過剰適応が招く不適応〜大仰型ASDについて
ASDのタイプと特徴
ASD(自閉スペクトラム症、いわゆる発達障害)には5つのタイプがあります。積極奇異型、受動型、孤立型、それに尊大型、大仰型です。
前者3つ(積極奇異、受動、孤立)はASDの
本質的な特性(社会性の障害、コミュニケーションの障害、こだわり:ウィングの三つ組)
がそのまま表に出ているようなタイプ、
対して後者2つ(尊大、大仰)は本来のASDの特性に他の要素を重ねたタイプのASDを言います。
ASDの各タイプの特徴やウィングの三つ組については、過去の私の記事にもいくつか書いておりますので、良ければそちらもご覧ください。
優等生の入院患者さん
先日、とあるニュースにもなった事件を発端に、
初めて精神科に入院になった患者さんがいました。
どんな方が来るのだろう、と身構えていたのですが、実際には虫も殺さないような大人しそうな方が来ました。
それどころか入院するなりニコニコと周囲に愛想を振る舞い、病棟スタッフとすれ違うと立ち止まって会釈し、「早く退院して社会復帰したい」と笑顔で意気込まれるのです。
自身の置かれた状況的にそれだけでも違和感を感じざるを得ませんでしたが、彼の特徴として兎に角
過剰に丁寧な言葉遣いが目立ちました。
よく言葉も知っていて(実際に知能検査でも言語能力が凸)、情感や表現力も豊かで、一見するとコミュニケーションには問題があるように見えません。
しかし入院して1ヶ月が過ぎると、彼にある変化が出てきました。
入院直後にはあれだけ生き生きとしていたにも関わらず、徐々に表情が暗くなり、部屋にこもるようになったのです。
入院中「優等生」でもあったので、状況的にも退院に向けて順調に進んでいる矢先のことでした。
大仰型ASDに隠された本質
結論から言うと、この方は大仰型ASDと呼ばれるタイプのASDでした。
過剰に丁寧な言葉遣いや大袈裟な振る舞いは、ASD本来の特性を取り繕ってのものでした(擬態)。
取り繕うとは言っても、本人はほぼ無意識で振る舞っていると思われます。
人は不安や危機に相対した時に、「防衛機制」と呼ばれる無意識の心の動きが働きますが、
大仰型のASDの方は、「反動形成」と呼ばれる防衛機制を働かせます。不安や不快感に対して、それとは逆の振る舞いをするのです。
退院も近づいてきた頃、この方の病室を見させてもらいました。
ハンガーにかけられ等間隔に整然と干された服、
四つ折りにされたハンドペーパーが何枚も重ねて置いてあり、その割には部屋全体として見るとあまり片付いていない印象でした。
極め付けは縦に何列にも折られたA4の用紙、その中心線に沿ってびっしりと文字(の練習)が何列にもわたって書かれていました。
大仰な振る舞いの裏に隠されていた、
彼が無意識のうちに防衛していたのは、
彼独特の強過ぎる「こだわり」だったのです。
周りはそれを理解してあげる、と言うと聞こえはいいかもしれませんが、
何よりも大事なことは大仰型ASDの方がそれを認識し、自分自身のこだわりを隠さずに表に出していく、出せるようにしていくことだと思います。
この方も入院当初の過剰適応は長くは続かず、むしろ破綻し不適応に陥りました。長く深い仲でもある家族間では、擬態していては関係性は続きません。
以前の記事にも書きましたが、究極的には相手も傷つけず自分の主張もする、アサーティブな対応を身につけるのが望ましいのです。何も世の中全員に好かれる必要はないのです。
最後までお読みいただきありがとうございました。