
メリークリスマス?
「やい!その金庫を開けてもらおうか。」
ナイフをこっちに向けた男が僕に言う。
こんなクリスマスの夜に強盗に来るなんて、あなたはサンタさんですね?
僕は笑顔で強盗に話しかける。
「やかましい。意味のわからんことを言うな。俺にはクリスマスなんて関係ねぇ。幸せなヤツからちょっとばかしお金をふんだくったって罰はあたるまい」
はい、全然当たらないと僕も思います。
僕はニコニコしながら言う。
「金持ちは頭の中がハッピーでいいな。セキュリティも甘かったぞ。なんでもいいからその金庫を開けろ。このナイフでクザーッと刺されたくなかったらな」
でも、その金庫には金目の物は入ってないですよ。
それに開けない方があなたのためです。
僕は淡々と答える。
「そんな脅しは俺には通用しないぞ。これまでいくつもの空き巣を経験しているんだ。筋金入りってやつさ」
じゃあ試してみたらいいですよ。
僕は忠告しましたからね。
その金庫は解錠に3回失敗すると自動で開きます。
でも そしたらきっとあなたは 死んだほうがマシ だと思うはずですよ。
今日はクリスマスだから特別に教えます。
あなたはサンタさんですしね。
「そんなわけあるかいな。金持ちは貧乏人をバカだと思っていやがる。この孤高の天才空き巣と恐れられた俺の実力を見せてやる」
暗証番号は「89302」です。
やめるなら今の内ですよ?
僕なら絶対に開けません。
「そんなセコい手に乗るかよ!それに ここまで来て辞められるかってんだ。こんなもんはちょちょいのちょいと…あっ」
あ、ほら焦るから番号間違ってますよ。
慌てん坊なサンタさんですね。
あと2回の失敗で開いちゃいますよ。
今ならまだ間に合います。
僕も警察には言いませんとも。
さぉお逃げなさい。
「舐めやがってこんちくしょー!」
ピピピ。
電子音が鳴り金庫のロックが解錠された。
「ほ、ほら なーんにも起こらなじゃないか」
ちょっとビクビクしてるじゃないですか。
それ開けたら本当に死んだほうがマシだと思いますよ。
「あーうるさいうるさい。金持ちの負け惜しみも良いもんだが、今は金だ。さぁ今日は豪華なクリスマスディナーとしゃれこもう」
あーぁ開けちゃった。
「な、何にも入ってないじゃないか!金はどこだ!」
僕はずーっとはじめから言ってたじゃないですか、金目の物は入ってませんよって。
ね、何もないでしょ?
今日はクリスマスですし僕も事を荒らげたくない。
今すぐ帰るなら警察には言いません。
全て忘れましょう。
「ムムム。こうなっては仕方がない。今日はクリスマスだからこれぐらいで勘弁してやろう。絶対にチクるんじゃねぇぞ」
あ、帰る前に最後にひとこと言わせてください。
ありがとうこざいました。メリークリスマス。
「金持ちはほんとに頭の中がハッピーだな」
強盗はトボトボと暗い路地を歩く。
「あー今日はさみしく牛丼でも食って帰るか…」
ひとりさみしく歩く強盗の頭の上から声が聞こえる。
「ひょひょひょひょ。いやぁ助かったぞい。おんしが助けてくれたのか。感謝感謝じゃ」
しわがれたお爺さんのような声が聞こえる。
「だ、だれだ!」
強盗は慌てふためく。
「ひょひょひょひょ。その貧相な顔。出来の悪い頭。最高じゃわい。今後とも末永くよろしくの」
「だれが貧相な顔だ!てめぇ顔を見せやがれ!」
強盗はナイフを取り出し凄んでみせる。
「ひょひょひょひょ。ワシはの…あの金庫に封印されておった貧乏人神じゃ」
「いやぁまっことメリークリスマスじゃわい」