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自助グループと依存症からの回復

 クスリを使ってた時の話ばかりではなく、たまにはちゃんと回復についての話も書こうと思います。
 依存症界隈の方にはおなじみとはいえ、世間一般にはまだまだ認知度が低い「自助グループ」の存在。アメリカの映画やドラマでは日常的に描かれることが多く、ミーティング風景(参加者が車座になって「ハーイ、ジム」とかいうアレです)も社会に浸透していますが、日本で実際にミーティング参加経験のある人は1%未満かと思います。
 今でこそ、日本発祥の自助グループも色々と存在していますが、そのルーツはといえばアメリカ発祥でアルコール依存症者のためのAA(アルコホーリクス アノニマス)であり、AAの根幹をなす12ステッププログラムに他なりません。
  12ステップに関心のある方は、ぜひビッグブック(『アルコホーリクス アノニマス』)をお読みください。依存症や問題行動からの回復に絶大な力を発揮することでしょう。
 薬物依存症の場合はNA(ナルコティクス アノニマス)が主な自助グループになります(欧米では覚醒剤に特化した自助グループ(Crystal Meth Anonymous; CMA)もありますが、2024年現在、日本にはまだ正式なグループやミーティング会場はありません)。定期的にNAミーティングに通っているアクティブなメンバーは、実感だと全国に5000人〜1万人くらいでしょうか。メンバー同士が定期的にミーティングと呼ばれる集会を開き、回復のメッセージを分かち合っています。
 自助グループをご存じない方にありがちな誤解として、「いつまでもヤク中同士がつるんで、傷の舐め合いをしてるからクスリが止まらないんだろう」という見方があります。私はこの意見には明確に否を唱えておきます。薬物依存症は、意志が強い弱いという問題ではなく、WHOが定める国際疾病分類ICD-11にも記述された、れっきとした精神疾患です。そしてその治療には、認知行動療法がもっとも有効であることを多くのエビデンスが示しています。この認知行動療法を民間で(ほぼ無料に近い形で)継続的に提供しているのが自助グループのミーティングです(依存症の専門病院、自治体等で提供される認知行動療法には、日本発祥のSMARPPなどがあります)。定期的に、安価で、身近な場所で回復の手助けをしてくれる、それが依存症者にとっての自助グループであり、ミーティングの存在意義です。
 依存症の急性期には、たとえば解毒入院など、病院が果たす役割も大きいものがあります。ただ、長い人生において入院できるのはごくわずかな期間でしかありません。ずっと入院し続けて24時間看護してもらえるわけではなく、また仕事を持ったら毎日病院のデイケアに通うことも難しくなります。そうしたときに力を発揮するのが、自助グループのミーティングです。病院の外に出て、社会の中で依存症から回復をはかるときには欠かせない存在なのです。
 私自身、精神病院から退院した後も、しばらくクスリを使いたいという欲求が完全に収まることはありませんでした。衝動を否定せずに正面から向き合い、病気に対して自分の無力を認め、「使いたいけど使わないという選択をすること」、それが可能になったのは毎週通っているミーティングと、そこでお互いに支え合う自助グループの仲間のお陰でした。
 自分が薬物依存症で、それが生涯完治しないと知ったとき、私はもう自分はどん底に落ちたと思いました。しかし、自助グループの仲間と交流を深めていくうちに、その地獄のどん底は案外豊かだったことに気付かされたのです。むしろ今は自分が薬物依存症になったことは、神から与えられた恵みだったと考えています(クリスチャンなので、神という言葉を使うことをお許しください)。たぶん依存症でなければ、自分はもっと自己中心的で友人の少ない、自己嫌悪に満ちた惨めな人生を歩んでいたでしょう。依存症であるがゆえに、世界中の依存症者と仲間になれるし、365日仲間とともにいられるのです。私は幸せな薬物依存症者です。

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