少しずつ少しずつ距離を縮めていく2人にどうかこれ以上の邪魔が入りませんように。
迷いながらどうするべきなのかと読者の私も考えていた。

2人は決められていたかのように、最期はお互いを求めて幸せになろうとするところで物語りは終わる。

流浪
流浪とは住む所を定めず、さまよい歩くこと。だそうだ。
2人は転々と住むところを変えていく。
月は形をかえいつもと違うものになっていく。それはあの2人なのではないか?
個人的解釈なのでわからない。
住むところをかえて形を変えていく。
流浪の月。
読後は放心状態で、2人を大切に思った。

:追記
描写の中で特に印象に残っているシーンを書くのを忘れてしまった。アイスクリーム。
更紗は両親と一緒にいた頃は夕飯にアイスクリームを食べる事を許されていた。
それを、まわりは怪訝そうな顔をしておかしいと言った。
文の家に行き、夕飯にアイスクリームを食べたいとねだったとき文は不思議そうな顔をしても、否定はしなかった。
あの時、更紗は恋ではなく愛に落ちたんじゃないのかなと思っている。愛に落ちるという表現があるのかはわからないけれど、文もその愛の中に一緒に入っていったのだと思う。


※詳しい内容は省きました。個人的見解です。
ぜひお手にとってほしい1冊。

それでは



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