見出し画像

雪見知り

降ると思っていた雪は降らなかった。
あんなに大騒ぎしたのに朝からシトシト弱い雨が降っていた。

ああ良かったと思っている自分と雪が降ったら降ったで知らない世界が広がったかも知れない。知らない世界がまた見えたかもしれない。

私のなかで矛盾が錯綜している。

私は雪見知りだ。
人見知りではない、雪見知り。

子供の頃、あんなに胸を踊らせた待望の積雪は大人になった私を萎えさせるだけの現象になってしまった。
小学生まで団地の三階に住んでいたから、
雪の降り始めは必ずベランダに出て上を向いてみた。自然と口の中に入り込んでくる冷たい灰雪を食べた。

公園で友達と走り回って
「かき氷にして食べたいね」なんて話したこともあったけれど、それは叶わなかった。
イチゴやメロンのかき氷シロップが冷凍庫に保存してあったらかけて食べたかもしれない。
そんな思いを口にしたあとで、すぐ他の楽しみを見つける天才だった私達は、雪だるまを作り、雪合戦をして、雪合戦で本気で雪の塊を投げつけられて耳に当たって大泣きした。
「先生に言うから!」
最後の切り札を出せば
「ごめん!ごめんてば!」
とおちゃらけて謝る男子を油断させている隙に私チームの友達がその子目掛けて雪玉を投げる。
雪玉は全然違う方向に飛んでいってしまって、「あー」とか言うのだけれど。
手袋も何の意味もないくらいビショビショになるわ、長靴を履いていなかったりするから
全身が冷えてみんなでブルブル震えた。

手が悴んでほっぺたも真っ赤になる。
それでもなかなかお目にかかることのない雪の降らない地域で育った私にとっては違う世界に飛んでいける術であったから。
雪の国のお姫様ごっこもした。

たまーに、降る大雪の時は団地の一階の砂場の脇にかまくらを作った。
次の日に学校が始まる前に、そのかまくらを見に行った。
「固まってたよ」
家でまだ寝ている妹に報告をして
学校から帰ってくるまでに溶けなければいいのにねとかなんとか話したような気がする。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ここ数年は大雪が降るなんて年に一度あるかないか。
雪見知りな私はニュースでアナウンサーが何度も唱える「不要不急の外出は控えましょう」を素直に聞く。

車で雪道を運転してスピンした過去もある。
免許取り立て、怖いもの知らずの運転大好き人間だった(今じゃ真逆)

一人ドライブ帰り、ハラハラ降り始めた雪に
「まじで?こわっ」
とか言いながらMDから流れてくるフリッパーズギターを聴いて、全部歌えちゃうよねとひとりごちる。
もうワイパーの意味もないくらいの大きな雪の塊があとからあとから降ってきて、道路にも積もっていく。

実家の前の通り、もうすぐ家が見えてくるという辺りでタイヤが取られてクルーンと車が回ってしまい、反対車線へ。この時ばかりは
「神様~」
と叫んだような。不幸中の幸いで対向車も、人も、誰も何もかもがいなかった。

外に出て運転していた私は本当にアホだったんだとわかる。(ノーマルタイヤ)
父の車を平気で乗り回していた。

だからってわけではないけれど、
雪は恐怖の対象でもある。
雪に慣れていないから、パニックになってしまうのだ。
交通機関が乱れているなんて分かると、テレビの前で立ちすくす。
玉突き事故のニュースは動悸がして怪我人が出たと聞けば引きこもりを決め込む。
こたつに潜り込んでいたい。

少し経つと家のリビングの窓に張りついて様子を伺ってみたりする。
「綺麗なんだけど、怖いの」

今度は玄関から外にでてみる。
わたあめ
みたい。


「私を嫌わないで」

そうだよね。
年に一度もちゃんと話したこともないのにね。
雪見知り。
直さないとね。
ちゃんと向き合ったことがなかったね。
今年はどうなるのかな?
この次に会えたら
「キレイだね」っていうから。



それでは








いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集