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身代わり地蔵

「おーい、ばぁちゃん ちょっと金くれよ」

俺はパチンコに負けて今日の夕食もままならない。
ばぁちゃんは渋々といった感じで3千円をくれる。

「ありがとな」

これだけかよ。
なんてことはもちろん言わない。
俺はひとの気持ちがわかる利口な男だからな。

でもこれじゃ焼肉いけねぇな。
ちょっくら蔵の中から お宝でも拝借するかね。
用意周到な俺はバッチリ蔵の合鍵を作ってある。

ほら一発で開いたぞ。

ひゃー暗いなぁ。
でも用意周到な俺は小型ライトをいつも携帯しているだよ。

こないだ売った皿は中々いい値段になった。
今日はどれにしようか。
掛け軸はリサイクルショップじゃ買い取ってくれないし、壺は沢山もっていけないし…。

俺はお宝を求めてどんどん奥に入っていく。
先月、事故を起こし不自由になった左足を引きずりながら。

「イタタタ」

ちくしょーこの足さえ動けば俺だってちゃんと仕事してこんなコソドロみたいなことしなくて済むのに。
文句を言っていると小型ライトが床についている金具を捉えた。

金の装飾が施された丸い輪っかがふたつ。

「こりゃ扉か?この蔵に地下があるのか?」

そんな話は聞いたことがない。
お宝の匂いがぷんぷんする。
どうやら観音開きの扉らしい。
片方のとってを握り力いっぱい引き上げる。

ギギギ…と鈍い音を立てて扉は持ち上がる。

カビ臭い。
俺はとっさに袖で鼻を覆う。

階段だ。
途中で横におれているので地下室の様子はわからない。

こりゃきっととんでもないお宝があるに違いない。
俺はワクワクしながら小型ライトで照らしながら階段を降りていく。

折れ曲がった階段を下りきると、高さ1メートル程の地蔵がある。

なんだよ地蔵かよ。
こんなもん売れねぇよ。
てゆーかこんな所において罰があたるぞ。

俺は地蔵の他に何か金目のものはないな物色する。

「なんにもねぇな。 ん?あれ?え?うそだろ…?」

この地蔵もしかして、とんでもないお宝なんじゃないか?

「足が痛くねぇ!!」

俺はその場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。

「この地蔵のご利益ってやつか!?あんのババァこんなに良いもん隠し持ってやがったのか!どおりで歳のわりに元気なわけだ!」

ババァをとっちめてやりたい衝動に駆られるが、もっと良いことを思いついてやめた。

今日のところは出直そう。

「地蔵さん、また今度こっから出してやるからな」

俺はそう言い残し、階段を一段とばしで駆け上がり、家路についた。


翌日から俺は大忙し。
地元の大工に連絡し、ババァの家の庭に小さな小堂と賽銭箱をの作成を依頼した。

工事当日はババァには温泉旅行をプレゼントして厄介払いしてある。

建築費に旅行代とかなりの出費だが、これは必要経費だ。なにせ、これから俺は死ぬまで働かなくても楽に稼げるんだからな。

大工に依頼して地蔵を蔵から運んでもらい小堂に安置した。

大工って職業は体のあちこちを痛めているらしい。
はじめは俺の説明に半信半疑だったクセに、小堂に入れたころにはすっかり舞い上がっていやがった。

小堂を作ってもらったから今回はタダでいいだろう。
次回からは拝観料ひとり一万円いただくとしよう。

大工は小堂の料金を吊り上げようとしてきたが踏み倒してやった。
あの恩知らずどもめ。

特に宣伝しなくても次々と参拝客はやってきた。
本物のご利益ってやつは宣伝なんていらないんだな。
ご利益にあやかってから一万円は高いと文句を言うヤツが多い。
まったく腹の立つヤツらだ。


「こ、こりゃなんの騒ぎじゃ」

チッ…ババァが帰って来やがったか。

「ちょっと稼いだらすぐに小堂ごと他所にいくからしばらく庭を借りるぜ」

俺は賽銭箱から三万円を取り出しババァに投げつける。

「ほら これは庭の使用料だ。黙ってみてろよ」

涙を流し やめるように言うババァを家に押し込み、俺は参拝客が参拝料を誤魔化していないか見張っていた。

参拝客は皆 感謝して帰っていった。

しかし、リピーターが増え始めた頃 参拝料を払わない輩が増え始めた。

ずっと見張っていなくてはいけない。
これはこれで楽ではない。
俺は楽して稼ぎたいのに。

それにゴミを捨てていくヤツ、立ち小便をしたり喧嘩をするヤツも日増に多くなっていった。

これは何かがおかしい。

家の柱に縛り付けてあるババァに問いただす。
ここ最近は口を出さないように痛めつけては地蔵に治療してもらっているのだ。

「あれは呪われた地蔵なのじゃ。病や痛みを人々から取り除くと同時に良心をも奪っていくのじゃ」

「我が家では先祖代々、あの地蔵を封印する役目を担ってきたのじゃ」

「しかし、先月の事故でおまえの両親は死に、おまえも瀕死の重傷じゃった」


俺はババァに張り手を食らわし大声で怒鳴る。

「そんな与太話はどうでもいいんだよっ!どうやったら解決できるのかって聞いてんだよ!」

俺はワナワナと震えるがババァは話すことをやめない。

「瀕死のおまえをなんとか地蔵の前まで運び入れ、傷の手当てをしたんじゃ。しかし、この重傷を取り除けば良心が根こそぎもっていかれると思い、死なない程度に傷が癒えた時に地蔵から離したのじゃ」

「それでもおまえは変わってしまった。一流の会社に勤めていたのに 日々パチンコに明け暮れ、金をせびるようになり あげくの果てには地蔵を運び出し金儲けをしようなどと馬鹿なことを…」

ババァの独白に俺は鼻白んだ。

「なるほどなるほど…よぉ〜くわかったぜ。金儲けの方法がなッ」

俺はババァの腹を殴る。
なるほど良心は痛まない。
ババァの言っていることは本当らしい。

「後生じゃ…この縄を解いておくれ。このままじゃ本当に死んでもしまう」

俺は笑いながら答える。

「なぁバァさん。あんまり俺を舐めない方がいいぞ?毎日地蔵に痛みを和らげてもらっているあんたに良心なんてこれっぽっちも残っちゃいないだろう」

「良心がないってことは慢心はないし どこまでも冷徹になれる。これが人間の本来の姿なのかもな」

「あんたはこのまま置いていく。後は運に身を任せるんだな。今こそ本物の仏さまに祈ったらどうだい?」

高笑いを残し俺は作業に移った。


「確かにこいつは危険な地蔵だが、金のなる木であることは間違いない」


俺は地蔵を海外の紛争地へと移した。
小堂には自動ドアを設置して電子決済で支払いをしないと入れないようにしてある。
俺は日本にいながら毎日多額の電子マネーをGETしている。
良心を無くした人々は戦争を止めることが出来ず負傷者はうなぎ登り。
さらに負傷者は地蔵の力で復活する為、戦争は長引く。

フフフ。
俺から良心を根こそぎ奪ってくれた地蔵には感謝してもしたりない。

人間からいらない良心までも肩代わりしてくれるあの地蔵は 本当の意味で身代わり地蔵なんだな。



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